発達障害向け、飲み会を楽しく乗り切るコツ
会社員時代、僕は「飲み会」というものが苦手でした。
同期とならまだしも、上司や先輩を交えた飲み会が苦痛でした。
あいさつまわり、お酌、いつまで経っても慣れない上司との会話…。
できることなら参加せずに帰りたかったですが、今から15年前、まだ「飲みにケーション」なるワードが生きていた時代だったので、有無をいわせぬ圧力に屈して参加することも多かったのです。
まだ発達障害の診断を受けていなかったので、周りの人の飲み会での立ち回りは、僕にとっては神技のようにみえていました。
◯上司や先輩の飲み物の残量に注意をはらいつづける
◯運ばれてきた料理を人数分とりわける
◯誰かが箸を落としたらすかさず店員をよぶ
などが自然とできていたのです。
「なに、この人たちスーパーマンなの?」状態です。
自分にはそんな器用なことはとてもできなかったので、劣等感ばかりつのってぜんぜん楽しくなかったことを覚えています。
それからというもの、飲みの席で先輩たちからご指摘を受けるたびに真摯に自己修正を図り、参加せざるをえない飲み会では「学びの場」だと思って観察・研究に明け暮れました。
その甲斐あってか、今は、目上の方との飲み会も楽しめるようになりました。
今回は、僕が苦心惨憺して身につけた「飲み会を楽しく乗り切るコツ」をお伝えします。
もちろん、僕がポンコツであることに変わりはありませんので、いまだに飲み会では失敗をやらかすこともあります。
なので、上から目線で指南するつもりは毛頭もなく、読んでくださった方々と、いっしょに「飲み会スキル」を高めていければ、と思っています。
それでは、よろしくお願いします。
①飲み会の心得
(1) 何のために参加するのかを明確に
ひとくちに「飲み会」といってもいろんな種類があります。
職場の親睦会、結婚式の二次会、同窓会、オフ会…など、数えあげたらキリがありません。
そして、それぞれの飲み会には必ず「目的」があります。
それもそのはず、ご飯を食べてお酒を飲むだけならわざわざ集まらなくてもいいし、「会」にする必要はないからです。
わざわざ「会」にするわけですから、目的があるのです。
◯親睦を深めるため
◯誰かを祝福するため
◯旧交を温めるため
◯仲間をみつけるため
などです。
自分がどんな目的をもって参加するかはさておき、その飲み会の趣旨は知っておくべきです。
自分だけが趣旨に反したふるまいをしていては場の雰囲気を壊してしまう可能性があります。
その上で、参加する前に「自分は何のために参加するのか」をある程度明確にしておいた方がいいでしょう。
(2) 他の参加者へのもてなしの心をもつ
飲み会が楽しいものになるか、地獄絵図になるかは、ひとえに、参加者がお互いに「もてなしの心」をもっているかどうかによります。
お酒を飲むと尊大になったり自己中心的になったりする人がいます。
もし、参加した飲み会がそんな人ばかりだったら、きっと楽しくありません。
発達障害者の中には「参加したくない」「いやだな」という気持ちが先行しすぎて、他の人に意識が向かなくなってしまう人もいるかもしれません。
ですが、お酒が入っても、隣に座っている人、目の前にいる人に「楽しんでもらおう」という気持ちは、常にもっておきましょう。
それは決してむずかしいことではないと思います。
料理やお酒が尽きていたら「次なにします?」と聞くだけでいいですし、つまらなさそうにしてたら、定型文でもいいから言葉を投げかけてみるとかでもいいと思います。
とにかく、相手に対する「気づかい」を忘れないようにしたいですね。
ポイントは「◯◯さん」と相手の名前を呼ぶことです。
世界的な一流ホテルであるリッツ・カールトンでは、スタッフは親しみを込めて、必ずあいさつにはお客様の名前を添えるそうです。
たった一度の自己紹介で自分の名前をおぼえてくれたらとてもうれしいですよね。
これならちょっとくらいくちベタでもできますよね。
(3) 自分が楽しむことを忘れない
もてなしの心はとても大切ですが、自分が楽しむことも忘れないでください。
よく、飲み会で、せわしなく動きまわって、あれやこれやと、他の人の世話を焼いている人をみかけます。
もちろんシチュエーションによってはそれが必要なこともあるでしょう。
ですが、自分も「参加者の一人」であることを忘れないでください。
誰かが一人で忙しく動きまわっていると、他の参加者もおちついて楽しめなくなってしまう可能性もあります。
その場にいづらくなって何だか動いてしまう、という気持ちはわかります。
ですが、ときどき手をとめて、会話に参加したり、ゆっくり料理やお酒を味わいましょう。
会話が苦手でだまってしまうのがイヤというのであれば、メニューを眺めながら、なにを食べようか考えておいたらいいです。
決して、スマホをいじったりしないようにしてください。
せっかく参加したんだから、飲み会が終わるまでは、心も体もその場にいながら楽しんでください。
やさしい参加者が声をかけてくれたなら、そっぽを向かず、お酒の力を借りて、自分を解放してくださいね。
(4) 飲み会での楽しみ方は人それぞれ
ここまで読むと、飲み会って「なかなかハードル高いな…」って思いますよね。
でも、だいじょうぶです。
飲み会の楽しみ方なんて、人それぞれで、正解なんてありませんから。
他の参加者の迷惑にならない範囲であれば、自分なりの楽しみ方をすればいいんです。
僕は、日本酒が好きなので、同じく日本酒が好きな参加者といろいろ飲み比べをして楽しんだりもします(もちろんお酒をいっぱい飲む場合はその分多めに払います!)
