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ブランディング、プリファレンス、ポジショニング

「この施策はブランディングですので・・・」とマーケティング支援会社の人が言及するとき、必ずしも何か厳密に定義されたものの言い方をしているわけではないし深く気にする必要はない。ただ、「ブランディング」という言葉が様々な意図で使われているため、少なくとも自分の中では混乱しないように使い分けをしておくことは重要だ。例えば、プリファレンスやポジショニングという言葉と比べて、こう捉えてみてははどうか?と思うところを紹介する。

「ブランディング」は消費者にイメージを醸成する行為のことであり「何の」イメージかまでは決まっていない

「ブランディングができていると高く売れるようになります。品質保証です。」と言う人がいる。「ブランディングは家畜の焼印から始まった屋号のようなものだ」と言われることもある通り、一貫して同じ情報を伝えることで消費者に何らかのイメージを固定することだ。ただし、何のイメージを固定させるかは別の問題だ、と捉えておく方が自分の頭を整理させやすいだろう。

例えば、「安さの殿堂」というキャッチコピーを一貫して伝えている雑貨店がある。安さや一定以上の品質担保を期待して来店する人は多いだろうが、高く売れるようになるわけではない。これでも立派にブランディングできていると捉えるべきで、安いという固定イメージを作ることもブランディングなのだ。仮に品質が悪いというネガティブなイメージが固定化してしまっている場合も、それはブランディングされているということなのである。

何もしなくても勝手に選択してくれることは「プリファレンス」であり、イメージアップと思ってもいい

「ブランディングできていると消費者に選択してもらいやすくなります」と言うこともあるが、消費者に特に理由もなく選択してもらうのはプリファレンス(選好)である。単純接触効果やウィンザー効果を用いて、何度も社名・商品名・商品画像を色んなルートで見せていくことで、イメージアップされていくと特に理由もなく好きになってくれる。

例えば、白い犬で有名な移動体通信事業者があるが、あの会社が何の会社なのか理解した上で契約している消費者はどの程度いるだろうか?移動体通信事業部門はVodafoneから買って後から加えた事業に過ぎないし、野球球団もダイエーから買って後から加えた事業だ。BBモバイルもYahoo!JAPANも創業時にはない事業で、初期のソフトウェア販売事業は今やメインではなく、本業が何なのかよくわからない会社に移り変わっている。しかし、野球ニュースで何度も社名を連呼され、大量のテレビコマーシャルで社名を聞き、iPhoneの独占的発売などニュースや井戸端会議でも社名を聞くようになる間に、特に疑問も持たず信頼できる事業者としてモバイル通信回線の契約をしているだろう。特に明確なイメージを伝えなくても社名を連呼するだけで選好させることはできるのであり、選好してもらうためにブランディングは必要条件ではない

競合との差別化はポジショニング戦略であり、ブランディングを必ずしも伴わない

「ブランディングで差別化しましょう」と言う人もいるが、ブランディングにおいてどのようなイメージを植え付けるべきかの議論で、たまたま提示されがちなのが、他社との違いを明確にするポジショニング戦略だということだ。市場が飽和してきたときに新しい提供価値を提示しその必要性を訴えかけていくことをポジショニング戦略或いはSTP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)という。

例えば、「虫歯予防のための歯磨き粉」という市場しかなかったところに「歯周病に効く歯磨き粉」「白い歯を作る歯磨き粉」「歯科医師監修」といった他社にはない特徴を強調していく戦略のことである。これらの新しい市場を作っていく行為においては、別にブランディングしなくても店頭のパッケージに書いておけば済む場合もあるし、逆に歯周病は大変怖い病気だとパブリックリレーションして啓蒙する場合もあるだろう。必ずしもブランディングという行為を経る必要はない

ブランディングは手段のことを指すわけでもない

以上のように、ブランディングは「何らかのイメージ」を固定化させる行為一般のことであって、何のイメージを伝えるべきかまでは言及していないと捉えておくと、ブランディングの議論のときに「どういうイメージをブランディングしていくべきなのでしょうか?」と質問できるようになる。すると、曖昧なまま議論をしていた相手も頭が整理され、より施策の目的が明確になるだろう。

加えて、もう一つ注意しておくべきことは、ブランディングは手段も規定していないと捉えるべきだということだ。

多くの企業で「ブランド室」が立ち上がったとき「コーポレートブランドの徹底」を任務とする部署を指しているため、企業ロゴやタグラインやイメージカラーをレギュレーション通りに表示することをブランディングだと理解しているケースもある。確かに統一したイメージの固定化の手段として、ロゴを目立つように提示する必要はあるのだが、「いつも御社のイメージカラーはブルーですよね!」と取引先に憶えて貰ったところで、それがブランディングにはならない。ロゴやカラーのレギュレーションの徹底が必要な場合もあるし、そうでない場合もある。ただ、一貫して伝え続ける行為はほぼほぼブランディングには必要となるだろう。