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過去の自分との和解はもうできた?

自分という人間を研究してみる


さて、今回は自己理解についてのお話です。

さいきん、当事者の方の中でも自己理解は大事!と訴えている方をよく見かけるようになりました。


当事者の方にインタビューを行った海外のとある研究でも、

ADHD者にとって理想的な未来である、特性が尊重される社会に近づくための4つのステップの最初の2つとして「自己理解自己受容」が掲げられています。

周囲の人間の障害理解を促すためには、その前に自分が理解し受容していないと!ということですかね。


自分の過去や現在を振り返り、自分の特性に関する知識を持つことで、対策ができて生活しやすくなりますし、

自分の弱みを知ることで、他者から適切なサポートを求めることができ、それは自分の特性に合った環境を見つける上でも重要であると語られています。


コッピ―自身も、自分について振り返り、きちんと内省するというプロセスは、障害受容や下がりまくった自己肯定感を取り戻す上で不可欠だと思っています。

逆に、自己理解をきちんとしてないと、自分がどういう人間で、どんな生き方がしたくて何を望んでいるかも分からないというわけです。

しかも恐ろしいことに、定期的に自分について確認しないと忘れていき、何となく生活してしまい、目の前の仕事に追われ、その時々での快楽に飛びつき日々が過ぎ去ってしてしまう。


ということで、発達障害に出会って「自分じゃん!」と驚愕している人も、診断がついたもののどうしていいか分からないという方も、まずは自己理解を深めていくということにフォーカスしてみましょう。


自己理解って具体的に何なのよ


自己理解は、文字通り己を知ること。

個人的には「過去の出来事」「現在の自分」「自分の特性」の三つに分けて考えていくのがいいかなと思います。

自己理解で検索してみると、ビジネスマンが自己を高める上で強みの分析をしていたり、あるいはエントリーシートに記入するための前段階としての就職活動に関するものが出てくるかと思います。


皆さんの中にも就活で自分史を書いた方がいらっしゃるかもしれません。

しかし自己理解を深める上では、そういう「自分の魅せ方を見つけるための振り返り」だけではなく「過去を受け入れ、自分に優しくする決意をするための振り返り」が必要だと思っています。



今回は「過去の出来事」の振り返りの方について詳しく書いていきます。


過去を振り返るときは、きちんと残る形で文章化してみましょう。

具体的な振り返り方については、人それぞれだと思うので、認知行動療法の本や自己理解ワークなどを読んで参考にするなど、どんなやり方でも自由だと思いますが、ここからはコッピーの経験談になります。


コッピーは、過去の傷と向き合うことが目的だったので、封印していた記憶である中高時代を中心に振り返りをしました。

大きく「小学生まで」「中学1年前半」「中学1年後半」「中学2年生」「中学3年生」「高校1年生」「高校2年生」「受験期」の時期別に分け、出来事を順番に、誰かに客観的に説明しているような口調、当時の出来事と覚えている当時の気持ちと、思い出す中で強く感じる自分の想いを含めて書いていきました。


その際、まずは一気に書いてみて、そこから時間をかけて思い出した出来事を付け足していくことをおすすめします。出来事を加えていくことで芋づる式に思い出すことも増えて、長い間忘れていた記憶が蘇ってくることがあります。


注目するべき過去の登場人物や出来事


1.家族とのエピソード(特にお母さん)

2.兄弟との関係性や自分の扱われ方の差

3.学校の先生の対応

4.友達や恋人との関係性

5.アルバイトや習い事などで出会い、影響を受けた大人  など


あなたの人間関係は健全なものでしたか?

