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「ドント・ウォーリー・ダーリン」これ「不思議の国のアリス」と無関係じゃないよね?

どうも、安部スナヲです。

オリビア・ワイルド初の長編監督作品「ブックスマート」は、ティーンエイジャーたちのはっちゃっけっぷりを、どこまでもキッチュでポップに描きながら、今の時代だからこその前向きな多様性を感じさせてくれる、ホントにいい映画でした。

さて、そんなオリビアさんの長編2作目は、オチがスゴい系の?サイコスリラー。

裕福と安全が保証された「理想の街」で暮らすヒロイン。彼女がそこで見たものとは?

あ、いちおうネタバレはしませんので。

【理想の街】

舞台となる理想の街「ビクトリー」は、ひとことで言えば砂漠に作られた高級住宅街。大企業のバブリーな保養所みたいといった方がシックリ来るかも知れません。

「太陽あふれる楽園、クラブやプールもある」

完璧な快適性と安全性が保たれたリゾートタウンです。

主人公アリス(フローレンス・ピュー)は、そんな「非の打ち所がない」環境で、愛する夫・ジャック(ハリー・スタイルズ)と暮らしています。

ビクトリーの住人同士はみんな仲良しで、アリスもそのリア充なセレブコミュニティの中で、パーティをしたりダンスをしたり料理をしたりしながら、うまいこと「仲良し」をやっています。 

しかしながらこのビクトリー、女性はみんな専業主婦で、その夫たちは、カリスマ経営者のフランク(クリス・パイン)のもと「ビクトリープロジェクト」という組織で「革新的な物質の開発」をしているらしいのですが、それが何なんのか、女性たちは誰も知りません。

映画の前半では、この街に住むセレブたちの享楽的な暮らしっぷりがこれでもかと示されるのですが、合間に合間にアリスが見る悪夢のような、不吉な幻覚のようなイメージがサブリミナル的にインサートされます。

その時点で、なんか起きるなという闇フラグが立っているようなものですが、アリスが墜落したプロペラ機を追って立入禁止区域に入ったことと、セレブたちの中にあって、いつもなんかキョどってる隣人マーガレット(キキ・レイン)のある行動をキッカケに、アリスはこの街の秘密に気づきはじめます。

【古き良きアメリカびいき】

もしあなたが「古き良きアメリカ」という価値観に反応してしまう人なら、物語やテーマ性はさて置き、映像と音楽だけである程度はこの映画を楽しめるでしょう。

「ビクトリー」のモデルとなったのはカリフォルニア州の砂漠のリゾート地「パーム・スプリングス」実際のロケもそこで行われたようです。

青空と山脈、そして背の高ぁーい椰子の木々。

ビバリーヒルズっぽい家々にビンテージなアメ車…。

そんないつぞやのアメリカンドリームが体系化されたような街は、今となってはちょっと恥ずかしいほどベタかも知れませんが、1973年生まれの私にとっては条件反射的にときめいてしまうシチュエーションです。

そしてビクトリーの時代設定が50年代であることはシチュエーションからも明らかですが、何よりもその時代を示すのは、次々と流れるR&BやJAZZです。

まずオープニングのタイトルバックとともにレイ・チャールズの「The Right Time」が流れ、本編のファーストカットでは回るレコードの盤面が画面いっぱいに映し出されます。ラベルに印字された「Atlantic」のロゴが印象的でとてもかっこいい導入です。

あとプールサイドで戯れるセレブたちのバックで流れるザ・コーズの「Sh Boom」も、チャラいアメリカ恋愛ドラマの王道という感じで思わずニヤけてしまいます。

場面に応じた音楽で古き良きアメリカを象徴的に描くところは「アメリカン・グラフィティー」的でもありますが、この映画での選曲はやや渋めで、若過ぎない登場人物とその年代にもちゃんと合っています。

