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本当はこわい歩きスマホ

まちなかでよくみかける歩きスマホ

周囲に危険をもたらすことはもちろん、している本人たちにとっても、多大な悪影響をおよぼします。

まさに、百害あって一利なし。

ですが、スマホ依存症が進行して、歩きスマホをすることに対して良心の呵責が一切ない状態になってしまったら、残念ながら後もどりはできません。

私は、そうなってしまった人々を、哀れみを込めて「スマホ人間」と呼んでいます。

今回は、スマホ人間になってしまう人を少しでも減らしたい、という思いから、歩きスマホがもたらすさまざまな害悪をお伝えしようと思います。


①スマホとはなんなのか

ほんの数十年前、私がまだ子供だった頃、「電話」というのは固定式のものしかなく、ポケットに小型電話機を入れて持ち歩くなんて、遠い未来の空想に過ぎませんでした。

スマートフォンは、その登場以降どんどん進化して、今や手のひらの中でなんでもできる魔法のアイテムとなりました。

スマホに搭載された機能は、巧妙に、人間の本能的な欲求を充足するようにプログラムされました。

iPhoneのうみの親、故スティーブ・ジョブズをはじめ、シリコンバレーの富豪たちはそのことを当然知っていたため、自分たちの子供には絶対スマホを自由に使わせなかったそうです。

以下、2019年のニューヨーク・タイムズに掲載された記事です。

いちばん詳しい人ほど、その取り扱いについて慎重なのはよくあることだ。エンジニアたちはスマホがどのように機能するか知っているため、彼らの多くが自分の子供にはスマホを使わせないようにしている。

『スマホを禁じるシリコンバレーの親たちの「家庭内ルール」』Nellie Bowles


スマホの機能については、今更ここで詳しく述べる必要もないと思います。

いいですか?

大切なことは、スマホのことをいちばんよく知っているアメリカのシリコンバレーの親たちは、今なお、子供たちをスマホから厳格に遠ざけているのです。

それくらいスマホというのは依存性があって恐ろしいものなのです。

「知りたい」「誰かとつながりたい」「勝利したい」「何かを獲得したい」

そんな人間の欲求をフリックひとつで簡単に満たしてくれる『悪魔の発明』

それがスマホなのです。


②歩きスマホがもたらす恐怖

(1)衝動的な欲求を抑えられなくなる

「そもそも歩きスマホの何が悪いのかわからない」というレベルの人間はこの際おいておくとして、歩いている間も「みたい」欲求を抑えられないようであれば、前頭葉の抑制機能がかなり低下している証拠です。
人間が屋外を移動する際、周囲の環境をひっきりなしに確認して、ときには止まる、ときには待つ、など何度も何度も自分の行動を抑制する必要が生じます。
また、美味しそうな店頭の食品をみても手で触れない、性的に魅力的な人が近くにいてもいやらしい行動をとらない、など危険回避以外の意味でも、たくさんの抑制をしなければいけません。
しかるに、外を歩きながら「みたい」「誰かとつながっていたい」という自己の欲求を垂れ流しにしているということは、日常生活の中で自分の衝動をコントロールする機会を喪失しているわけです。

フロリダ州立大学のロイ・バウマイスター教授は、自分をコントロールする「意志力」を「筋肉」にたとえています。
すなわち、意志力は鍛えることができると同時に、使わなければ衰えていく、と。

習慣的に欲求を垂れ流す意志薄弱な人間は、いずれ衝動的な欲求を抑制する意志力を枯渇させるでしょう。


(2)集中力が落ちていく

前項で述べたとおり、衝動を抑える力が衰えていくと、集中すべきときに刺激をシャットアウトできなくなります。
また、それだけでなく、フリックやスクロールで瞬時に画面がきりかわるスマホからの情報量は、われわれの脳にとって多すぎるのです。
それが脳を疲労させてしまうため、肝心な場面で集中できなくなるのです。
ましてや、歩いているときは周囲にも気を配りつづけないといけないため、脳にとっては完全にオーバーワークです。

歩きスマホが常態化している人は、休むことなく脳に短距離走をさせているようなものなのです。

ここで事例を出します。

以前同じ職場だった後輩のM君は、休み時間もスマホ、通勤中も歩きスマホと、休むことなくスマホを使いつづけていたためか、他の誰よりも集中力に欠け、うっかりミスをくりかえしていました。
何度も上司から指導が入るも、いつもうわの空で、不注意が改まることはありませんでした。
結果、職場にいづらくなり、逃げるように退職していきました。