とくに養育者との関係は、人生で一番最初の人間関係であり、他者への基本的な信頼感の獲得や、パーソナリティの形成に大きな影響を与えています。

親との関係性は、その後の人間関係のテンプレートとして機能しているとも言われています。人間関係の歪みが、ここから生じている可能性もゼロではないです。(親子関係のことは、心理学で多くの研究が重ねられてきていてとても興味深い知見なので、今度詳しく説明したいと思います。)


親自身も発達特性が偏っていたり、幼少期に癇癪持ちなど育てにくい気質を有していて、親との関係性が上手くいっていない方も多いと思います。過干渉や過保護な母親に苦労してきた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

その関係性のこじれは、両者の特性が影響して相互作用的に生じてしまった可能性が高いです。

その中で、もっと愛されたかったあなたがいたとしたら、本当はどうして欲しかったのか、今の大人のあなたがちゃんと過去のあなたの孤独を受け止めて、思いを言語化してあげてください。


また校則の厳しい学校とは相性が悪く、出る杭として散々打たれ続けてきた人もいるかと思います。あなたの困りごとに先生はちゃんと対応してくれましたか?ご友人はどうでしたか?

対応を思い出して、大人のあなたが子どもの頃のあなたに「さすがにその対応は酷かったね」と慰めてあげてくださいね。



完成したら何度も読み返してください。最初は辛くて、あるいは自分が不憫で涙が止まらないかもしれません。あるいは、みじめで嫌な気持ちになるかもしれません。

慣れてきて、最終的には物語を読んでいるような気分で、他人事のように客観的に読めるようになるまで繰り返し読み込んでみてください。


その過程で、誰かに話したくなるかもしれません。そう思えるようになるのは前進している証拠です。信用できる大切な人になら、時間を作ってもらって聞いてもらってみてもいいと思います。

自分では思いもしなかった、別の肯定的な意味付けをしてくれるかもしれません。


※過去を振り返る際の注意

酷い虐待やいじめなどのトラウマがある場合は、抑圧していた記憶を思い出すことによってPTSDが発症してしまったりなど、自分だけで向き合うことが難しいこともあると思います。

ですので、記憶を封印することで何とか自分を保ってきた方や、気分の落ち込みが起こりやすい二次障害を抱えている方、認知がとても歪んでしまっていて、過去を掘れば掘るほど「自分はダメだ」と強く思ってしまう方は臨床心理士などの専門家の下で過去の振り返りを行うことをおすすめします。

そうではなくても、振り返っていく中で「何かやばい」と思ったらすぐに専門家の元へ行きましょう!


過去の振り返りの中でして欲しいこと


フラッシュバックや反すうの問題は、必ずしも安全な場面ではないところで、自動的に想起されてしまっているということです。

重要なのは心理的に安全な場面で、意図的に思い出し、ポジティブな意味付けをするという行為です。


◎ダメダメだった過去の自分を慰めてあげる

◎上手くいっていない現在の自分を許してあげる

→過去の出来事を読み直してみるとき、赤の他人のようになるべく客観的に読むといかに自分が自分に厳しくしてきたか、見えてくるかと思います。

「出来ないなりによく頑張ってきたよ」「こんな出来事があったなら、何かに依存したりひねくれてしまったのも無理ないな」と労わってあげてみてください。


◎未熟だった他者の背景を想像し、許してあげる

→親や友人、先生など許せない対応を取った人が出てくるかと思います。でもその人たちも過去の自分同様、とても未熟だったんですよ。親も子育て初心者ながら、よく頑張ってくれていたわけです。もしかしたら、自分も上手く愛されてこなくて、人の愛し方が分からない可哀そうな大人だった可能性もあります。

あなたに危害を加えてきた人間のことまでを無条件に許せとは言わないです。ただ、恨むことは相当のエネルギーを使うことなので、せっかく生き抜いてきたあなたの貴重な人生を恨むエネルギーに費やすよりも、より良い自分になるエネルギーに向ける方が、過去のあなたは報われるのではないでしょうか。


◎助けてくれた人の存在を再認識する

→人によっては辛い出来事ばかり思い出されるかもしれませんが、よーく思い出してみると助けてくれた人もいるはずです。周りの大人や、友人、恋人からのサポートを思い出し、正しく認識してみてください。

