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アドビ イベントレポート:Make it Tokyo 生成AIを現場で活用する電通デジタルとサイバーエージェントが語る生成AIの現在と未来

アドビは2024年5月14日、法人企業のクリエイティブ/マーケティング担当者向けのイベント「Make it. Tokyo」を東京・品川インターシティホールにて開催しました。

Make it. Tokyoは、クリエイティブ制作に携わる全ての人を対象に、AIを中心に大きく移り変わるこの時代において、どのように組織をリードしクリエイティブを高めることでビジネスに影響を与えられるのかを伝えるイベント。世界各国で開催されていますが東京での開催は今回が初で、6月12日には大阪での開催を予定しています。

イベントでは、4月にアドビの代表取締役に就任した中井陽子による「Welcome & Keynote」のほか、生成AIをビジネスの現場で活用する事例を紹介する「Showcase & Workflow」、アドビの新しい技術を楽しみながら参加者と交流できる「Networking & Happy hour」といった企画が実施されました。

イベントのテーマは「Playground to production」、つまり生成AIはお試しの段階から実務の段階に入ったという意味で、会場には生成AIの実務への応用を考えるクリエイター、マーケターなどの方が多数集まり熱気につつまれていました。

今回は「Showcase & Workflow」の中から、生成AIがどんな未来をもたらすのか。どう備えればについて、生成AIを現場業務に導入している電通デジタル、サイバーエージェントの担当者をゲスト講師に招いたセッションの模様をレポートします。


現場での無茶振りを生成AIがその場で生成するデモに歓声が上がる

最初に登壇したのは、株式会社電通デジタルの田中寿さん(クリエイティブ領域執行役員)と飯島美喜さん(エクスペリエンステクノロジー部門 デジタルアートディレクター)。

電通デジタルの田中寿さん
電通デジタルの飯島美喜さん

電通デジタルでは、生成AIを用いたクリエイティブを数多く世に送り出しています。例えば2020年公開の「TEHAI」では、警察庁から提供された指名手配容疑者の画像をもとに、容疑者が手配から数年後~10数年後にどのような容貌変化を遂げているか予測し、実際に画像として公開しました。

また「“名画になった”海展」では、海洋プラスチックごみがこのまま増え続けた場合、芸術家たちの海の表現がどう変わるかを、過去の著名画家たちの筆致で再現しました。

この日、広告クリエイティブの最前線で活躍している田中さんと飯島さんは、会場で「Make it. Osaka」(6月12日開催予定)のwebサイト用ファーストビュー(の画像)を約20分の持ち時間で作れるか、という企画にチャレンジしました(一応、台本はあるとのこと)。

2人はまず大阪開催のイベントだからと、テーマに通天閣や阪神タイガースをリストアップ。最終的にはたこ焼きをテーマにすることとし、Adobe Fireflyで「黒い和皿にのっている美味しそうな湯気がでているたこ焼き」とプロンプトを入れ、わずか数妙で実際にその画像を生成しました。

だが、これではひねりが利いていないと田中さんが「たこがたこ焼きを焼いている画像にしたい」と無茶振り。そんな突飛な要望にもかかわらず、飯島さんは「左斜め直角。大阪の街の屋台でたこがたこ焼きを焼いている様子」と再びプロンプトを入力すると、やはり数秒で該当の画像が完成。これには聴講者からも歓声があがっていました。

「大阪の街の屋台でたこがたこ焼きを焼いている」のプロンプトで生成された画像

この後も田中さんのディレクションに対し、飯島さんがフィルターをかけて色調を変えたり、2人の顔画像をたこ焼きに合成したりとさまざまな加工を実施。田中さんは「普通なら指示を1つ出せば、その度に(仕上がりを待つので)1週間待ち」と漏らしていましたが、Adobe Fireflyであれば簡単に、すばやくデザインバリエーションを多数取得できるのです。

このチャレンジは、たった20分でAdobe Fireflyの実用性の一端を示してくれました。

飯島さんは短い時間ながら、見事な操作でここまでのファーストビューを仕上げた

AIが広告分野における技術力の象徴に

続いては株式会社サイバーエージェントの中橋敦さん(クリエイティブディレクター)が、同社における広告運用とAIの関連性について講演しました。

サイバーエージェントの中橋敦さん

中橋さんが主戦場とするインターネット広告の世界では、広告クリック率などが成果としてダイレクトに示されますが、広告効果の最大化には何が必要なのか? 中橋さんは運用力と技術力の2つだと説明します。ただ、それに至るまでには時代の変遷がありました。

例えば中橋さんが2008年にサイバーエージェントへ入社した頃は、広告管理は表計算ソフトのMicrosoft Excelを使用した方法が主流だったそう。これを見ながら担当者はキーワード変更したり順番を入れ替えたりと、人力で運用していました。

そして昨今は、AIが広告分野における技術力の象徴となってきた、と中橋さんは話します。サイバーエージェントでは2016年に社内研究組織「AI Lab」を発足させ、その成果として「極予測AI」を発表しました。

作成したコンテンツを実際に広告出稿する前に、果たしてどれくらいの成果が期待できるかを「極予測AI」で分析できるようになったのです。結果、デザインの調整や試行錯誤に関する時間を削減できるようになったと中橋さんは振り返ります。

知見の積み重ねによってさらにAI予測精度が上がっていけば、そもそものコンテンツの制作も効率化できます。一方で、メディアの多様化によって作成すべきコンテンツを増やさなければならないという事情もあります。サイバーエージェントはまさにこの部分、コンテンツのバリエーションを増やしたい場面などでAdobe Fireflyを活用しているそうです。

生成AIはプランナーとデザイナーの関係性をフォローする存在に

また、プランナーとデザイナーの関係性もAIによって変わってきています。これまでは、プランナーの言葉(文字)をデザイナーがビジュアルに変えるやりとりを何度も繰り返していました。ですが、ここでいう“プランナーの指示”は、本人の専門性や立場などによってバラツキがあります。このバラツキをサポートし、プランナーとデザイナーの関係性をフォローする存在になりうるのが、アドビの生成AI製品だというのが中橋さんの見解です。

プランナーがデザイナーにいきなり指示を伝えるのではなく、いったん生成AIに画像を作らせ、それをもとにコミュニケーションする。こうすることでコミュニケーションがより綿密になり、時に“ジャンプ”と呼ばれるほどのコンテンツ品質アップが起こる可能性も高まるのではないか。中橋さんはそんな期待を寄せていました。

最後に中橋さんは「(広告業務で)『AIを使わない』という選択肢は恐らくない」とも説明。しかしAIが万能な存在だと思い込んでしまうと、苦しい場面も増えるだろうと展望します。

例として挙げられたのが車の自動運転です。猛烈な技術開発が進んでいる分野ではありますが、運転主体があくまで人である「レベル2」の自動運転と、システムが主体となって人がフォローする「レベル3」には、決定的な違いがあり、その壁を越えるのは容易ではありません。

広告もしかり。どの場面でAIを使い、一方で使わないのか。AIに任せる権限ラインをどうするかは、時流や組織によっても議論が変わるだろうと中橋さんは予測しました。

会場には技術デモンストレーションのブースが設けられました

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