正直、彼の不注意が何に由来するものかはわかりませんでしたが、はためからみても異常なほどのスマホ依存症だったことと無関係だったとは思えません。

(3)認知の歪みが生じる

歩きスマホをしている人がよくいう言い訳として「自分はまわりがみえている」「誰にも迷惑をかけていない」というのがあります。
普通に考えて、これは思い込みに過ぎないのですが、当の本人たちはそう信じてうたがいません。
そもそも、自分はまわりがみえている、という証拠は何ひとつないわけです。

愛知工科大学の小塚教授が行った研究では、歩きスマホをしている人の視野はそうでない人の20分の1になるという結果が出ているのです。
つまり95%も視野を失っているわけですが、歩きスマホをしている人は、そうした科学的な検証結果を無視して、「自分はみえている」といいはっているわけです。

そして、誰にも迷惑をかけていない、という点についても、最近話題になったニュースが反証を示しています。
2021年にイグ・ノーベル賞(=人々を笑わせ考えさせた研究)を受賞した京都工芸繊維大学の村上助教授の研究です。
歩行者には「二つの対向した集団が接近すると、自然と列に分かれて互いにぶつからないように歩行することができる」という習性があるそうです(自己組織化)。
実験では、対向する集団の片方の先頭3人に歩きスマホをさせたそうですが、その結果自己組織化が行われずに集団がおおいに乱れたそうです。

もうおわかりですよね。
公共の場での歩きスマホは、ほんの数人であったとしても、交通の流れの妨害になる迷惑極まりない行為なのです。

「自分はみえている」「迷惑なんかかけていない」は、もはや妄想といっていいレベルです。
このように、事実とかけ離れたことを信じて疑わないのは、「認知の歪み」以外のなにものでもありません。


(4)体型がくずれていく

まちなかで歩きスマホをしている人を観察していると、みんな不自然に首が下を向いて猫背になっていて、全体として、ブサイクな姿勢になっています。
人間の背骨は自然にしていると緩やかなS字になっているのですが、スマホ画面をのぞきこむと頭が前方にでっぱって猫背になります。
そうすると、腰の部分の反りがより強くなり、下っ腹がぽっこり出てしまうのです。
その体勢で歩くと、腹筋が働かないのでだらしなくたるんだお腹になり、首・肩・腰はガチガチに固くなってしまうのです。

一生懸命に食事制限をしたり筋トレをする暇があるなら、歩きスマホなんかやめて、背筋をピシッと伸ばしてまっすぐ前を向いて歩いた方がよっぽど効率的にスリムな体になれます。

私からいわせると、歩きスマホをしているくせに、やれダイエットだの騒ぐのは愚の骨頂です。
自ら体型を崩すような習慣を好んでつづけているのに、どの口がいうのかという感じです。

歩きスマホが横行する現代、さっそうと前を向いて歩くだけでとても美しくみえますよ。


(5)視力が落ちていく

昔の人と比べると現代人は遠くをみる機会が圧倒的に減りました。
そして、意外と知られていないのですが、目のレンズである水晶体の厚みを調整する毛様体筋は遠くをみているときほどリラックスして弛緩するのです。
本来、屋外を歩くときはヒトは道の先や遠くの看板をみながら歩くわけです。
そうすると毛様体筋がリラックスするので、瞬時にレンズの厚みを調整するための柔軟性が養われるわけです。
広いアフリカの草原に住むマサイ族の人々の視力は8.0から10.0といわれているのも納得できますよね。

つまり、歩きスマホをしている人は、目の筋肉を休ませる機会を自ら放棄していることになるわけです。
早晩に視力が低下していくことは明白なわけです。


(6)危機意識がうすれていく

そして、歩きスマホは、平和な日本でこそそこまで深刻な事態をまねかないかもしれませんが、海外では命を危険にさらす可能性だってあります。

スリや強盗はスキのある人を狙っています。
手元ばかりをみて歩く人間なんて、彼らからしたらまさに「鴨がネギを背負って歩いている」ようなもの。
そして、若い女性にとっては痴漢や性犯罪の被害にあうリスクさえ高めてしまうのです。
歩きスマホをつづけていると、犯罪や事故への危機意識がうすれていくので、いつか取り返しのつかない事態をまねいてしまいますよ。

参考までに、東京消防庁が発表しているデータをいくつか載せておきます。

1️⃣事故種別ごとの救急搬送人員


2️⃣場所別救急搬送人員


3️⃣発生時動作別救急搬送人員


平和な日本とはいえ、外を歩くときはじゅうぶんまわりに気を配ってください。


いかがでしたか?

これを読んで「まずいな」「もうやめよう」と思った人は、まだ「スマホ人間」にはなっていないと思います。

そして、少なくとも最後まで読んでくださったならば、まだ後もどりはできるレベルであると信じています。

スマホに破滅させられる人生よりも、人間らしく健康に生きる人生を、いっしょに目指しましょう。

イルハン

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