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「女神の継承」これって女神からのパワハラともとれる。

どうも、安部スナヲです。

ホラーは大好きなのですが、呪い・祟りがテーマの話はちょっとイヤです。

子供の頃、不幸な出来事や不吉な出来事を必ず神様とかご先祖様との因果関係に結びつけて語る大人っていませんでした?そういうことを疎かにすると「おまえにも悪いことが起きるぞ」みたいに脅してくる人。きっとその時感じたイヤな感じの怖さが根深いんだと思います。

今でもそういう映画には興味をひかれながらも身構えてしまいます。

だって迂闊に観に行って怖くなって夜トイレに行けなくなったりすると厄介です。ただでさえ加齢のせいで頻尿なのに。

ところが今回、図らずも映画館でこの予告編を見てしまったのです。

この有無を言わされぬ不吉エネルギー。

こんなの知ってしまったら観に行かないと、逆に不吉感がおさまらないでしょ。

それに疎かにすると良くないことが起きるかも…


【女神バヤンの系譜】

舞台はタイ東北部の村。

祈祷師のニム(サワニー・ウトーンマ)はドキュメンタリーの取材を受けています。

このあたりでは古くからすべてのものに精霊(ピー)が宿るとされ、バヤンという女神が崇められている。ニムはそのバヤンの系譜にあたる祈祷師で、もし悪霊が原因で苦しんでいる人がいれば助けるが、癌患者とかはフツウに病院行きなはれ…みたいなことを撮影班に話しています。

ある日、姉婿が亡くなり、ニムは親族が集まる葬儀に赴きます。

撮影班もこれに着いて行きます。

そこで、普段は明るく素直で元気な姪っ子のミン(ナリルヤ・グルモンコルペチ)が、列席者の男を、殴りかからんばかりの勢いで罵倒しているところに遭遇します。

この子、こんなやさぐれた子やったっけ?飲み過ぎた?いや、なんかおかしいぞ。

この日からミンに異変が起きます。

体調不良(というには禍々しい)もそうですが、妙なのは行動の方です。

これはもしや…

ニムとその家族には思いあたるフシがあります。

それは女神バヤンが祈祷師を継がせるために、ミンに取り憑いたのでは?という疑念でした。

【ミンに取り憑いたのは…】

元々女神バヤンから祈祷師に任命されたのはミンの母であり、ニムの姉にあたるノイ(シラニ・ヤンキッティカン)でした。

実際、彼女はバヤンが祈祷師の代替わりを促した時、その対象者に起きる体調不良や異変を経験していました。

しかし若かりし彼女はこれを拒否。そればかりかバヤンへの信仰さえも捨て、キリスト教に改宗しました。

そういった経緯があり、祈祷師はやむなく妹のニムが受け継いだのです。

本来の世襲制を逸脱してしまったからおかしくなった…みたいなことでしょうか。

いずれにせよ今、直系にあたるミンにその白羽の矢がたてられた可能性が高い。

そうなると撮影班もそれはそれでおもろいやん!ということで、今度はミンを密着取材します。

そんな中、あんなにいい子で可愛かったミンちゃんは完全に人が変わりました。

ゲーセンでいっしょに遊んでた子供を突然突き飛ばしたり、夜な夜な職場に男を連れ込んでナニしたり。

奇行蛮行はますますエスカレート、遂には仕事も、クビになり、精神的に破綻した彼女はリストカット…

これはマズい!

かくなる上は女神バヤンの「代替わりの儀式」をオフィシャルに行い、名実ともにミンが祈祷師を継ぐ以外にこの苦しみから脱する方法はない。

それって女神からの強烈なパワハラやんか!ともとれますが、

とにかく母親のノイをはじめ、ほとんどの人がそう思いました。

しかし、事態はそんな生易しいことではなかった。。。

ミンに取り憑いたのは…

ここからが本当の地獄の始まりです。

【演技のバケモン】

 タイの映画をほとんど観たことがなく、この映画の出演者も全員初めて見る役者さんたちですが、あまりのお芝居の巧さにビックリしました。タイではこのレベルがフツウなのでしょうか。

