日本海軍の階級について (8)法務科
今回は法務科と、あわせて文官について簡単に。
前回までの記事は以下になります。
文官
海軍で勤務するものには軍人(武官と兵)だけではなく、それ以外のものも含まれており、厳密な定義はないが一般に総称して軍属といった。
軍属には文官(高等官・判任官)と、官吏ではない雇員・傭人が含まれた。官吏の任用は最終的には天皇の権限で非常に重いものである。そこでまず雇員・傭人として採用したうえで勤務成績をみて官吏に任用するという方法は海軍に限らず官庁では広く行われていた。雇員は主に事務職、傭人は主に技術職とされており、傭人には艦船で働く理髪師や洗濯人、料理人などのほか、海軍工廠で働く職工なども含まれた。
職工のなかには技手養成所での教育を経て判任官である技手に任官し、高等官である技師に任用されるものも現れる。技術科が創設されされたのちに技術科の海軍軍人(武官または兵)に転ずるものも現れた。海軍軍人ではない軍属のなかには陸軍の兵籍をもっていて戦時に召集され得るものもいた。
なお、職工から昇進するのとは別に、大学や専門学校を卒業して技官として技手や技師に任用されるケースもあった。海軍では兵舎などの設備を管理するために大学生などで建築学を学んだ技術者を任用していたが武官としては相当する科がないため文官として勤務していた。
ここからは高等官の主な文官を簡単にとりあげる。
海軍の学校で教官を勤めるのが教授である。例えば海軍兵学校には英語を教える文官教官がいた。
編修は文書の作成、修正にあたるもので、多くは水路部で海図の作成、修正をおこなっていたが、公文書の収集整理も行っていた。
海軍省には事務官、理事官がいた。大臣の指示をうけて事務をとった。
この他、各省官制通則で定める書記官がいた。官房の事務をつかさどった。
もっとも官等が高いのは法務官で、大正時代までは主理と呼んだ。艦隊や鎮守府、東京に置かれた軍法会議で検事や判事を勤めるため司法試験に合格する必要があった。最高位のものは中将相当の勅任官一等で、海軍省法務局長を務めた。
法務科
昭和17(1942)年4月1日に法務科士官が新設され、法務中将から法務中尉までの階級がもうけられた。当時、軍人でなかった法務官を軍人として命令に従わせようとする陸軍内部での動きがあったとされ、内実はともかく制度として海軍も追随したということらしい。文官である法務官は廃止されて法務科士官に転官した。
昭和18(1943)年11月1日に法務少尉が新設された。
昭和20(1945)年5月15日に特務士官たる法務大尉以下、上等法務兵までの階級がもうけられた。軍法会議などで事務を補佐する録事などが転官した。
法務科の識別線は萌黄色である。
兵(法務科)
昭和20(1945)年5月15日に新設された。一等兵、二等兵は存在しない。
上等法務兵は上から二級目となるが法務兵としては最下級である。
法務兵長は兵の最上級である。
下士官、准士官(法務科)
昭和20(1945)年に新設された。
二等法務兵曹は判任官四等に相当する。
一等法務兵曹は判任官三等に相当する。
上等法務兵曹は判任官二等に相当する。
法務兵曹長は判任官一等に相当する。
特務士官(法務科)
昭和20(1945)年に新設された。
法務少尉は高等官八等(奏任官六等)に相当する。
法務中尉は高等官七等(奏任官五等)に相当する。
法務大尉は高等官六等(奏任官四等)に相当する。
特務士官たる法務大尉は特選により士官たる法務少佐に任用され得た。
士官(法務科)
昭和17(1942)年に法務中尉以上が新設された。大学法学部卒業者のみを想定していたため少尉の設定はなかった。
昭和18(1943)年に司法試験に合格していれば学歴を問わない規定が追加され、それにともない法務少尉が新設された。
法務少尉候補生は制度としては存在した。
法務学生は大学在学中に依託学生に採用されて海軍兵籍に編入され、卒業後に相応の階級の士官に任官するものである。
法務見習尉官は法務科士官に任用される前に少なくとも2ヶ月の実習を経るものである。
候補生と見習尉官は海軍部内限りで高等官の待遇をうけた。
法務少尉は高等官八等(奏任官六等)に相当する。昭和18(1943)年11月1日に新設された。
法務中尉は高等官七等(奏任官五等)に相当する。昭和17(1942)年4月1日に新設された。以下同じ。
法務大尉は高等官六等(奏任官四等)に相当した。
法務少佐は高等官五等(奏任官三等)に相当した。
法務中佐は高等官四等(奏任官二等)に相当する。
法務大佐は高等官三等(奏任官一等)に相当する。
法務少将は高等官二等(勅任官二等)に相当する。
法務少将は鎮守府の法務長と軍法会議判事を兼ねることが多い。
法務中将は高等官一等(勅任官一等)に相当する。
法務中将のポストは海軍省法務局長である。
法務科士官には親任官(大将相当)は設定されていない。
おわりに
法務科は武官・兵としては歴史が短いので記述は簡単になってしまいました。文官としては初期からあるのですが。
次回は軍楽科その他を取り上げます。
ではまた次回お会いしましょう。
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