【ABA子育て入門#1】子供の行動を読み解く
子どもが言うことを聞かないとき、つい感情的になってしまうことってありますよね。2019年に親による体罰が法律で禁止されて以降、体罰や精神的に傷つけるような言葉を使わずに、ポジティブなしつけの方法がより一層求められるようになりました。
しかし、「叱らない子育て」が子どもを甘やかすことにつながるのではないかという懸念もあります。
では、どのように子どもの行動を改善し、適切に躾けることができるのでしょうか?
体罰も厳しい言葉も使わずに子どもをしつけることは可能なのでしょうか?
応用行動分析(ABA)の原理を理解し、活用することで、感情的にならずに子どもの行動を育てることが可能です。ABAは発達障害のある子どもたちへの療育方法として知られていますが、一般的な子どものしつけや教育、さらには新入社員や部下の育成においてもその効果を発揮します。
応用行動分析(ABA)の視点
応用行動分析(ABA)では、すべての行動には目的があると考えます。人はその目的を達成するために行動し、目的が達成できれば、今後も同じ行動をとるようになり、そうでなければ、今後その行動をしないでしょう。
したがって、行動の背後にある目的、すなわち「行動の機能」を理解することが重要です。
例えば、食事中に子どもがにんじんを食べたくなくてお皿からはじき出したとします。あなたはそれを見て「そういうことしないで!ちゃんと食べなさい」と言ったとします。すると今度はそのにんじんを床に落としました。
この行動の背後にある「行動の機能」は何でしょうか?
行動の背後にある目的【機能】を探る
イヤイヤ期で自己主張するようになったからでしょうか?
親をナメているからでしょうか?
ABAでは、行動を感情や性格などの人の内面のせいにはしません。行動は環境に対する反応として考えますので、人の気持ちは考慮しません。
ABAは、私たちの行動には4つの機能があると考えます。そして私たちは、この4つの機能(目的)のどれかを果たすために行動すると考えます。行動の4つの機能は以下の通りです。
注目: 他者からの注意や反応を引き出すために行動する。
逃避/回避: 不快なものから逃れるために行動する。
獲得: 望ましいものを得るために行動する。
感覚(自己刺激): 自分自身の感覚的な満足を得るために行動する。
行動の例とその機能
先ほどのにんじんの例で考えてみましょう。
実際の場面で行動の機能を特定するには、その行動の前後関係を観察したり、検証実験をする必要があるので、このシナリオだけでは、子供がにんじんを落とした理由(機能)を正確には特定できません。
しかし行動分析士は、このようなケースを観察する際に、以下の4つの可能性を考えながら観察します。
1. 注目
子供は保護者の注目を引くために、にんじんを床に捨てるかもしれません。保護者がその行動を見て声を出したり表情を変えたりして反応したり、叱ったりすると(たとえそれが否定的な注意であっても)、子供は食べ物を床に捨てることが親の注意を引く方法であることを学習します。
2. 逃避・回避
これは、嫌な状況から逃れるために何かをする時です。子供はにんじんを食べたくないので、床に捨てるかもしれません。床に落ちてしまった食べ物は食べられないので、にんじんを食べなくて済んだ場合、子供は嫌いなものは床に落とせば食べなくて済むことを学習します。
3. 獲得
これは、欲しい物、症状、活動を得るために何かをすることです。
子供は早く食後のゼリーを食べたいので、にんじんを床に捨てるかもしれません。床に落ちにんじんは食べられないので、これで食事が終了し、ゼリーを得ることができました。これにより、ご飯やおかずを床に捨てれば、すぐにデザートが食べられることを学習します。
4. 感覚(自己刺激)
外的な報酬のためではなく、肉体的・精神的に気持ちいいからという理由で物事を行うことがあります。
にんじんを床に落とした時の音や、べちゃっと床で潰れていく様子を見るのが面白いので、繰り返します。特に親の気を引くためでも、にんじんを食べるのを避けるためでも、他の何かが欲しいから行動するなどの社会的な行動ではありません。子供が一人の時でも行動します。
行動の調整