他にも、過去にいたのは、おしぼりを使っていろんな動物をつくって披露する人や、テーブルマジックをみせてくれる人なんかもいました。
つまらなさそうにしてるよりは、心から楽しんでいた方が、きっと他の参加者も嬉しいはずです。
(5) 意外とこわい飲み会のワナ
ここまで「だいじょうぶ!たのしんだらいい!」というニュアンスで書いてきましたが、すこしこわいことを書きます。
「無礼講」という言葉は聞いたことがありますか?
僕は「今日は無礼講だから」という言葉を信じて、上司や先輩との関係をぶち壊してしまった人を何人もみたことがあります。
「お互い酔ってるからなにを言っても明日には忘れるだろう」とか「酒の席だし許してもらえるだろう」は、残念ながら一般社会では通用しないことが多いです。
無礼講とはいえ同じです。
上司が場を和ませるためにいった言葉を、字義どおりに解釈して、いきなりタメ口で話すなんてもってのほかです。
他にも、酔った勢いで、ついつい相手に本音をもらしたり、無礼なふるまいをしてしまったりして失敗する人もいます。
残念ながら、人は酔っていても、プライドを傷つけられた記憶はずっと覚えているものです。
飲み会では、いくらお酒を飲んでいても、最低限のマナーと相手への敬意を忘れないでいてください。
(6) 自分の許容量を知っておく
お酒の強さは人によって千差万別です。
一滴でも飲んでしまうと重篤なアレルギー反応が出てしまう人もいれば、朝まで飲み続けてもケロッとしている人もいます。
お酒の強さは、体内のアルコール分解酵素の量によって変わるようです。
そして、日本人には、この酵素が少なくてお酒が強くない人が多いそうです。
「自分がどれくらい飲んだら危険水準に達するのか」は、若いうちに知っておいた方がいいかもしれません。
少しでも気持ち悪いと感じたら、それが危険水準と思っていいと思います。
あとは、自分の親の酒量を参考にするといいです。
お酒の強さは、ほぼ遺伝だと言われているからです。
お酒に関しては無理は禁物です。
飲み会では、誰か一人でも無茶な飲み方をすると、雰囲気は壊れるし、介抱のために多くの人に迷惑をかけることになります。
そうならないためにも、自分の酒量を「生ビール中ジョッキ3杯」「日本酒2合」などと、具体的な数値で把握しておきましょう。
そして、可能なら、はじめて飲む人にはそれをあらかじめ伝えておくといいかもしれません。
②シーン別のコツ
(1) 職場の飲み会(幹事)
仕事をはじめるときは、誰もが「新人」です。
そして、日本には、新人が職場の親睦会の幹事をするという文化があります。
もしかすると、これを読まれている方の中にも、今まさに幹事の役割を与えられて、戦々恐々としている人もいるかもしれませんね。
職場の親睦会の幹事の仕事はどんなものかというと、ざっくりと以下のようなものになるかと思います。
(僕が新人当時のものですので、一般的なものと少し異なるかもしれません)
⚫︎当日までにすること
◎企画、全体への周知
◎参加者募集、参加人数の把握
◯進行表、席次表の作成
◎挨拶やお言葉の上司への依頼
◎店の予約
⚫︎当日すること
