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【国際障がい者デー】多様な色覚の人に配慮した社会を目指して

こんにちは!アドビ未来デジタルラボ編集部です。

12月3日から12月9日は障がい者週間と呼ばれているのをご存知でしょうか。

広く障がい者の福祉についての関心と理解を深め、障がい者があらゆる分野の活動に参加する意欲を高めることを目的とした期間で、毎年この時期になると各地でイベントが開催されています。

今回はこの期間にちなんで、NPO法人 カラーユニバーサルデザイン機構の 伊賀 公一さんにデザインをするうえで知っておくべき「色覚多様性」と、 すべての人に分かりやすい「ユニバーサルデザイン」について教えていただきました。アドビの岩本 崇がお話を伺います。


左から アドビの岩本 崇、NPO法人 カラーユニバーサルデザイン機構 副理事長の伊賀 公一さん

1)あまり知られていない「色弱」と呼ばれる人たち

岩本:今回は私自身、また伊賀さん自身も当事者である、いわゆる「色弱者」のこと、そして「色覚多様性」について詳しくお伺いできればと思います。

あらためて、「色覚多様性」について教えてください。

伊賀:色の見え方には個人差がある、ということはまだあまり知られていないことの一つです。

物が動いていることが分かる、奥行きが分かる、物の大きさが分かるといった能力があるように、色の違いが分かる能力を色覚といいます。その色覚が大多数の人とは異なって、たとえば赤と緑が似た色に感じる人、つまり色弱と呼ばれる人たちは日本男性の20人に1人(5%)、女性は500人に1人 (0.2%)いるといわれていますが、なかなか世間に知られていません。

というのも、皆自分が見えている世界が100%なので、他の人から見えている世界を想像するのは難しいからなんですね。

昔は今よりももっと認知度が低かったですし、「この色を赤といいます」などとは学校で教えられませんから、私が子どもの頃は周りの人が見えないものが見える、その逆で周りが見えるものが何故か見えないといったことが度々起こって。そうした経験を重ねて少しずつ、色の見え方は人によって異なることが分かっていきました。

色覚の多様性を理解するのには、生物ごとの違いを知ると分かりやすいです。

たとえばほとんどの哺乳類は2色型色覚といって、青と赤の違いは分かるけど緑と赤の違いは分かりにくい、といった感覚を持っています。実はその方がエサを探しやすくて生存するのに便利だから、進化する過程で4色型色覚から変化したと言われているんですよ。

岩本:へー!進化の過程であえて色覚を捨てた、なんて面白いですね。

伊賀:色弱=劣っているとよく考えられるのですが、人間以外の生き物全体の見え方を知ると、さまざまな色の見え方があることは普通だと分かります。むしろ色弱の人は、進化している「カラーニュータイプ」なんて表現できるかもしれません。

岩本:なるほど、色覚多様性を捉えるヒントになりますね。

2)色覚多数派を前提としたデザインに囲まれた日常

岩本:色弱の方は日常のどんな場面で不便に感じているのでしょうか。よくあるシーンの一つとして、電車の路線図が見にくいといったことが挙げられると思いますが。

伊賀:たとえば、焼肉屋に行って誰かのために肉を焼く時「生でも焼きすぎでもない適当な加減」で焼くのが難しかったりします。焼かれている肉の色が分からないという色弱の人は多いです。教えてもらえれば分かるかもしれないのに、「見たら分かるでしょ」と言われてしまい教わる機会がないんです。

路線図などを見てなぜ困ってしまうのか。それは、そのデザインを考えるデザイナーの中に色弱の人がいないから、色弱の人の存在が知られていないせいで、私たちが利用することを意識したデザインが作られていないからという根本的な理由があります。

岩本:たしかに、少数派だからと遠慮して「そのデザインだと見分けにくい」と声をあげる人も少ないのかもしれません。日本では人とは異なる意見を言いにくかったという社会背景も関係していそうです。

3)ユニバーサルデザインは少しずつ浸透中?

