工学的ストーリー創作入門:本で学ぶ物語の作り方『マトリックス』編
0.前書き
ストーリーを作るという作業は、アイデアを形にし、キャラクターに命を吹き込み、テーマを織り込みながらプロットを緻密に組み立てる作業です。ここでは、映画『マトリックス』を具体例に取り、ストーリー作りの各要素を解説します。
1.コンセプト:物語の問いを設定する
まず、物語は「アイデア」から始まりますが、それをストーリーに発展させるには、問いを設定して「コンセプト」にまで昇華させる必要があります。『マトリックス』のコンセプトは、「もし現実だと思っている世界が全て仮想現実だったら?」という問いです。この問いが、物語全体を通して重要なテーマを生み出します。
物語を作る際の最初のステップは、単なるアイデアを「問い」にすることです。この問いが物語の中心に据えられ、その問いに対する答えが物語の進行に反映されていきます。『マトリックス』の場合、「現実とは何か?」という問いがコンセプトの核です。主人公ネオは、この問いに対する答えを探し、仮想現実からの覚醒と自己発見を経験します。
考えるべきこと①
自分の物語で「もし〜だったら?」という問いを設定してみましょう。例えば、「もし全てが偽りの世界で、その真実に気づいたら?」など、ストーリー全体の基盤となる問いを考えます。この問いが明確であれば、物語の方向性が定まります。どのような問いが物語の中心に据えられているか、その問いに対してキャラクターがどう行動し、物語がどのように展開していくのかを意識しましょう。
2.キャラクターの三次元:キャラクターに深みを持たせる方法
キャラクターはストーリーの核であり、彼らの行動や成長が物語を動かしていきます。『マトリックス』のネオは、物語を通じて大きな成長を遂げるキャラクターであり、その変化を「キャラクターの三次元」で捉えることができます。
第一の次元:外見と行動
「第一の次元」は、キャラクターの外見や表面的な行動を描く部分です。ネオは、物語の序盤では普通のプログラマーであり、日常的な生活を送っています。彼の行動は受動的で、彼が現実に対して疑問を持ち始めるものの、それに行動を起こせない状態です。この段階では、ネオの表面的な特徴や行動に焦点が当てられています。
第二の次元:内面の葛藤と動機
「第二の次元」では、キャラクターの行動の裏にある内面的な葛藤や動機を描写します。ネオの場合、「自分の正体は何か?」「現実の真実は何か?」という強い疑念が彼を動かします。彼は現実世界に違和感を抱き、真実を知りたいという内面的な欲求が彼の行動の原動力となります。
第三の次元:キャラクターの変化や成長
「第三の次元」は、キャラクターが物語を通じてどのように成長し、変化するかを描きます。ネオは、物語を通じて「選ばれし者」として目覚め、仮想現実を打ち破る能力を身につけます。最終的に、彼は自己の真実を発見し、マトリックスを超える存在へと成長します。この成長の過程が、ネオのキャラクターアークとして物語を通じて描かれます。
考えるべきこと②
キャラクターの表面的な行動(第一の次元)だけでなく、その裏にある内面的な動機や葛藤(第二の次元)、そして物語を通じての成長(第三の次元)を意識して描いてみましょう。これによって、キャラクターが立体的に描かれ、読者に強い印象を与えることができます。
3.テーマ:物語が伝えるメッセージを深く掘り下げる
テーマは物語全体に貫かれるメッセージや思想です。『マトリックス』のテーマは、「現実とは何か?」という問いに対する探求です。ネオは、現実と思っていた世界が仮想現実であることを知り、真実と向き合います。さらに、物語は「自由意志と運命」「覚醒と自己発見」といったテーマにも焦点を当てています。
考えるべきこと③
自分の物語のテーマは何か? そのテーマがキャラクターやプロットにどのように影響しているかを考え、物語全体に一貫性を持たせましょう。テーマはストーリーの根底に流れるメッセージであり、キャラクターの成長や選択に影響を与える重要な要素です。
4.コンフリクトとキャラクターアーク:試練を乗り越えて成長するキャラクター
物語には、キャラクターが直面する「コンフリクト(対立や葛藤)」が不可欠です。このコンフリクトが、キャラクターの成長や変化を促します。『マトリックス』では、ネオがさまざまな外的・内的な試練に直面し、それを乗り越えることで成長します。
外的コンフリクト:マトリックスと戦う
ネオは仮想現実であるマトリックスと戦い、その支配から逃れようとします。エージェントとの対決や、仮想現実を超越するための試練が彼を待ち受けています。
内的コンフリクト:自己の存在への疑念
一方で、ネオは自分が「選ばれし者」かどうかという内面的な葛藤に直面します。彼は、自分自身の能力や運命に疑念を抱きながらも、最終的にはそれを受け入れる過程で成長します。
キャラクターアーク:成長と変化の道
ネオは、自己の真実に気づき、仮想現実を超越する力を持つ存在へと成長します。彼のキャラクターアークは、現実の真実を受け入れ、マトリックスを打ち破る英雄へと進化するプロセスで完結します。
考えるべきこと④
キャラクターにはどのような外的なコンフリクト(敵や障害)があり、それに対してどのような内面的な葛藤があるかを考えましょう。これらを組み合わせることで、キャラクターの成長を描き、物語に深みを持たせることができます。
5.プロットの構成:物語を4部構成で考える
物語を展開する際、全体を4つの段階(設定、反応、攻撃、解決)に分けることで、バランスの取れたストーリー構成を作ることができます。『マトリックス』もこの4部構成に沿って展開されています。
パート1:設定
ネオがプログラマーとして普通の生活を送っている中で、彼が現実に違和感を抱き始めるシーン。ここで、マトリックスの世界が設定され、彼の疑念が物語のきっかけとなります。
パート2:反応
ネオがモーフィアスに出会い、仮想現実であるマトリックスの真実を知る。この段階では、ネオはまだ受動的であり、現実と仮想世界の間で揺れ動きます。
パート3:攻撃
ネオが仮想現実を打ち破り、自分が「選ばれし者」であることを受け入れ始めます。彼はエージェントとの対決を経て、自らの力を開花させる場面が描かれます。
パート4:解決
最終的に、ネオは自己の能力を完全に受け入れ、マトリックスを超越する存在となります。物語は、彼が真実に目覚め、現実をコントロールできるようになる場面で締めくくられます。
考えるべきこと⑤
物語を4つのパートに分け、それぞれのパートでキャラクターがどのように成長し、どのような試練に直面するのかを考えてみましょう。この構成によって、物語全体の流れが整理され、読み手にもわかりやすいストーリーが作れます。
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