日常の自然な話し方や振る舞いも、恐怖のリアクションも、祈祷・降霊の時の狂気じみた苦の表現も、恐ろしくリアルで圧倒されました。

そんな精鋭の中、オーディションで主演のミン役を射止めたナリルヤ・グルモンコルペチ。

彼女、スゴ過ぎます。何なんですかあれは。

いちばんスゴいと感じたのは、明るく可愛い今どきの女の子が身の毛もよだつバケモンに変貌していく段階的な演じ分けが緻密なんです。

ちょっとキレやすくなった?というところからはじまり、次第に人としてクズな言動を行うようになり、そんな自分が厭でたまらなく、心身共に疲弊し切って、一旦、完全に生気が抜ける。そこからジワジワ邪悪が滲み出て最終、あのバケモンになる。

ひとつの映画の中で何役も演じているに等しく、しかもホラーだけでなくエロもグロも振り切り度がマックス。

彼女のキャリアがどれくらいなのかは知りませんが、私の印象としてはこの若さで「ジョーカー」のホアキン・フェニックス級のお芝居をやってのけたようなものです。

まさに演技のバケモン。

【モキュメンタリーってどうよ?】

映画は終始ドキュメンタリーの撮影班が事象を追っているという体で進行します。

所謂「モキュメンタリー」というヤツです。

作り手が何をやりたくてこの手法を選んだのかは、映画を観れば、まあ納得できます。

ドキュメンタリー調にすることで実在感を出し、カメラの前で起きる禍々しい事態をドライに淡々と見せておいて、後半にその客観視点をひっくり返す。そうすることで恐怖を増大したかったのでしょう。

しかしながら私にとってはこのモキュメンタリー設定こそが最大の不満点でした。

この撮影班はトイレの中まで覗いたり、明らかに撮影許可を得てないのにカメラを回していたり、どう見ても予め決められたコンテ通りのドラマっぽい撮影だったり…不自然なカットが多すぎて、全然ドキュメンタリーに見えなかったです。

100歩譲ったとして、クライマックスのあるタームからは本当にあり得ない。どう考えてもカメラマンが生きてないやろ!というシチュエーションでも撮影が続いてるんです。

さらに2万歩譲ってそれもアリだとして、あんなもん放送できるわけがない。

というか、そもそもここで記録された映像は放送されたのか?

一応、場面説明のテロップが逐一入り、編集済みのようになってるけど…。

と、考えるほどにほころびが広がって、私には完全にノイズになっていました。

別にドキュメンタリー的な見せ方で、あんなふうに助長しなくてもこの映画は充分に怖いのに、勿体ないなと感じます。

【理不尽な女神】

映画の舞台となったタイのイーサン地方では「ピー・プーター(先祖の霊)」と呼ばれる村の守護霊が信仰されています。

女神バヤンのモデルはそのピー・プーターだそうです。

高田胤臣さんが寄稿したパンフレット記事に「イーサンの人々が熱心にピー・プーターに祈るのは『おとなしく寝ていてください』ということである」と書かれています。

守護霊といいながらピー・プーターは奇跡を起こすかも知れないが、災厄を起こすかも知れない。

奇跡が起きたとして万人に通じる幸福なんてそもそもなく、災いが起きる可能性がはるかに高い、だから精霊を目覚めさせないことがいちばんと、人々は考えます。

そう考えると信仰といっても、理不尽なものです。救いや安らぎを与えてくれるわけではない神をただ怒らせないように祈るだけなんて。

劇中、山奥に祀られた女神バヤンの御神体像の首が落とされているところを発見したニムが絶叫するシーンがあります。

あの時「ああ、終わった…」という絶望とともに感じた苦痛は、見えない何かによって災いをもたらされることへの理不尽さ。

やっぱり呪い・祟りはパワハラやで。

出典:

映画「女神の継承」公式劇場パンフレット

映画『女神の継承』 公式サイト - シンカ

女神の継承 : 作品情報 - 映画.com

https://www.jstage.jst.go.jp › _pdf善霊と悪霊のはざま - J-Stage

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