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「時代の大転換」(その2)

大川原 栄
弁護士
士業適正広告推進協議会 顧問

1 「時代の大転換」の確認

前回の私のコラム(7月掲載分、「時代の大転換」について)において、「2023年(あるいはこれから数年)は、後に振り返ってみれば、「次の時代」に向かう「時代の大転換」があった時代になるのではないかと強く思う。

そして、ここにいう「次の時代」は、数十年規模による
①労働力需給における「売り手市場」の常態化
②社会全体のダウンサイジング(縮小経済)の進行

という二つの特徴を持ち、それは日本の少子高齢化に伴う急激人口減少という極めて単純な要因を理由とするものだと考える。」とコメントをした。

2 「時代の大転換」を明示するもの

上記の「時代の大転換」は、ここ数年と今年前半の社会経済状況等を踏まえた判断であったが、今年の中後半の社会経済状況は「時代の大転換」があったことを明白に裏付けるものになっている。

例えば、今年の春闘においては大企業を中心に「大幅賃上げ」が行われたが、その過程で中小企業経営者から「そのような大幅賃上げは到底無理である」という毎年繰り返して出される声があった。しかし、結局のところ中小企業経営者の声はいつの間にかかき消されてしまった。

そして、今年9月の最低賃金の審議においても「大幅賃上げ」の流れが継続し、全国で39円~47円と過去最高の引き上げ額となった(1,000円超えが8都府県)。ここにおいても、毎年中小企業経営者から出てくる「到底無理である」との声もほぼ無視という状況であった。

これらの事態は、日本の低賃金を維持していくという過去の国策が、世界経済との比較において日本経済の成長を妨げてきたという事実を踏まえて明確に変更されたことに基づくものであり、また、労働市場における「売り手市場」(外国人労働者を含む)という経済的状況からも必然的に発生したものであって、ここに過去30年とは全く異なる「時代の大転換」の兆候を見ることができる(なお、最低賃金を仮に1000円として、1日8時間、1ヶ月22日間の働きで得られる収入は17万6000円(1,000円×8時間×22日、税込み)となる。アメリカの最低賃金が1時間約20ドル=2,800円(1ドル140円換算、上記計算式では月収約49万円)であることを考慮すると、日本の賃金水準が何とも低レベルであることが分かる。)。

そして、社会全体のダウンサイジング(縮小経済)については、目の前で直ぐに何かが変わるというものでないことから、これまでと同様に分かりにくい状況にある。しかし、政府が声高に「異次元の少子化対策」をとる宣言したことにより、社会全体が流石に日本の少子高齢化という問題を意識するようになってきたと感じる。

このような「少子化対策」がとられるとしても、国立社会保障・人口問題研究所発表の「2050年までの地域別将来推計人口」によれば、2020年(全国人口1億2614万人)との比較で2050年には全国で約2000万人超の人口が減少して1億0468人となり、東京都を除く全道府県において約17%の人口減ということになる(最高が秋田県で41.6%減)。

現在の少子化対策は全く「異次元」でないことからすれば、この「将来推計人口」どおりの社会状況になるのは間違いのないことである。この約2000万人の人口減少(毎年70万人前後が減少)がいきなり直ちに来るものではなく、毎年毎年ジワリジワリと人口の減少が継続していくのであり、それは消費者の減少(=「消費・需要の減少」)、労働者の減少という社会的事実として展開していくことになる。

しかしながら、実際のところ、「消費・需要の減少」はさほどは目に見えず、現実的には地方におけるスーパー、農協店舗、コンビニの廃業、郵便局の消滅といったことが毎年続いていく中で、気づいたら「商品販売店」が周辺に無くなっていたということになる。そして、それらに先行しながら、景気が良くても悪くて常に働き手が減少して人手不足が継続していくということになると推定される。

3 改めて考える「これから」のこと

「時代の大転換」を向かえた「これから」は、人手不足と表裏の関係にある「賃金上昇」(国策としてどこまで本気でそれを追求するかは別として)を基調としつつ、人手不足を解消するためのIT技術、そしてAI技術の導入等が見込まれる。しかし、ITあるいはAI技術の導入とはいっても、結局のところ「費用対効果」でそれが判断されるのも間違いのないことである。そして、同時にジワリジワリと人口減少に伴う「消費・需要の減少」が進行する中で社会全体がそれにどのように対応するのかが問われることになる。

士業が関わる各種の「社会的サービス」も「消費・需要の減少」の影響をうけるのかどうか、今まで泣き寝入りしていた方々や各種事情で「サービス」を享受していなかった方々の需要を掘り起こして「消費の減少」を補っていくということになるのか、そのための「士業広告」としてどのようなものが考えられるのか、何が適切なのか等々、検討すべきことは山ほどある、しかし、その検討はこれまでのやり方では全く通用しないのではないかと痛切に思う今日このごろでもある。

以上


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