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40代、憧れのシャネルが手に入れられない
20才の時だった。
私はバスに乗っていた。揺られる車内でカシャンと後ろの席から音がした。それと同時に「アッ!」と、呟く女性の声。
足に何かが当たった。下を向くとシャネルのファンデーションが落ちていた。拾いあげ窓と座席の隙間から「はい」と渡した。
「あ!ありがとうございます」
ニッコリと微笑んだ顔が見えた。その顔に見覚えがあった。
同じ中学校のひとつ年下の後輩だった。
足に転がってきたファンデーションがシャネルだったので、てっきり30代の大人の女性かと思っていた。
私のコンプレックスが発動した。
せめてひとつ年上の先輩であって欲しかった。ひとつ下の後輩がハイブランドの化粧品を使っている。
心臓がバクバクした。
化粧ポーチが入っているカバンを胸に引き寄せ、抱きしめた。
私が使っていたファンデーションは800円程度の物だった。下地は持っていない。口紅もマスカラもアイシャドーもドラッグストアーで買い揃えた物だ。
私の化粧品全部とポーチを合わせてもシャネルのファンデーションの金額には届かない。
私はとてもケチだった。自分にお金を使うことが出来ないでいた。欲しい物を買うことが出来ないのだ。いつも指を加えて欲しいものの2番手、3番手を買っていた。お金が無いわけではなかった。めちゃくちゃバイトをしていた。友達の中で一番貯金をしていたのはこの私だ。
自分の為に高級なファンデーションを買える後輩が羨ましかった。私だって金銭的には買えた。でも、私は欲しい物を手に入れてはいけないと呪縛の様に思っていた。
私は高級な物に強い憧れを持っている。手に入れることが出来ないと思っているから余計だ。シャネルやDior、イブサンローラン・・・デパートに入っている化粧品をいつか購入してみたい。きっと大人になったら買えるだろう。
それは30代だろうか?そんな日が来ることを夢見ていた。
それなのに、私より若い後輩がシャネルの化粧品を使っていたのだ。
夢物語として思い描いて来たのに、現実に使っている後輩・・・。
どういう事?
そんな高級化粧品を10代で使って言い訳?
と、本気でビックリした。
私は今、40代になった・・・。きっとシャネルの化粧品を持てるだろうと思っていた30代を超えている。
私はいまだに、買えていない。
シャネル化粧品を買うと言うことは自分への赦しなのだ。贅沢をしていいと言う赦し。私自身にお金を使っていいと言う赦し。まだ、その赦しが下ろせないでいる。
シャネルのファンデーションを使っていた後輩を見たあの日の戸惑いは
「自分を愛することが出来ている」事への嫉妬と劣等感だった。
ちなみに40代ではシャネルのスーツを買っている夢を思い描いていた。
シャネルのスーツは36万円だった。(当時)
それは流石に無理だがファンデーションは8000円だ。
買っていいんじゃなかろうかと思いながらその壁を越えられないでいる。
いつになるか分からないが壁を越えた日はぜひ報告をさせていただきたい。
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