日本海軍の階級について (11)陸軍との比較
最後に海軍と陸軍の階級について簡単に比較してみます。
前回までの記事は以下になります。
日本陸軍
海軍も陸軍も、日本の官吏制度や兵役制度の上にそれぞれの階級を設定しているので基本は同じであるし、意図的に足並みを揃えたとみられる事柄も多い。それでも特徴は出るもので、異なる点は少なからず見られる。
なお陸軍の階級の歴史にはあまり詳しくないので、ごく基本的な内容以外はほぼ昭和期を想定している。ご理解いただきたい。
兵科・各部
陸軍軍人を大きく兵科と各部にわけた。兵科は直接戦闘を想定されており、歩兵・騎兵・砲兵・工兵・輜重兵・航空兵・憲兵のいわゆる七兵科があった。航空兵科は大正末に新設された。
各部は兵科を支援するもので、経理部・技術部・衛生部・獣医部・法務部・軍楽部があった。
兵(兵科・各部)
海軍では兵の階級は四等級(大正半ばまでは五等級)で例えば一等水兵・二等水兵・三等水兵・四等水兵だったが、陸軍では長く上等兵・一等兵・二等兵の三等級だった。
陸軍の現役は2年で、日中戦争がはじまるまでは歩兵などでは1年6月で帰休となるのが通例だった。入営すると二等兵となり、翌年には一等兵に昇進し、除隊するまでに一部が上等兵に昇進した。上等兵のうち下士官の補佐を命じられた者を伍長勤務上等兵、通称「伍勤」と呼んだが階級ではない。
日中戦争がはじまって現役期間が長くなるといつまで経っても上等兵から進級できないと不満が出、昭和15(1940)年に兵長が新設されて四等級となった。
陸軍と海軍での兵の違いは等級の呼び方であったが、兵科名の組み合わせ方にも差がある。海軍では海軍一等航空兵などとしたが、陸軍では陸軍航空兵一等兵としていた。「航空兵」の位置が異なっていることがわかる。
昭和15(1940)年に兵科が統合され憲兵以外の兵科呼称が階級から除かれ、単に陸軍一等兵などとなった。
各部の兵では例えば陸軍衛生一等兵などと称した。
下士官・准士官(兵科・各部)
下士官三階級、准士官一階級は海軍と同じである。判任官が四等級であることによるのだろう。
下士官は下から伍長、軍曹、曹長で、准士官ははじめ特務曹長といったが准尉と改称された。兵科を冠していたが昭和15(1940)年に憲兵以外では除かれたのは兵と同様である。
なお陸軍では海軍の特務士官に相当するカテゴリはなく、准士官から昇進すると将校となる。
将校(兵科)
兵科将校の階級は海軍と基本的には同一であるが、大佐以下では兵科を冠して陸軍歩兵大佐、陸軍騎兵中佐などと呼んだ。少将以上では兵科は称さず単に陸軍少将などと呼んだ。昭和15(1940)年の兵科統合で憲兵のみ引き続き陸軍憲兵少佐などと呼び、それ以外は陸軍大尉などと呼ぶようになる。
大正時代にはすでに騎兵無用論があらわれたりするなど古典的な兵科による分類に疑問がもたれるようになり、昭和に入ると機甲部隊の編成が模索されるなどしたが、日中戦争での実戦経験は兵科の再編成を余儀なくし、柔軟度をあげるためにも兵科の壁をとりはらい、より細かい、しかし変更も容易な兵種に模様替えすることになった。
将校(各部)
兵科以外の士官の階級呼称が兵科と同様のものになったのは海軍では大正8(1919)年だったが、陸軍では昭和12(1937)年2月15日にまで下る。ただし海軍では最後まで「将校相当官」とされて将校とはされなかったのに対し、陸軍では「各部将校」として将校に含まれた。
改称後は例えば陸軍主計中将、陸軍軍医少将など海軍とほぼ同様であり獣医部があるのが大きな特徴である。
海軍でも医師免許をもつ海軍軍医大尉などと免許を持たない海軍衛生大尉などを区別していたが、陸軍でも同様の区別をしており、他にも獣医(獣医師免許あり)と獣医務(獣医師免許なし)、法務(法曹資格あり)と法事務(法曹資格なし)という組み合わせがあった。
改称前の階級呼称は海軍とは異なるパターンとなっていた。軍医を例として以下に説明する。
尉官では一等ないし三等軍医と呼んだ。三等軍医がのちの軍医少尉、二等軍医がのちの軍医中尉、一等軍医がのちの軍医大尉である。海軍では少軍医、中軍医、大軍医といった。
佐官では一等ないし三等軍医正と呼んだ。三等軍医正がのちの軍医少佐、二等軍医正がのちの軍医中佐、一等軍医正がのちの軍医大佐である。海軍では軍医少監、軍医中監、軍医大監といった。
将官では軍医監がのちの軍医少将、軍医総監がのちの軍医中将である。海軍ではいずれも軍医総監と呼んでいた。
軍楽部では一等ないし三等楽長と呼んだ。三等楽長がのちの軍楽少尉、二等楽長がのちの軍楽中尉、一等楽長がのちの軍楽大尉である。
おわりに
最後の最後で自分はやはり陸軍のことはほとんどわかっていないのだなあと思い知らされました。もう少し書きようがあったはずですが気力も追いつかずぐだぐだになってしまいました。申し訳ありません。
連載が終わってしまったので次のネタを考えなくては。
ではもし機会がありましたらまた次回お会いしましょう。
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