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《サス経》 窓が閉じてしまう前に

 先月20日に気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が「第6次評価報告書」(AR6)の統合報告書を発表したことは皆さんご存知だと思います。

気候変動の原因は人間活動である

 統合報告書が発表される度に、気候変動は人間活動が原因である可能性が高いという確率がどんどん高まっており、前回のAR5ではその確率は95%以上であり、人間活動が原因である可能性は「極めて高い」 という表現がされていました。これだけ複雑な自然現象について95%以上の確率でと科学者が言うことは珍しいので、今回はどうなるかと思ったら… なんと「気候変動の原因は人間活動である」とIPCCが断定してしまいました

 これは科学においてきわめて珍しいことです。もちろんそれだけ研究が積み重ねられた結果であるということですが、もう一つにはそれだけ状況が切迫しているという研究者の危機感もあるのかもしれないと感じました。

 実は今回の報告書を発表するにあたって、「私たち全員にとっての、生存することができる、そして持続可能な未来を確保するための機会の窓は急速に閉じつつある」と述べた科学者がいました。このコメントは世界的にも大きく報道されましたが、私たちもきわめて深刻に受け止める必要があります。

 世界は気温上昇を1.5°C未満に抑えることには合意はしていますが、現在の国別目標を積み合わせても、残念ながら2030年代前半には1.5度に到達してしまうし、2度に抑えることすら困難であると予測されています。まだまだ行動が伴っていないのです。

1.5度目標を達成するためには

 では1.5度目標を達成するためにはどうしたらいいのでしょうか。今回の報告書によれば、2019年比で2030年に43%、2035年には60%の削減をする必要があるといいます。この数値はいずれも予測の中央値であり、より確実に1.5度未満を実現するためには、さらに削減割合を高める必要があります。

 ご存知のように、日本の2030年目標は46%減ですが、これは2013年度比です。2019年度の実績と比べるとこれでは37%減にしかなりません。2030年に43%減、2035年までに60%減とするためには、削減を相当に加速する必要があります。こうした数字を見ると、私たちの希望の窓はまだ閉じてしまったわけではありませんが、急速に小さくなりつつあることが実感できるのではないかと思います。

再エネは急拡大する


 一方で、いくつか朗報もあります。たとえば、この10年間で再生可能エネルギーのコストが大幅に下がっていることです。風力発電では55%、太陽光発電ではなんと85%もコストが下がっているのです。その結果、再生可能エネルギーの導入量も大幅に増えています。

 国際エネルギー機関(IEA)の報告書によれば、欧州では2001年から2021年までの20年間に導入された再生可能エネルギーとほぼ同量の2400GWが、2022年から2027年のわずか5年の間に導入されるであろうと予測しています。しかもこれは昨年の予測より30%も多く、変化は加速しているのです。そして2025年頃までには世界全体で、再生可能エネルギーが石炭を抜き、最大のエネルギー源になるであろうと予測しています。これから数年で世界の様相ががらりと変わる可能性があるのです。

企業も急速に変化


 企業の対応状況はどうでしょうか? アップルがサプライヤーに対して2030年までに再生可能エネルギーへ切り替えを行うように促しているのは有名ですが、その進捗状況が4月5日に発表されました。それによれば、再エネ100%にコミットするサプライヤーが世界28カ国で250社を超え、ティア1サプライヤーの85%以上になったということです。もちろんこれに同意する日本企業も着実に増え、34社となっています。

 ただし、これで終わりではありません。アップルはサプライヤーに対して再エネ100%へのコミットだけでなく、カーボンニュートラルも達成するように昨年10月に要請を行いました。そして、それを支援するために47億ドル(約6300億円)をグリーンボンドで調達し、再エネ、省エネ、そして植林にも投資するといいます。

 持続可能な未来へとつながる窓、そして取引継続につながる窓は急速に小さくなりながらもまだ開いています。窓が完全に閉じてしまう前に、あなたの会社は持続可能な未来へと移行できるでしょうか。これまで以上に積極的な行動をしなくては間に合わないことは明らかです。

 サステナブル経営アドバイザー 足立直樹

株式会社レスポンスアビリティのメールマガジン「サステナブル経営通信」(サス経)466(2023年4月20日発行)からの転載です。


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