見出し画像

家具デザインの記録

こんにちは。
今回は家具メーカーで初めてデザインを行ったときのことをお話しします。

新卒で入社して1年ほどが経過したときのことです。
先輩社員から
「そろそろ商品のデザインをしてみようか」
と声をかけられました。

先輩たちがデザインをしていく過程を見ながら「早くデザインがしたい!」とフラストレーションが溜まっていた時期だったので、
「やります!」と興奮気味で言ったのを覚えています。

当時は
①市場調査
②コンセプト決め
③全体のデザイン
④ディテールのデザイン
⑤設計
⑥工場へ依頼

名称未設定-1


という流れをとっており、デザイン自体もある程度の自由さがありました。
ただ、今までにない面白い要素を取り入れないといけないという、
良い意味での「新人らしさ」が求められていました。

①市場調査
あらかじめ「テレビボード」というジャンルは決定していたため、
・リビングにおける生活環境
・家電(テレビやオーディオ)などの状況
・売り場の把握
を調査しようと思いインターネットやヒアリングを通して情報を集めていきました。

そこで分かったことは、
・テレビが大きく、安価になってきている
→大きいテレビでコンテンツを視聴したい

・若者のテレビ離れが進行している
→テレビ番組以外のコンテンツを楽しんでいる
→家で映画や音楽を聴く機会が増えている

・どのメーカーも似たような商品を出している
→売り場で目を引くような商品が求められている

というところでした。
分かったことからコンセプトを仮決めすると…

「大きいテレビで映画を楽しみたいと思っている人に向けたテレビボード」
となりました。
しかし、テレビ画面は大きくなり満足度は高まっていますが「音響」はどうなのか?という問題が浮上してきました。何よりターゲットが広すぎて定まりません。

当時はテレビに内蔵されているスピーカーはお世辞にも音質が良いとは言えず、市販されているスピーカーも映画を観る際はサラウンドシステムを構築することが推奨されていました。

しかしサラウンドシステムを導入しても、テレビボードに置くスペースが確保されていなかったり、「どう配置すればいいか分からない」という問題を抱えている人が多くいました。

②コンセプト決め
市場調査・分析を経て最終的には

「ホームシアターを手軽にご自宅で実現する」

というコンセプトに決定しました。

③全体のデザイン
「自宅で映画を観る」時に何が必要で、何がいらないのか。
これまでにあったテレビボードの概念を一度分解しながら考えていき、全体のバランスやデザインを決めていきました。

2022-07-01 のコピー


イメージを図面に落とし込み、立体イメージを構築します。

正面2

図面描画ソフトはjww、3DモデリングはSketchupを使用しています。
どちらもフリーで手に入るソフトのため、誰でも簡単に扱うことが出来ます。

④ディテールのデザイン
全体の像が決まったらディテール(細かい箇所や整合性)を考えていきます。例えば扉の納まりを考える時に蝶番のかぶりはどのくらい必要か、など使用する金具などの制限や工場で加工可能な形状を本体に反映していきます。
そこで難しいと感じるのが、「見せたい(感じてもらいたい)イメージ」「実現可能な設計」がイコールではないということです。

分かりやすく例えると、
スタイリッシュに見せる為に厚みは5mmにしたいけど、加工や物理上20mmにしないといけない、という感じです。

経験を積んでくればその塩梅は大体分かってくるのですが、初心者だった私はとても苦戦しました。

⑤設計
ディテールのデザインをしていくなかで、自ずと設計に入ります。
また、自分自身だけの考えや物理的な側面だけを忠実に守っていても良いものは生まれません。なぜならば自己中心的な「作品」になってしまうからです。
たとえ市場を分析したとしても、その分析は自分だけの解釈にしかすぎず、周囲の人に聞いたり、あらためてユーザーとコンタクトをとったりして精度を高める必要があります。

そして、工場で作れる形(作りやすさなども加味)に設計を整えて製作していきます。

⑥依頼
ここで言う依頼とは、工場に製作を依頼することです。作れる図面にした後にその図面を持って工場に依頼をするのですが、工場の方たちは目の前の自分がなすべき仕事を大事に思っているので、難しく手間がかかる加工には良い顔はしません。また、開発部も工場も同じ会社の人間であるため、上下関係は必ずあり、工場の意見を尊重しなければいけない場面というのは必ずあります。
そこで、「何故この加工が必要なのか」「どうしても難しいなら代替案はないのか」など、デザイナーである自分が相応の知識と説得力を持って話し合いをしなければなりません。
よく求人などの募集要項で工場との折衝経験を条件として記載されている企業もあるように、コミュニケーションはモノづくりをするうえで非常に重要であると言えます。

そんなこんなで出来た製品がこちら。

画像4

画像5

当時にしてはとても斬新で新人らしい「おもしろい」ものが出来たと思います。

展示会に出展した際は大半の取引様に受注を頂き無事製品化することが出来ました。
初めてデザインをして、それなりの評価を頂けたのでその時はとても嬉しく感じたことのない充実感、幸福感を感じました。


この製品は爆発的なヒットこそしていませんが、「欲しい人には刺さる」コンセプトの製品になっており、現在でも廃盤にならずに製造を続けています。

以上が初めてデザインを行ったモノづくりの流れになります。
これまでいろいろなインハウスデザイナーの方のお話を聞いていても、企業によってやり方はバラバラです。
いろいろな制限はありつつも、その企業にしかない特性を活かしながら、そこにしかできないモノづくりをしていけると、とても楽しいと思います。

そして、そんな苦労(?)をしつつも、仲間たちと作り上げたものが各ご家庭の生活の一部になっていて、お客様から反応を頂けるととても嬉しく、非常にやりがいのある職業だなとつくづく思います。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?