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パティシエがバリスタになるまで①

私が今日の知識や技術を得た中で、パティシエへの転職ともうひとつ、決して外せない経験があります。それはバリスタです。今回は、其処に至るまでのきっかけを綴ろうと思います。

次のステップ

ホテルでのパティシエとしての経験を活かしながら、もう少し小規模なレストランやカフェでの経験を重ねたいと思った私は、転職活動をし、タイミング良くとあるお店のオープニングスタッフに内定しました。そこは、本格的なスイーツと、本場イタリアと同じエスプレッソやドリンクを提供するイタリアンバールをコンセプトにした店で、面接の時点から期待に満ちた内容でした。

お店が完成するまでの期間は支店で勤務との事で、各々配属された店舗で接客とエスプレッソの抽出を学びました。そのお店では、社員として入社したらパティシエもエスプレッソを淹れられるように、という考えだったためです。

オーダーや挨拶はイタリア語で通されるため、ここで初めてイタリア語での挨拶や数字の読み方、ドリンク等の単語を初めて覚えました。

初めてのエスプレッソ

支店での勤務が1週間ほど経ったある日、同じ支店に配属されていた新店の店長から「エスプレッソの抽出を覚えましょう」と言われます。それまでエスプレッソという言葉は聞いた事はあっても、実際に抽出などしたこともない私達は、先ず「エスプレッソとは?」というところから教わります。

そして、エスプレッソマシンの説明まで受けた後、実際に店長が抽出のデモンストレーションをしました。オープニングスタッフで入った殆どの人がエスプレッソマシンを見るのも触れるのも初めてだったため、皆興味津々で所作を見ます。

初めてのエスプレッソは、今まで飲んだ事のない味でした。そのまま飲むと「濃い!すっぱ!にっが!」と色んな味が口の中で一瞬に広がり、口が梅干を食べた時の様な渋い形になったのを覚えています。程なく、店長から「砂糖をスプーン2~3杯入れて、よく混ぜて飲んでみて」と言われ、各々混ぜて飲んでみると、味が一変しました。

砂糖を入れたエスプレッソは、まるでチョコレートの様にトロッとなり、口の中で芳醇なコーヒーの苦みや酸味がバランスよく広がり、一気に飲み干してしまいました。そして店長に言われるがまま、暫くそのカップを放置すると、ほんの少し残っていた砂糖入りのエスプレッソが固まりました。スプーンでカリカリと削ぎ集めて口にすると、今度は濃いコーヒーキャラメルの様な味が楽しめました。「これがエスプレッソで、楽しみ方です。」と、イタリア人のスタッフと共に話してくれたのを、今でも覚えています。

店長の一言

その後店長は、再びエスプレッソを抽出し始めました。そして同じ様に飲んでみるよう促されると、先程と味が違いました。味わいが軽く、酸味も強くなっている様に感じたのです。感想を求められたので、そのまま伝えると店長は「先程よりもタンピングを少し軽くしたので、抽出時間が短くなり酸が立つ味になったのが原因です」と説明してくれました。

『同じ人が同じ豆で、同じ量をグラインダーで挽いて、ホルダー内の挽き豆を整えて、同じ回数タンピングしてマシンで抽出。たった数十秒の、同じ動作のはずが、ほんの少しの違いでこんなに味が変わるなんて...。何て不思議で面白い飲み物なんだ!!』と、その日から一気にエスプレッソの魅力に取りつかれました。

それから毎日、エスプレッソの抽出を練習しました。営業中なので、オーダーが止まった合間を見計らっての練習です。抽出する度に試飲し、店長が最初に入れてくれた美味しいエスプレッソと、何がどう違うのか考えながら、何杯も抽出します。元々、コーヒーが好きだった私は全く苦にならず、周りが自分で淹れる美味しくはないエスプレッソに苦手意識を持つ中、毎日練習しました。

そんな練習が続いたある日、店長から「そこまでエスプレッソに興味があるなら、他のイタリアンバールに飲みに行ったら、もっと面白いよ。淹れる人だけでなく、豆もマシンも変わるから。」と言われました。

タイミング良く、その月の料理専門誌『料理通信』の特集が『イタリアンバール』。直ぐに購入した私は、ある行動に出ます。。。


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