◎店への誘導
◎座席への案内
◯司会進行、タイムキーピング
◯雑役(注文の集約・空いた皿やグラスを下げる、など)
◯上司や先輩への挨拶回り
◎参加費徴収、会計
◯二次会の店の予約
◯帰宅者、二次会参加者の誘導
◯(慣例なのであれば)自己紹介、出し物など
⚫︎後日すること
◎多めに出してくれた上司や先輩へのお礼
◯(必要に応じて)会計報告の提出
はい、これだけあると、まったく楽しめませんし、倒れそうになりますよね(笑)
ですが、大抵の場合、新人全員でやると思いますので、ご心配なく。
あと、そこまで規模が大きくないこぢんまりした親睦会なのであれば、◎の項目だけで済むと思います。
さて、発達障害者が幹事に任命された場合、どのように乗り切ればいいでしょうか。
おすすめは、当日までにすることを引き受けることです。
ASDやADHDの傾向をもっていると、当日に場の空気を読んで上手に立ち回るのは、とても難しいと思います。
ならば、企画から店選び、店の予約までを担当した方が持ち味を発揮できると思います。
ここはひとつ、イベントプロデューサーのような立ち位置を楽しんでみたらいいと思います。
まず、参加者の募集は、さまざまなツールを使えば昔よりはかなり楽にできます。
参加者のLINEを把握しているのであれば、LINEの「投票」や「日程調整」はかなり使えます。
僕は、幹事をするときは、ほぼ毎回これを使います。
あ、いいそびれましたが、今では、僕は自ら幹事を買って出るほど「飲み会仕切るの大好き人間」になりました。
そして、幹事がもっとも力を発揮したいのが「店選び」です。
飲み会の成否は店選びで決まるといっても過言ではありません。
これについて語り出すと止まらないので、大事なポイントだけ書きます。
◯お酒が飲めない人がいるなら、料理やノンアルコールの種類が豊富な店を選ぶ
◯子づれ参加者がいるなら、キッズメニューやキッズスペースがある店も考慮する
◯外に漏れるとマズい話が出るなら個室を選ぶ
◯お酒にこだわりのある人がいるなら事前に好みをリサーチして、店のドリンクメニューを確認しておく
◯上司がお金を多めに出すことが想定されるなら、全体の飲み代が高くなりすぎないよう注意する
◯参加者のアレルギーや苦手なものはリサーチしておく
◯参加者が離れ離れにならずに座れるじゅうぶんなスペースがある店かを確認しておく(そのときに上座・下座の位置も確認しておく※1)
※1 席次については後ほど解説
一見「大変だな…」という印象をもってしまうかもしれませんが、大切なことは、参加者のことを事前にリサーチして、飲み会の目的にあった店を選ぶ、というだけなんですね。
当日、テキパキ動く自信がなければ、早めに準備をはじめてズバッといい店を用意するだけで、かなりありがたがられます。
そして「いい店だね」「こんな店よく見つけたね」とプラスの反応をもらえたら、小さくガッツポーズしましょう。
当日までに役割分担やあいさつの依頼を済ませておいて、飲み会中はしずかに全体を見守る、とかでもいいと思います。
余裕があれば、当日も、楽しみつついろんな役をやってみてくださいね!
