世代間格差を超えて
こんにちは、レスポンスアビリティの足立です。いつも大変お世話になりありがとうございます。今日で2月も終わりですので、この一ヶ月を振り返り、これからの経営に役立ちそうなヒントをお届けしたいと思います。(※)
2月はよく閑散期と言いますが、私には「サステナブル・ブランド国際会議」でむしろ忙しい月でした。今年度は2月14日、15日に東京・丸の内で開催され、二日間で6000名近い方々にご参加いただきました。オンラインで参加の方もいらっしゃいましたが、多くの方にはリアルでご参加いただき、久しぶりに大きな会場でたくさんの方々と出会うことができました。
参加者はもちろん企業の方が中心だったのですが、実は高校生や大学生の姿も多く見かけました。と言うのも、サステナビリティに関心の高い学生たちを招待するスポンサーシップ・プログラムがあり、全国から選抜された優秀な若い方々が会場に集合するのです。
彼らは自分たちの発表もしますが、一般のセッションも熱心に聴講し、そしてまた質問も積極的にしてくれます。大人の都合など考えないストレートな質問をしてくるので、回答する方がたじたじになるような場面もまま見受けられますが、私はこういう緊張感のあるQ&Aが好きです。
あまりに不公平な立ち位置
このような熱心な若い世代が参加してくれることは、また彼らがこうした機会を利用してどんどんと学んでくれるこはとても嬉しいことです。ただ最近、私はこうした若い世代と対話すると少し憂鬱というか、気が重く感じるようになることが増えてきました。
それは、彼らと私たちがの立ち位置があまりに異なり、あまりに不公平になって来ているからです。
どういうことかと言うと、これからの環境や社会の変化を考えると、置かれている立場が世代によってとてつもなく異なるのです。世代間で利害が衝突している、大きなコンフリクトがあると言っても良いでしょう。
もちろん、いつの時代でも世代間の対立、考え方の違いはありました。しかし、その多くは単に年齢の違いによるものや、あるいは時代背景が異なる程度のものでした。なので、若い世代が歳をとれば、今度はまた彼らがその先輩と同じ状況や立場になり、「あぁ、そうだったのか」と思う、そういう場合がほとんどだったのではないでしょうか。そして多くの場合、時間が経つほどに社会は発達し、今よりも良くなる。経済も発展し、今より豊かになる。技術も発展し、より便利で快適になる。そういう未来に対する希望があったように思います。
深刻になりつつある未来
しかし今の状況は、冷静に考えれば考えるほど、若い世代にとって分は悪いのです。気候変動は確実に進行し、異常気象による災害はますます激しく、そして頻繁になるでしょう。一生の間に風水害の被害を受ける確率はとてつもなく増えるでしょう。最悪の場合、保険にも頼れなくなってしまうかもしれません。
生物多様性が失われていくことは、人間社会の安定性や安全性の低下にも拍車をかけます。コロナのようなパンデミックの発生確率もさらに高くなるかもしれません。
それだけではありません。私たちが楽しんできたような食物も、将来世代は楽しむことができないでしょう。既にウナギもマグロも、そして最近ではアワビも絶滅危惧種になりました。ここ数年、天然のアオノリはほとんど採れなくなっています。有明海の海苔は、今シーズンは史上最悪の不漁と言われています。北海道で質の良い昆布はもう採れません。ということは、今の若い世代が私たちと同じような食生活を将来楽しむことはどんどん難しくなっていくのです。
そしてもちろん、その原因を作ったのは今の若い世代ではなく、私たちやさらにその前の世代です。私たちもこの10年、20年の間、こうした問題を解決すべく取り組んできましたし、一定の進歩はありました。けれども、問題を解決どころか、状況を好転させることすらできていないのが現状です。
これから7年間が勝負
こうした状況を変える最後のチャンスがこれから2030年までの7年間だと科学者は言います。そこを過ぎてしまうと、挽回するのはきわめて難しくなってしまうからです。ですから、これから7年の間に私たちは必死で目標達成のために努力を重ねる必要があります。その緊急性をより多くの人に呼びかけ、行動を促したいのですが、それを大きな声で叫べば叫ぶほど若い世代の耳にも入ることになり、なんとも複雑な気持ちになるのです。
7年後の2030年、あなたはいくつになっているでしょうか? 2050年はどうでしょうか? 私も含めて、この記事を読んでいる方の多くが今よりは影響力が少ないポジションに退いたり、あるいは完全に仕事からは引退なさっているかもしれません。一方で今の高校生や大学生は、2030年にはようやく家庭を持つようになり、2050年には社会や組織をリードして活躍する年代のはずです。しかし、その時、彼らを取り巻く環境は、今よりもはるかに過酷で熾烈なものになっているでしょう。
そう考えると、たとえばグレタ・トゥーンベリさんがあれほど怒るのも、必死になるのも理解できるのではないでしょうか。2003年生まれの彼女は、2030年にはまだ27歳、2050年でも47歳なのです。気候危機が現実のものであると分かっているのに対策を実行しようとしない大人たちを見て怒り、絶望するのはもっともです。
サステナブル・ブランド国際会議に参加する若者たちは、そこまでストレートに感情を露わにすることはありませんでしたが、それでも彼らがどんな気持ちで私たちの議論を聞いているのかと思うと、私は居心地の悪さを感ぜずにはいられないのです。
しかも日本に関して言えば、悪化しているのは地球環境だけではありません。このままでは大幅な円安で国力が低下したり、財政が破綻して行政サービスが機能しなくなったり、経済的にも大変な困難が予測されます。
もちろんそうなると決まったわけではありませんし、そうならないように私たちが全力を尽くさなくてはいけません。それでも確率論で言えば、そうなってしまうことをかなり真剣に考えざるを得ないのが、私が若い世代と対話するのに憂鬱になる理由です。
胸を張って話ができるために
2030年、そして2050年、あなたのお子さんは、そしてお孫さんは、何歳になっているでしょうか? その時に彼ら彼女たちが置かれた環境に対して、自分は十分な努力をしたと胸を張って説明することができるでしょうか。
サステナビリティに取り組むのは、会社の評判を良くするため、会社自身が持続可能になるため、自分自身の評価を上げるため… いろいろな理由があるでしょうし、あって良いと思います。いずれにしても社会の持続可能性を高めることにも繋がるからです。私もサステナビリティを追求する会社や人は誰でも応援したいという気持ちですし、またそれが自分の仕事だからするということもあります。けれど考えてみると、私が今の仕事をする最大の理由は、次の世代、そしてさらにその先の世代に美しい自然や素晴らしい社会を手渡すためだと今回改めて思いました。
自分が楽しんだ美しい景色を、楽しい体験を、次の世代にも同じように、できればもっと味わって欲しい。だから私は仕事をしているのだと思います。そして同じ思いの方々と、行動を加速して行きたいと思います。
※この記事は、足立が毎月末に知り合いの経営者の方々にお送りしている月例のメールを特別に公開したものです。