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もの忘れを吹き飛ばすおばあちゃん!

長く高齢者の方々の相談支援をしていると、たまに奇跡のようなことが起きる。

私が、ご本人の友人から相談を受けて担当となった女性。高齢で一人暮らし。友人の同行で初回訪問すると、女性はとっても自信のない、不安げな顔をしていた。もの忘れが出てきて、物をなくしたり大事なことを忘れてしまうからだ。

近所に住む友人は心配して、介護保険の認定を受ける申請を女性に勧めたりしていた。女性も不安を感じながらも、まだ元気でいたい気持ちもあり、申請するか迷っていた。

女性の迷う気持ちを大切にして、申請するかは保留とし「また話を聴かせて頂けたら」と伝え、1週間くらい後に、また訪問することとした。友人も同席してくれた。

次の訪問の時、女性の趣味を聴いた。今はしてないけど、お手玉を作るのが好きだったと。私は「ぜひ作ってもらえませんか。ほしい人たちがいるんです」と伝えた。女性は少し考えた後、OKしてくれた。

友人も協力し、たくさんのお手玉ができていった。できたお手玉で女性は、嬉しそうにお手玉遊びを見せて思い出をニコニコ語ってくれた。お手玉の話をしている時、本当に嬉しそうだ。聴いている友人も私も嬉しかった。

私はお手玉が好きで練習し、またお手玉を必要としてくれる介護施設を探した。「ほしい」という施設が何か所かあり、女性に伝え、たくさん受け取り、寄付してきた。100個以上あった。写真のお手玉がそれだ。市販品と違い不揃いでゴツゴツとした作りだが、手作りの心地よさを感じるものだ。

お手玉を作り始めてから、女性は自信を持ち、いきいきとした表情が多くなり、もの忘れも以前より減った。好きなことをして喜ばれることが、こんなに人を変えるのかと、感動した。

お手玉をもっと盛り上げられたら良かったかもしれないが、お手玉の件が終わってからしばらくすると、もの忘れは少しずつ進み、混乱や不安を口にすることが増え、近所の方々からの心配の声も増え、女性は自宅で暮らす不安を多く口にするようになった。

女性は自宅で介護サービスを受けるようになり、その後、近くの介護施設に入所した。女性としても入所した方が安心できるようだった。

3年くらいした後。あることで、女性の住む施設に行った。たまたま女性と顔を合わせたら、女性は満面の笑みで私の名前を大きな声で言って、握手を求めてくれ、再開を喜んでくれた。私は再開したことや大歓迎してくれたことにもちろん感動したが、3年経ったのに赤の他人の私の名前をしっかり覚えてくれていたのには、本当に驚いた。もの忘れも少しずつ進んでいたからだ。

女性が自宅にいた時、私が本当に良くしてくれたと、女性は施設の職員さんたちに良く言ってくれているそうだ。どうやら女性が繰り返し私の名前を自ら喜んで話していることで、私の名前を覚え続けてくれていたようだ。正直、こんなに嬉しいことは稀だった。女性には感謝しかない。

相談、自立支援、支援の調整の仕事をする時に大事なのは、相手が喜ぶから支援の手を厚くするとか、相手が無礼だから支援をしないとか、当然だけどそんなことはなく、相手がどんな反応をしようが「そう感じるんだな」と捉え、その人らしい暮らしがその人の選択でできるように情報提供しながら一緒に考え、どうするか決めてもらう。うまくいかなくてもいい。また何か考えたいとご本人が思った時、一緒に考える。

この仕事で大切なのは、ご本人に自分の長所をしっかり認識してもらうことと、必要とされていると伝え続けること。好きなことが少しでもできること。だって、人は誰かに必要とされることで生きていくことができるから。やりたいことを続けることが生きがいだから。ご本人の好きなことや長所を知り、格好良いかは考えず、自分が好きかは置いておき、「好きなんですね」とそれが好きなご本人の気持ちに共感し、長所や、ご本人を必要としていることを具体的に繰り返し伝え、できれば実際にご本人を頼って何かをしてもらう。心から。

すべての方々にこんなことはできないけど、幸運にもうまくかみ合った時、たまにこういうことができる時がある。この仕事、自分なりに一生懸命やり続け、不注意や配慮不足、思い上がりでたくさん失敗もした。謙虚な気持ちを持ち続けることを大切にしている。そんな中、光り輝くご褒美がたまにあり、心の底から感謝し、これからもこの仕事を続けたいと強く思う。






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