(2) 職場の飲み会(若手参加者)
幹事ではないけれど、若手として飲み会に参加する、というケースもじゅうぶんありえますよね。
そんなときも、ちょっとしたコツをおさえておけば楽しめることまちがいなしです。
まずは、飲み会の店で「どこに座るか」がポイントになります。
飲み会の席には「席次」というものが存在します。
要するに、立場に応じた座席配置みたいなものですね。
上座・下座とよくみんなが口にしているアレです。
海外と日本では少しちがうみたいですが、今回は日本の席次についてだけお話します。
といっておいてなんですが、僕はビジネスマナーに精通しているわけではありませんので、詳しくは以下のサイトを参考にしてみてください。
【会社の飲み会の席次って?マナーや座席作成時に抑えておきたいポイント7つ】
https://lostash.jp/sales/business-manners/1077566
大事なことは、先輩や上司は、特別な要望がないかぎり、壁を背にしたソファ席や奥まった場所に座ってもらって、自分は動き回りやすい席に座る、ということです。
忙しい幹事の手助けに、店員が料理やお酒をもってくる場所に座して、注文の集計や配膳・下膳をアシストするためでもありますし、上司や先輩のところにいつでもうかがえるようスタンバイするためでもあります。
若手のうちは身軽にひょいひょいと動ける位置に座ることがいろんな意味で正解です。
そして、動き回れる位置を逆に利用して、今まで話したことのなかった人と話すなどしてみてはいかがでしょう。
最後に、これができるかどうかが評価の分かれ目なんですが、飲み会の翌日に、幹事や先輩方にきちんとお礼を伝えましょう。
忘れてしまう人も多いかもしれませんが、これをしておくことで「また誘ってあげたいな」と思ってもらえるかもしれませんし、飲み会の場だけでなく仕事面においても目にかけてくれるかもしれません。
(3) 職場の飲み会(先輩や上司として)
職場の飲み会であれば、先輩や上司として参加することも考えられますね。
実は、先輩や上司のお酒の席でのふるまいも、後輩や部下たちはちゃんとみています。
◯仕事では大きなことをいうわりに飲み会ではケチだ
◯飲み会でも理詰めで説教してくるなんてつまらない人だ
◯食べ方や飲み方が汚いから尊敬できない
こんなことをいわれないためにも、ポイントをおさえてスマートにふるまいましょう。
⚫︎飲みの席ほど伝え方はマイルドに
よく飲み会で部下と思しき人に説教しながら仕事論を展開してる人をみかけますが、完全にNGですね。
お酒が入ると誰しも感情的になりやすくなります。
シラフなら素直に聞ける言葉でも、酔っていたら感情的になって、いらぬ争いをまねいてしまうかもしれません。
どうしても伝えたいことがあるなら、マイルドな表現を心がけましょう。
⚫︎話すより聞く、を心がける
「この機会に話しておきたい」と、つい部下や後輩にあれやこれやと話したくなるかもしれませんが、飲みの席ではどちらかというとみんなの話の聞き役になった方がベターです。
新人や若手というのは「もっと聞いてほしい」という想いをもっていることが多いからです。
無礼講とまではいかないまでも、ときには自分から後輩たちとおなじ地平に立って、普段聞けない話を聞いてみるのも楽しいですよ。
その中で、ちょこっとこちらからのメッセージを伝えるくらいがちょうどいいかもしれません。
⚫︎立場が上なら多めに出す
会計の問題がいちばん悩ましいですよね。
どれくらい多めに出したらいいかは、ネットでも諸説あるので一概にはいえません。
個人的な経験でいえば、1年でも先輩であれば多めに出してくださっていたので、僕も後輩と飲みにいったら多めに出すようにしています。
まちがっても割り勘の額より少ないお金を出して「これでいいよ」なんていわないこと!
コントになってしまいます(笑)
⚫︎ガツガツ食べたり飲んだりしない
食べ方には人柄があらわれるともいわれます。
職場ではさっそうとした身のこなしをしていても、お皿に口をつけてガツガツ食べる姿をみせてしまっては、後輩や部下もドン引きです。
テーブルマナーや行儀のよさをしっかりとみせられるようにしましょう。
きれいな食べ方や飲み方は一朝一夕で身につくものではありません。
日頃から意識しておきましょう。
(4) プライベートな飲み会
プライベートな飲み会くらい自由に飲みたいですよね。
ですが、仲のいい友人であっても、微妙な関係の異性であっても、楽しく飲むためには気をつけるポイントがあります。
基本的には、①相手のことをリサーチして好みにあったお店を用意する、②もてなしの心をもつ、などこれまでお伝えしてきたポイントをおさえておけばOKです。
そのときは「相手がこの飲み会に何を求めているのか」を考えるといいです。
○遠方から会いにきてくれた友人にはご当地の名物が味わえるお店
○仕事柄、得意先との飲み会が多い友人には、ちょっとお洒落で接待に使えそうなお店(気に入ってくれたら、そこを彼が接待に使える)
○異性の友人には、お互い気を遣わない、チェーンの居酒屋
○意識が高い系の先輩には、流行りのお店
これらは全て僕がセッティングして喜んでもらえたお店なんですが、相手のニーズにがっちりマッチした結果だと思っています。
いかがでしたか?
結果的に、えらそうに語ってしまいましたが、何度もいいます。
いまだに失敗だらけです(笑)
なんせ、おっちょこちょいの発達障害者ですから。
でも、失敗の数よりも、楽しい思い出の方がずっと多いので、僕はやはり「飲み会」が大好きです。
今回のnoteが、みなさんが飲み会を楽しめるようになるきっかけになれば幸いです。
イルハン
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