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ダラダラしたい時に読む本

ダラダラしたい時に読む本というのがあります。例えば寒い冬にコタツにくるまりながらうつらうつらと読む本、あるいは「今日はもう何もしない」と決めた休日にソファでごろごろしながら読む本。

そんな本を考えた時に、今パッと思いつくのが内田百閒の『阿呆列車』です。(「あほうれっしゃ」と読みます)

用事がなければどこへも行ってはいけないと云うわけはない。なんにも用事がないけれど、汽車に乗って大阪へ行って来ようと思う。


何の用事や目的もなく、遠距離列車に乗って出かけようとする人はおそらく少ないと思うのですが、著者の内田百閒はそんなちょっと変わった人です。そしてこれは、心に余裕がないことにはできない行為でもあります。ちなみに「お金もないと」と思う方もいるかもしれませんが、この著者、お金はたいてい人から借りています。(お金を借りてまで、目的のない列車旅に出ようとするのがこの作品の面白いところなのです)

著者には連れ合いが一人います。「ヒマラヤ山系」という名の(確か国鉄職員だったと思うのですが)、私のイメージではかなり無口なモッサリとした感じの男です。そのヒマラヤ山系と一緒に、食堂車に行って酒を飲み、会話ともいえない会話をしながら、あてもなく列車にゆられ続ける。

時には汽車に乗り遅れて、誰もいない田舎駅のホームで男二人、もくもくと煙草を吸い続けながら次の列車を何時間も待つ。綺麗な景色の描写があるわけでもなく、食べ物が美味しそうに描かれているわけでもなく、ただ当てもない汽車旅行と何も起こらない日常がたんたんと綴られるこの作品は、まさにダラダラしたい時に読む本の代表格といえるかもしれません。

でもこういう文章が書ける人ってすごいですよね。謎もなくイベントもなく紆余曲折もなく、これといった見せ場もちょっとした物語すらない。こんな内容で、読者にそれなりに(感想が書ける程度に)読ませてしまうわけですから。そしてミステリー小説のように筋を忘れてしまっても全く問題ない。どうせたいしたことは書かれてないわけですからね(笑)


内田百閒の『阿呆列車』は、とにかくダラダラしたい時(そのまま寝落ちしてしまいた時など)におすすめの本です。ちなみに、表紙は著者のコスプレです。


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