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地方創生とデジタル化のバランスが結構むずかしいという話

みなさんこんにちは。アドビ未来デジタルラボ、鈴木です。

長崎県では都市部の企業に長崎に来てもらい、ワーケーションをおこないながら長崎の事業者と意見交換を実施する、ワーケーション推進事業をおこなっています。今回この意見交換に参加するために1月9日〜12日まで長崎にワーケーションに行ってまいりました。


1)長崎の宿泊業の皆さんとの意見交換、デジタル化をどう思っているのか

今回長崎県からワーケーション企画のお誘いをいただいた時、ちょうど未来デジタルラボのテーマの一つ「地域創生」のためにフィールドワークをおこないたいと思っていました。そこで応募するとともに長崎県、長崎市の方に無理をお願いし、地元の宿泊業の方と「おもてなしとデジタル化」のようなテーマで意見交換の場をセットしていただきました。この意見交換には未来デジタルラボの学生研究員の4名も参加しています。

詳しくは3月に予定している学生研究員プロジェクトの発表の場までお待ちいただきたいのですが、今回はこの地元の方との意見交換での気づきの一部と、思ったところを書いてみたいと思います。

我々テックの世界に身を置いている人間は「テクノロジーで社会課題を解決する」という言葉をけっこう耳にします。地域課題の解決は、とりわけ観光業でもしかりで、実際にデジタル技術が多くの課題解決のために提案され、その貢献はめざましいものがあります。

たとえば、宿泊予約がオンラインというのは、もはや当たり前なのですが、宿泊施設の繁忙期や予約の混雑度合いに合わせて価格をダイナミックに変動させる「レベニューマネジメント」というダイナミックプライシングのシステムもかなり導入が進んでいるようです。今回お話をお聞きした4つの事業者でもすでに当然のものとして導入されていました。これにより繁忙期の付加価値の高い時期にはしっかりと売り上げを確保し、閑散期には適切なディスカウントをすることで稼働率を確保する、といったことがあまり手数をかけずに実現しているとのことでした。

こうしたデジタルの恩恵がある一方で、宿泊業のみなさんに、「デジタル化がどんどん進んだ方かいいと思うか?」と問うたところ、ちょっと考えさせられる答えが返ってきました。要するに「YES and NO」だったということです。

誤解のないようにお願いしたいのは、今回お話を伺ったみなさんは個人的にはデジタル化推進に熱心な方で、決してデジタルやテクノロジーを毛嫌いしてそう言っているわけではなかったということです。

ではなにが問題かといいますと、お客様との「接点」が減ってしまうことへの心配です。

2)お客様が自覚する前にお客様のニーズを察するのがホテルマン、ホテリエ

我々がホテルや旅館に宿泊したとき、やはり気持ちのいい接客をしてもらえることがなにより嬉しいですね。こちらのニーズを察してくれるホテルマンやホテリエに出会うと、またそのホテルに泊まってみたいと思うものです。

「お客様自身がニーズを自覚する前に察して差し上げること。これができることはホテルマンとして当たり前のことだ」というモットーがホテルマンやホテリエの間にはあるそうです。宿泊業という仕事をまったく知らなかった筆者はちょっと感激してしまいました。

これは相手が動き出そうとする前にその動きを察知する剣術の達人のようにおもわれますが、長年お客様に接していると「なんとなくわかるようになってくる」そうです。

さて、そんなホテルマンやホテリエの仕事のデジタル化、というと何が考えられるでしょうか。たとえば世の中には配膳ロボットや、自動チェックインのような便利なものがありますが、我々宿泊する側の心理としてはホテルや旅館で食事や宿泊を楽しむ時、単にものを食べてベッドで寝るという以上の付加価値を期待していますね。そこがデジタル化してしまうと味気ないものになってしまわないだろうかという心配はあります。

ただ、「ユーザーエクスペリエンス」というものがデジタルデータと切り離せないものになっているのも確かです。ホテルの接客の分野でもどんどんデータが利用されてゆくことになると思います。たとえばチェックアウト時間が集中する時間は予想できますので、自動チェックアウトを使えばピーク時の行列を少なくすることはできそうです。オペレーションのネックを解消するためにはデジタルは大いに役立つのではないかと思い、実際に導入が進んでいます。これは宿泊する側にとってもよりよいエクスペリエンスといえます。

このようなデジタルに期待する側面が語られた一方で、先ほど述べたように「デジタル化しすぎることでお客様との生の接点が減る」ことはホテル運営者として不安要素でもある、との声も聞かれました。ホテルの人にとってフロント業務や食事での接客は「そのお客様を知る」貴重なインプットの時間と捉えていることです。もしこれらの時間がデジタルに置き換わると上記の「お客様自身がニーズを自覚する前に察する」ことができなくなるかもしれない、という心配があるのです。それはラグジュアリーなホテルだけでなく、ビジネスホテルのような効率的なオペレーションをするホテルを運営している方からも同じ答えが返ってきました。

山間の村のお爺さんによる手彫りの工芸品、おふくろさんが手でかき混ぜたぬかみそ、我々の生活を彩っているものの多くは「手作業の繰り返しから生まれる情緒」というもので形成されています。「お客様のニーズをお客様より先に知る」ホテルマン・ホテリエの接客、というものも、これに類するなんとも言い表せない価値をもつサービスです。

3)デジタル化の先にあるもの

こう考えるとデジタル化微妙だねえ、という気分になってしまいます。しかしこの話をユーザーエクスペリエンスやクリエイティブの例に置き換えてみると、かならずしもデジタル化の先に待っているのは無機質な効率化だけではないように思えます。

たとえば、Adobe Photoshopで背景を切り抜くことに、かつては数時間かかっていたものが、今ではワンクリックで数秒で終わります。ここで生まれた余剰の時間をデザインのインスピレーションを得るために使うこともできます。その結果、より情緒に訴えるデザインを追求できています。

同じように、ホテルマン、ホテリエが宿泊のデータを使うことでより効率的にお客様を知ることができたら、「達人の境地」に至る道のりを短くすることもできるのではないかと思います。あるいは効率化によってできた時間で、より多くの時間をお客様との会話に使ってそこからインサイトを得られるかもしれません。

デジタルの力で、また泊まってみたいと思う素敵な宿が増えたらなによりですね。

旅する側も、受け入れる側もゆったりと会話できる、こういう旅の形もありかな、と思いました。

モナコ、香港とともに「世界新三大夜景」に選ばれた長崎の夜景


この記事の執筆者

鈴木 正義(すずき まさよし) 執行役員 広報本部長
IT企業での広報経験○十年で、なんとなく技術がわかっている風を装うスキルを身につける。社会人ラグビーチームクリーンファイターズ山梨でも広報を担当し、選手の撮影からSNS投稿、動画制作、などでアドビツールを駆使している自称体育会系クリエーター。未来デジタルラボ全体のリードを担当。幕末好きで、未来デジタルラボを令和の松下村塾にすると謎の大志を抱いている。


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