岩本:すべての人が見やすいデザインに対応するため、アドビは校正ツールとして色弱の方が見た時にデザインがどのように表示されるかを確認できる機能を用意し、Adobe Creative Suite 4(CS4)バージョンのPhotoshopとIllustratorに搭載しました。2020年からはアドビユーザー以外にも広く使っていただけるように、Adobe Colorにアクセシビリティツールとして同様のカラーシミュレーター機能を搭載しています。

このようなツールを実際に使ってくださっている話を、伊賀さんの周りで聞いたことはありますか。

伊賀:シミュレーター機能はよく使われています。ここ最近は特に使っているという話を聞くようになりました。まだまだ無料で使えると知らない人が多いので、もっと広めていきたいとは思うのですが。

岩本:ありがとうございます。では、色弱の人を意識したカラーユニバーサルデザインとして、どんな例が挙げられるでしょうか。

伊賀:公共インフラの中で多くなってきましたね。気象庁のホームページで発信される気象情報の配色や、JIS安全色を使用した道路標識・避難誘導の案内サイン、ハザードマップなどは、色覚の多様性に対応されるようになってきています。知り合いからは「最近自分が色弱だと気づいていない人が増えてきている」という話も聞いて、理想的だなと思いました。まだまだ改善の余地は残っていますが、NPOを設立して活動を始めてからの20年間で、世の中のデザインは徐々に変わってきていると実感しています

4)すべての人が過ごしやすい社会のためにできること

岩本:ユニバーサルデザインを考えるうえで、デザイナー側へアドバイスがあれば教えてください。

伊賀:まずは、デザインを提供するコンテンツやメディアにあわせて構成や色を調整することですね。

細かな工夫に気づけること、気づいてもらえることを良しとするデザイナーさんが多いのですが、「自分に分かる」というレベルより1歩2歩先の分かりやすいレベルにしないとなかなか伝わらないものです。なので、アドビのシミュレーションツールなどを使うことはもちろん、実際に提供する大きさの半分で印刷してみたり、遠いところに置いてみたりしてデザインが伝わるか、ぜひ確認してみてほしいです。

岩本:そうですよね。使われるコンテンツ自体が多くの方に情報を発信するようなものであれば、より調整してもらったほうがいいデザインと呼べるでしょうね。

伊賀:たとえ5%の人たちとはいえ、色弱の人は確実にいることを意識する。いっそ色弱の人が100%と思ってデザインしてもらった方が、自分のデザインをより多くの人たちに広く使ってもらえると思いますよ。

岩本:色弱は障がいではなく多様性という認識で広まっていってほしいと思いますが、伊賀さんは今後どのような社会になってほしいと期待していますか。

伊賀:個人の多様性を認めることも大事ですが、「障がいを持っている社会」、つまり障がいを持つ人持たない人、皆が集まって一つの社会であるという考え方がされるようになればいいなと思います。個人が障がいを持っているから困っているのではなく、障がいを持っている人たちの存在に気づいていない社会構造のせいで困る人が出るというシーンが多いからです。

社会の在り方を変えるためにまず必要なのは、やはり知ってもらう事。障がい者と呼ばれる人たちのことがもっと理解されるようになり、誰もが自分の色の見え方に誇りを持てる社会になってほしいと願っています。


伊賀 公一(いが こういち)
NPO法人 カラーユニバーサルデザイン機構 副理事長
1955年、徳島県生まれ。早稲田大学在学中にITの開く未来に目覚め中退。アップル販売会社やIT 系ベンチャー企業の役員を経て、1998年より色覚バリアフリー活動を開始。2004年、特定非営利活動法人カラーユニバーサルデザイン機構の設立に参画し、副理事長に。2007年、東商カラーコーディネーター1級取得。自身もP型強度の色弱者。

岩本 崇(いわもと たかし)
Creative Cloud セグメントマーケティング部 マーケティングマネージャー
2004年にアドビ システムズ社に入社。Illustrator、Photoshop、InDesignなどのデザインツールを担当。一貫して広くデザイン、印刷市場へ最新製品を訴求。担当製品も多く、Adobe FontsやAdobe Fresco、Creative Cloudで新たに追加されたサービスやツール、モバイルアプリにも注力をしている。

▼Adobe Color アクセシビリティツールの詳細はこちらをご覧ください。
https://helpx.adobe.com/jp/creative-cloud/adobe-color-accessibility-tools.html 


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