とくに社会に出るまで障害に気付かなかった人は、助けてくれる人がたくさんいたか、あなたの良いところを見てくれていた人が多かった可能性があります。

人間不信が募っている人は、認知が歪み、人の嫌な側面ばかりに注目してきてしまった可能性があるので、なるべく意識的に思い浮かべて感謝してみてください


◎出来事に自分の障害特性が関連していたことを発見する

→人生の出来事と障害特性は大きく影響している可能性が大きいので、障害特性を知った今となっては、色んなことが発達障害が原因だったことが見えてくることがあります。これも、過去の自分の許しに繋がるのではないでしょうか。


◎どこで劣等感が生まれたのか認識する

→劣等感というものは大抵、ぽっと出てくるものではなくて、発達過程での出来事に根深く絡んでいたりします。たとえば、顔へのコンプレックスがある方は、幼少期に誰かにかけられてしまった心無い一言が原因かもしれません。過去を丁寧に振り返る事で、自分の中の根深い劣等感がどこで生じたか見えてきます。こうやってまず原因を特定することが、思い込みや認識の修正に繋がっていきます。


そして、今の自分との繋がりを考えてみてください。

過去のトラウマ経験を克服することにより、人は何らかの成長を遂げることがあると言われており、それを「心的外傷後成長(PTG)」と呼びます。一見、負の側面しかない出来事も、個人の捉え方によっては、その後の心理的成長に繋がることがあるのです。

コッピーは過去が最低すぎて、どんな環境でもあの時に比べたらマシだなと思えています。もちろん、だから感謝しているとは全く言えませんが、確実に今の自分の信念にも影響していて、

「どうしたらあの時の自分を救える大人になれるだろうか」という視点は、人生の大きな原動力になっているなぁと思えています。


また、ちゃんと振り返ったことで人にフラットに語ることができるようになり、可哀そうな自分の話で涙が出てくるということもなくなりました。

いじめの経験を人に語ることは、主観的な自己成長感にも繋がるようです。


傷付いた小さな自分を抱きしめて、可愛がってあげよう


過去の出来事を振り返ったり、それを繰り返し読んでいく中で、たくさんの考え方の変化が起こりました。


初めて抑圧していた嫌な経験と向き合えたことで、辛いことを辛かったねと受け止めてあげられるようになりました。

思えば、一番味方でいてあげるべきだった自分自身が、「嫌い嫌い」と言い続け、失敗するたびにネガティブな価値付けをしてくるアンチとして、自らの自己肯定感を大幅に下げてしまっていたのです。


中学生の時のコッピーを思い浮かべてみたら、なんだかとっても心細そうでした。

「今までいっぱいいじめてごめんね。」と呟いて、セルフハグをして仲直りをしました(すごい絵面)。

それから、自分を一番に応援してあげられる人になろうと誓いました。


自分に優しくできるようになったことには、間違いなくこの「過去の努力を認めてあげる」というプロセスが影響していたと思います。



過去の振り返りとポジティブな意味付けができたら、ぜひ皆さんの中の変化もコッピーに教えてくださいね!


次回は、現在の自分と特性の分析について書いていきたいと思います。



参考文献

上野雄己, 飯村周平, 雨宮怜, & 嘉瀬貴祥. (2016). 困難な状況からの回復や成長に対するアプローチ. 心理学評論, 59(4), 397-414.

上條菜美子, & 湯川進太郎. (2016). ストレスフルな体験の意味づけにおける侵入的熟考と意図的熟考の役割. 心理学研究, 86, 513-523.

亀田秀子, & 相良順子. (2011). 過去のいじめられた体験の影響と自己成長感をもたらす要因の検討. カウンセリング研究, 44(4), 277-287.

Schrevel, S. J., Dedding, C., van Aken, J. A., & Broerse, J. E. (2016). ‘Do I need to become someone else?’A qualitative exploratory study into the experiences and needs of adults with ADHD. Health Expectations, 19, 39-48.


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