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「カシャリ」という音


月曜日


楽しみにしていた予定が無くなってしまった。


また、私は選ばれなかった。
あれこれ考えてしまう私は、優先順位が可視化されてしまうような表現は避けてほしいなどと思ってしまう。


楽しみにしていたのは私だけかもしれない。
他にも書き起こすのが嫌になってしまうくらいには醜い妄念が、頭に付き纏って離れない。


私は何かを恐れている気がする。何を恐れているのだろう。

一人で強くなると決めたのに。



火曜日


初めて入る小川珈琲で、期間限定のホットサンドを食べた。
コールスローと、ハムと、レモンが入ったシンプルなサンド。
あまり期待せず食べてみたけれど、とても美味しくて、嬉しくなる。
レモンがそのまま食べれるくらいの酸っぱさで、サンド全体を調和していた。
レモンってこんなに美味しく食べれるのね。


珈琲も美味しかった。
苦手な酸味のある浅煎りのもののようだったけれど、口の中での主張があまりなく穏やかな酸味で飲みやすい。


斜め前のマダムの席に、小さなスイーツがいくつか乗ったプレートが運ばれる。マダムはプレートにうっとりしているよう。
そしてそれを真上からスマホで撮りはじめる。


「カシャリ」という音が、ホールに鳴り響く。


美味しそうなもの、可愛いもの、きらきらしているものを見て、心がときめく気持ち。
この姿を、この姿が一番美しく見える完璧な画角で収めて手元に残したいという気持ち。


「インスタ映え」なんて言葉が広く出回り、マーケティングや顕示欲の象徴として認識され始めると、心ときめいたものをカメラにおさめることを躊躇ってしまう。


心惹かれたものに対して純粋な気持ちでもって向き合う姿は、それがモラル的にどうかなど関係なく、美しいと思う。


「カシャリ」という音は、誰かの無垢な心がときめいた音かもしれない。





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