見出し画像

私は国家の主として君臨している。
まず我が国家の国民総数は私を含め5人だ。
外務大臣は王妃である妻。
そして財務大臣1名、防衛大臣1名、残る1名は経済産業に総務を兼任している。この3名は私と王妃との間に産まれた我が子達である。

なぜ私が国を立ち上げたのか。あるいは国として認められたのか。
DX化(デジタルトランスフォーメーション)が叫ばれる世の中、デジタル技術推進と同時にアナログの排除がおこなわれており、ロートルである層は老害と呼ばれ隅に追いやられている。
私はいわゆるIT企業に勤務し日々黙々とパソコンの前にむかい、やれエクセルだのやれワードだのを業務内容に沿って作成していた。

時代の歩みは急速で生活の利便性はどんどんと増していたので、大概の文章は文字1つ打てば優秀なAIが予測変換で完成させてくれる。
社員は一様にイヤフォンで音楽を聞きながら、空調の音が抑えめに流れているオフィスでパソコンの奴隷と成り下がっていた。
休憩時間はモニターにポップアップが表示されるので、それを見て皆は煙を吸いに行ったり、自販機で飲み物を購入しマッサージチェアのある休憩室へ向かったりする。社内で仲の良い人同士でつるむという光景はいまやとても珍しいものだ。

人間同士のコミュニケーションは希薄である。なぜなら時代の進化や技術の発展においてコストパフォーマンスが悪いとされているからだ。なんなら人間関係を形成すればするほど人的ストレスが蓄積されるので精神クリニックに通う層が増加するとまで言われている。

王となる前の一般人であった私も例外ではなく、家族以外に会社やプライベートで極力人を避ける生活を送っていた。
エクセルでその日27つ目のデータ資料を作成し、右側に予備としておいてあるモニターにふと目をやるとブラウザが開いている。これはあくまで業務内容に関わる検索をする時に使用する側のモニターなのだが私はブラウザを開いた覚えはない。ノルウェーの企業が14年ほど前にベータ版をリリースしたものだっただろうか。
当然検索履歴などは検閲されているはずだが、出来心で試しに「日本」と打ち込んでみた。

そこで出てきた検索結果一覧に驚きを隠せなかった。なんだ、これは?
なにかのフェイクサイトや誰かのいたずらか?
私の情報がわんさか表示されている。一番上に東京都〇〇と戸籍が表示され子供の頃に登録したSNS、学歴、趣味、年齢ごとの顔写真、とうの昔に記憶から消していた過去…
少し大きな声であっと発声してしまったものの、周囲は私の様子に気づく気配は一切ない。

そこで…私は見つけてしまった…

“ デジタル統制変革期 ”
と私の年表に書かれたリンクを。
早速クリックしてみると、何故日本の経済が衰退し他人とのコミュニケーションが浅くなり、すべての小売店から店員という存在が消失して自動レジになったかなどを始め、劇的にアナログ排除の一途を辿った国の経緯と理由が記されていた。
もちろん表向きテレビでもネットでもニュースは観ていたし、愚痴や文句を言いながらもクーデターを起こさないこの国では当然のごとく自然と変化していくしかなかったと思っている。

しかし、違った。

うさんくさい、怪しい状況ではあるが信じるに足る内容が詳らかに記されているのだ。試しに書いてあるナンバーを手首にプッシュしてみる…
「はい」
繋がった、女性の声だ。
「すみません、只今〇〇様はご在宅でしょうか?佐藤と申します。」
「大変申し訳ございませんが、〇〇様は15年前に亡くなられました。現在は長男の△△様が住んでおります。なにかご用でしたでしょうか?」
「いえ、改めてまた掛けなおします。」

間違いない……日本を新たなIT先進国にと掲げ政治活動をおこなっていた官僚〇〇の自宅だ。デジタル推進により職を失う恐れから過激なデモをしていた集団のうち一人が15年前にテロを起こして〇〇を殺害、その場で自殺をした事件があった。
表示されているページ内にもう1つリンクが…

“ 現代における新国家樹立の方法 ”

私は急ぎデスクの下部に置いてあるプリンタでリンク先ページを印刷し、帰宅後無我夢中で読んだ。
そうだ…私は思い出した。元来人好きで誰を差別するともなく笑顔でいたあの頃を…家族を愛する気持ちを。これ以上この国の消耗品として人生を終える気はない。
かつては国連の承認や国家として認められるために大きなハードルが設けられていたらしいが、この方法に書いてある手順を踏めば家族5人で国家を建設し、すべてのしがらみから解放されるらしい。

翌日、会社を休み実行に移したところ即座に新国家の証明書が発行、全世界へ告知され晴れてこの自宅の敷地内が独立国家となった。

すぐさま王である私の電話やメールボックスがありえない量の着信やメッセージによって埋め尽くされた。
皆どうやら独立したいらしい。
そうだな次の一手は………

#短編
#ショートショート
#小説
#2000字のホラー

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?