ドライブスルーに春が来た
※ 閲覧注意
僕はいつも仕事に出かける時、家からすぐ近くにあるマクドナルドのドライブスルーでコーヒーを買っていく。
よほど胸焼けしてる時やドライブスルーが超混んでる時は本当にスルーしてしまうけれど、そうでなければ、必ず毎日同じマックでコーヒーSサイズのみを買っていく。
ホットコーヒーがアイスコーヒーに変わったその日が、僕の中では春が来たと認定する日。毎年そう。ちなみに今年はまだホットを買っている。
で、そのマックで昨年春くらいまでの2年くらい、週末の朝にドライブスルーに行くと、必ず同じ店員さんがいた。
推定年齢20〜21歳。おそらく週末のみのバイトで、どんなに朝早く行っても必ずいる。朝の4時でも5時でも、週末ならば彼女は必ずいた。
頑張り屋さんだなぁ、近くの某女子体育大学の学生かなぁ、なんて想像したり。
垢抜ける前の綾瀬はるかをもっともっと純粋無垢にしたような感じで、爽やかで可憐で屈託がない、天使のような子だった。
週末の朝の出かけ際、つまり僕にとってそれはほぼ「試合」に行く日の朝だった。
少し緊張気味で、時には吐き気を催しながら出かけるような朝でも、彼女からコーヒーを買うあの1分程度の時間に僕はいつも癒され、時には勝手に救われていた。
もちろん恋愛感情とかそういうものではない。ホントに違うので誤解なきよう。
彼女に会うためにコーヒーを買っていた、ということでもない。
(いや、それはあったかもしれないが)
あの少しの時間で彼女がくれるのはコーヒーだけでなく、これから始まる激動の週末に向かう僕に、ひとときの癒しとホッとする時間をくれていたのだった。
趣味で始めた短歌で、まず真っ先にこんな歌を詠んだほどだ。
コーヒーを 差し出す君の 冷えた指
週末の朝に くれる温もり
僕のデビュー作である。
そろそろ確実にキモくなってるとは思うのですが、気にせず書き続けます。
あれだけ通えばそりゃ顔も覚えられたのか、そのうち「おはようございます」と言ってくれるようになり、そのうち、その「おはようございます」の前に「あっ」が付くようになる。
彼女「あっ、おはようございまーす」
である。
「あっ、また来ましたね」の「あっ」である。
たぶん。
自分のステージがひとつ上がったぜ!と、僕は勝手に喜んでいた。
さらにステージは上がり、そのうち
「あ、おはようございまーす。いつもありがとうございます。へへ」
である。
「ステージさらに爆上がり!」と、ひとり車中で歓喜しながらコーヒーをしみじみ味わう僕だった。
コーヒーを 差し出す君の 冷えた指
週末の朝に くれる温もり(二度目)
そんなある日、彼女の制服の色がいつの間にか変わっていた。
それまでは赤だったのに、なんかグレーっぽい感じ?になっていて。
マックバイト経験者に聞いたら、それはマックでの彼女のランクが上がったということらしい。
なるほど! それはいいことを聞いた。
それまでは挨拶を交わすしかできなかったのだけれど、これは、、自分のステージをさらに上げるチャンスがとうとう来たじゃないかと。
今度行ったら「あ、制服の色変わったんですね」って言うぞ。
と、そう心に決めていた。
まぁ、言えるわけない。
その後も何度も何度も朝の時間に彼女とコーヒーを介して挨拶を交わしたが、
「制服変わったんすね」とは、とうとう言い出すことができなかった。
次こそは、次こそは⋯と思ってるうちに
いつに間にか、彼女はいなくなってしまった。
彼女がいなくなったのは、昨年の春頃からだ。
就職活動が始まって忙しくなったからバイト辞めたのか、それとももう大学を卒業してどっかに就職しちゃったのか⋯もう二度と、彼女には会えないのか。
仕方ない。あんなに癒された時間はなかったのに、これからはもうそれができない。彼女もどこかで元気で暮らしているんだろうけど、やっぱり寂しいなぁ
違う店員さんにコーヒーを貰うたびに、そんなことを思いながら。
彼女がいなくなってから、もう一年くらい経った。この一年で、僕を取り巻く環境も大きく変わった。長い一年だった。
そのうち彼女のことを思い出すことも少なくなって、でもコーヒー買うとたまにまた思い出したり⋯
最近は、もうすっかり忘れていたのだけど
つい一昨日のこと(3月12日)
いつものようにドライブスルーに行って、僕の注文の番が来た時に機械の向こうから聞こえてきた声
「いらっしゃいませ、ご注文お伺いしまーす」
聞き覚えのある声だった。
あっ!と、一瞬であの顔が浮かんだけれど、いやまさか違うだろ。だって就職したんだろうし⋯と思いながら窓口へ向かったら
そこには、あの彼女がいた。以前とは違いマスクをしていたけれど、すぐにわかった。
え
え
え
そんなドキドキを隠しながら100円を出して、素知らぬ顔でコーヒーを受け取った。
彼女は「おはようございます」とも「あっ」とも言わなかった。
・・・
まぁ、当たり前だ。それでいい。
でも
あの爽やかさも可憐さも明るさもまるで変わってなく、あのまんまだった。
他の店員さんとは違い、マニュアル的で機械的な言葉もない。自然に自分の言葉で対応してくれる、彼女だけの、懐かしいあの感じだった。
実はテンパってdポイントの画面を出すのを失敗したのだが、すいません⋯って言うと「全然大丈夫ですよー。へへ」と笑ってくれた。こういうとこ!(懐)
就職したんじゃなかったのか
実はマックに就職したのか
一回やめて、また戻ってきただけなのか。
いや、そもそも全然やめてなくて単に時間がズレていただけなのか
そんなことはどうでもいい。
とにかく僕は、またあのコーヒーの1分間が帰ってきたことが嬉しい。
そういえば、彼女の制服の色がまた変わっていた。
いつか、今度こそは「制服変わったんすね」と言えたらいいなぁ。
まぁ、言えるわけないんだけど。
こんなキモい文章に、最後まで付き合ってくれてありがとうございました。
キモさついでに、最後にまた一句。新作です。
制服の 色が変わった君に会う
ドライブスルーに 春がまた来た
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