R&B、JAZZ、Rock 'n' roll。アメリカン・ミュージック黎明期の楽曲と50sというシチュエーションは永遠に不滅ですね。

【アリスとバニー】

巷では監督のオリビア・ワイルドと主演のフローレンス・ピューの不仲が噂されています。

何でもオリビアは婚約者がいたにもかかわらず、フローレンスの夫役であるハリー・スタイルズと付き合いはじめたらしく、フローレンスはアカンみたいです、そういうの。

つまらん話をしました。そんなことは映画と何の関係もありません。…とはいえ「さすがオリビアはん、ソッチの方もお盛んでんな」なんて下卑た野次馬根性もちょっとはあります。ちょっとだけですよ。

だとしても、それで映画の印象が左右されることがないことだけは、断言しておきます。

何よりこの映画を観る限り、2人のコンビネーションは抜群に素晴らしいんです。

オリビア自身がアリスの親友・バニー役として出演していることもあり、余計にそう感じるのかも知れませんが、他の監督だとフローレンスはここまで輝かなかったんじゃないかなと、私には思えるのです。

パンフレットに掲載されている、よしひろまさひろさんのコラムに、女優としてのオリビアが「セクシー」「強め女子」というイメージに縛られて窮屈な思いをして来たというようなことが書かれていました。

それを見て私はハッとしました。

その論旨とは無関係に、私はオリビアにとっての「セクシー」や「強め女子」の要素はすべてアリス役のフローレンスに注がれたのではないかと思ったのです。

とにかくこの映画におけるアリスとジャックのSEXシーンは濃厚かつ執拗。それに全編を通じてフローレンスという女性をあれほど肉感的にエロく見せているのには、余程のこだわりを感じます。

そして男社会からの支配や、セレブ仲間からの同調圧力を跳ね除けるアリスの強さこそ、この映画のコアです。

そんなことを思いながらふと気がつきました。この映画でのオリビア・ワイルドは「不思議の国のアリス」で、アリスを異世界へ導くウサギ=バニーなのだと。これ、偶然の筈がないと思うのですが。

【2回観てわかったこと】

公開中に同じ映画を2回観に行くことは、まぁよくありますが、もういっかい観ようという気にさせられるのには2つのケースがあります。

ひとつは観た時の興奮が忘れられず、もう一度あれを味わいたいと思うケース(最近では「RRR」がそれです)

もうひとつは1回観ただけではイマイチわからなかったけど、自分はきっとこの映画が好きな筈だというケース。

私がこの映画を2回観に行った要因は後者です。

理想の街「ビクトリー」の実態が、いよいよ顕わになるというクライマックス。何とこの映画は、いきなりSFにシフトチェンジするのです。

ちょ、ちょっと待ってくれ!!

そんなつもりでこの映画を観てない私は狼狽えました。

SFであるなら「サイエンス」に「フィクション」なりの合理性が必要になって来ます。

だけどこの映画は、どうやらそのサイエンスな設定を親切に説明してくれるタイプではないようです。

今までのストーリー展開の局所局所に、伏線的なものが張られてはいましたが、こちらがSFに気づいた時には映画はもうラストスパートに入っていて、そこから頭をフル回転させ、慌ててその伏線の断片をパズルみたい組み立てるのですが、どうにもうまく行かない。

そうこうしているうちに映画は終わってしまいました。

1回目鑑賞後、私はモヤモヤしていました。

「こんなん生殺しやんけ!」と悪態をつきました。

そんなだから、果たして自分はこの映画を好きなのか嫌いなのかもわからないでいました。

そんな気持ちを抱えていては、生活に支障をきたしかねないので、1回目鑑賞から3日後、もう一度この映画を観に行きました。

それでやっとわかりました。

この映画、好きだわ(๑>◡<๑)

出典:

映画『ドント・ウォーリー・ダーリン』公式サイト|大ヒット上映中!

ドント・ウォーリー・ダーリン : 作品情報 - 映画.com

映画『ドント・ウォーリー・ダーリン』公式劇場パンフレット。

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