DXについて考える:家電(IoT)

 DXについては、正確に理解されている人はほとんどいないと思う。少なくとも、DX人材を登用、の具体策がシステム・エンジニアを自社で抱えるなどいうことも少なくない。気になる人は、適当な企業の採用ページのデジタル人材関係職種の要項を確認いただきたい。

 では、DXとは何か。DXは、デジタル技術を価値創造プロセスの中核に取り込むこと、である。また、その結果、全社戦略を含めた変革、である。経済産業省のDXレポートが引用されたり、DX概念の提唱者であるエリック・ストルターマンの言葉を引用されたりすることが多いと思う。概ね、デジタル技術やITを用いて社会をより良くする、といったものとなっているが、この定義よりDXを実装することのできる企業は存在しないだろう。


IoTの功罪

 IoTとは、Internet of Things、の略でモノがインターネットと繋がるという意味だ。スマホアプリと連携している家電は概ねIoTと言える。また、家電量販店で扱われる物財が主な対象であるから、法人・個人の別は問わない。例えば、プリンターは個人でも法人でも使う機会はあるだろうし、厳密には提供価値が異なっていたりするが、DXという観点からは概ね変わらない。
 では、IoTによって何がどうなるのだろうか。私は「非デジタル財のデジタル財化」と考えている。つまり、家電はハードウェア(非デジタル財)としての機械であったが、ソフトウェア(デジタル財)の部分も含めて成立するようになる。
 結果、IoT家電は、様々な可能性が広がることになる。全ての動作を記録することが可能となり、これをクラウドストレージへ入力、これをビッグデータとして解析し、ソフトウェアに更新データとして出力する。つまり、一度、購入しさえすえばハードウェアが耐えうる限り永続的に機能拡張が可能であるのだ。例えば、スマートフォン、とりわけiPhone、においては古い機種でも使えるという評判を聞くことは少なくないだろう。この様に、IoT家電は様々な機能拡張を潜在的に備えており、革新、を期待することができる。
 一方で、こうした機能を享受した上で製品開発ができるか、というと難しい。なぜなら、ハードウェアとソフトウェアとでは、性質が根本的に異なるからだ。例えば、特徴的な性質としては、ハードウェアは完璧なものを事前に計画して完成させるのに対し、ソフトウェアは検証を繰り返しながら持続的に成長させていく。以前のゲームソフトと以前のゲームソフトはまさにこれである。以前のゲームソフトはバグがあろうがなんだろうが一度流通させたら基本的にメーカーはノータッチであるし、販売のみで収益をあげている。近年のゲームは販売時に収益を上げながら、イベントやDLC(追加機能の配信)などを持続的に行うことで、一つの作品を売って終わりではなく持続的に収益を得るモデルがある(大体のスマホゲームおよびGTA5などで確認できる)。また、ソフトウェアの更新をネット介して行えることから、バグなどの修正も発売後に可能である。
 家電は以前のゲームソフトに近いモデルである。では、このように明らかに働き方の異なる組織を統合して、価値提供を中心に束ねることは可能であろうか。例えば、評価指標の異なる組織を束ねる上流の部署を新設し、ブランドとして体験価値を戦略的に描く必要がある。しかしながら、既存の企業文化に引っ張られず、かつ基本的な企業戦略およびデジタル戦略をイノベーション(価値観の変化)やマーケティング(価値提供の方法論)などにも精通している人材は、簡単には獲得できないだろう。


私の考える家電DX:提供価値

 私の考える家電DXにおける提供価値は、住居全体におよぶ様々な家電を単体として売るのではなく、コト消費を基準として価値提供することだ。
 例えば、エアコン、である。エアコンの提供価値は、空調管理、である。それ自体は確かに現行品で達成されているだろう。コト消費に焦点を当てるとどうであろうか。手動でモードや温度を設定し、故障しても自分から連絡しなければならない。極めて手間である。これをDXとして考えるならば、以下のような4Psを考える。

Product:基本的には、暖房、冷房、ドライ、送風、といった基本的なモードのみで自動運転。全ての稼働データを本部で取得・解析を行い、定期的にアップデートを行う。つまり、利用者の多いエアコンが精度の高い自動運転を実現できる。また、故障などもセンシングにより認識し、メーカーから提案する。

Price:サブスクリプション(年間契約の定額制)である。これは他のサービス等と同じである。提供価値に焦点を当てて、メンテナンスなどの付帯サービスを標準で追加する。今回でいえば、故障時の修理や交換、などが当てはまる実際の金額は専門家ではないのでなんとも言えないが、安いモデルで年間1万円程度だろう。

Place:直販(EC)が基本となる。なぜなら、サブスクリプションモデルというのは、分かりやすく言い換えれば、定額料金制のレンタル、だからである。ただし、確かにエアコンの場合、設置、などの業務があるが、その程度の手配はメーカーでも可能である。若年層をターゲットとするならば、販売員の説明は不要だろうし、説明が必要な複雑な商品は結局売れない。

Promotion:インターネット広告が基本となる。こうしたサービスは若年層が基本的にはターゲットとなりうるから、テレビ離れの進んだ若年層にコストをかける必要はない。家電をレビューしているYouTuberでもいいだろう。

さいごに

 DXというと、デジタル技術により良い社会をつくる、とザックリ解説されていることが多いがその実は複雑な組織変革が必要である。まず、デジタルの性質を商品開発と組織開発の両面から理解し、現在との違いを明確にする必要がある。それによって、どのような戦略を採用するのかが明確になる。例えば、今回の家電であれば、ソフトウェアをアップデートすることの価格設定(無償か有償か)や収益点が販売によるものか/それ以外か(サブスクリプションなど)、などが挙げられるだろう。そして、実行できるだけの評価指標の設計をしなければならない。

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