ABAを理解し活用することで、感情的にならずに子どもの行動を育てることができます。これは、子どもが成長する過程で直面するさまざまな行動の課題に対処するための有効なアプローチです。
行動変容の具体的な方法は次回以降のブログで紹介します。
ABAを学びたい方へ
もう少しABAを学びたい方は、強化と強化子に関する解説と、4つの行動の機能の具体例を参考にしてみてください。
部屋に入る時の「ドアを開ける行動」を例に考えてみます。
1. ある行動(反応)の直後に:「ドアノブに手をかけて押す行動」の直後に
2. 刺激の変化が起き:「閉まっていたドアが開く」という刺激変化が起きた3. それが類似の条件下で:「他の部屋に入りたい時ドアが閉まっている」という、類似の条件下で、
4. その種類の行動の:「ドアノブに手をかけて押す」と同じ種類の行動を
5. 将来の頻度を増加させる場合:また繰り返す。
部屋に入る時に「ドアノブに手をかけて押す行動」は強化されている。
だから私たちはいつも部屋から出入りする時に、似たような行動でドアを開ける。
行動直後に刺激の変化(強化子)が起こったので、今後も行動を繰り返すようになる。
ドアノブに手をかけて押したらドアが開くという刺激変化が起こるので、これからも私たちは部屋の出入りの時にはドアを開ける行動をとる
日常生活からの具体的な例
注目行動
大人同士が話で盛り上がっていて、子供が会話に入れないでいる時、子供は急に変な声を出し始めました。家族が笑ったり、「やめなさい」と言ったりする時、子どもは自分が求めていた注目を浴びることに成功しました。この注目によって、子どもはまた、同じような状況で同じような行動をするかもしれません。
親が電話をしている時、子供が泣き叫び始めます。親は子供を落ち着かせたいと思い、電話を早めに切り上げ、子供の世話をします。
子供は泣き叫ぶことで保護者の注意をすぐに引くことができると学習し、保護者が電話や他の作業に夢中になっている時、この行動を繰り返すようになります。
逃避・回避行動
朝の登校前、子供が頭痛を訴え始め、横になりたがります。
その行動(頭痛を訴える)により、子供は好ましくない状況(学校に行くこと)から逃れることができます。これが欠席か遅刻につながると、子供は学校に行きたくない時に、この戦略を頻繁に使うようになるかもしれません。
真冬の体育の授業で、校庭に出ると冷たい風が吹いています。ある児童は教室に戻り、上着を着て戻ってきました。他の児童は校庭を走ったり追いかけっこをして体を温めました。追いかけっこをしてもまだ寒いと感じた子供は上着を取りに行くかもしれません。上着を着た子も追いかけっこをしていたら温かくなり、上着を脱ぐかもしれません。行動の結果によって、子供は自分にとって都合の良くなる行動を選択します。
獲得行動
中学生の娘が頼まれもしないのに食器を片付けたり洗濯物を畳んだりしています。そして親から、友達と推し活のライブに行く許可を得ようとします。この中学生は、何も言われずに家の手伝いをすることで、自分の欲しいもの(ライブに行く許可と少しのお小遣い)を手に入れることができると学びます。この行動は、特権を得たり、欲しいものを手に入れたりするための戦略として、より一般的になるかもしれません。
買い物に行くと子供がガチャガチャをやりたいと言い出しましたが、ダメというと、お願い!お願い!と懇願してきました。それでもダメだというと今度は泣き出しました。手を引いてその場を去ろうとすると、今度は床にひっくり返って大泣きし始めました。周りの迷惑にもなり、買い物が終わらないので、1回やらせてあげました。この子は今後似たような状況で欲しいものが手に入らない時には、床にひっくり返って大泣きするようになるかもしれません。
感覚、自己刺激行動
宿題をしながら、ペンを机の上で何度もたたく行動をします。
繰り返しペンをたたくことは、感覚入力の一種となり、気持ちを落ち着かせたり、目の前の作業に集中するのに役立ちます。このような自己刺激行動は、ストレスや集中力に対する対処メカニズムになる可能性があります。
足をゆすったり、鼻歌を歌ったりするのは、それが自分にとって癒しや楽しさを感じるからであって、注目や物質的な報酬を求めているわけではありません。