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「減額診断」広告について

島田 雄左
株式会社スタイル・エッジ 代表取締役社長
士業適正広告推進協議会 理事

「減額診断」広告とは?

債務整理における広告のひとつに「減額診断」を謳ったものがあります。これは「借金はありますか?」を初めとしたいくつかの簡易的な質問に答えていくことにより、借金の減額が可能かどうかについて診断がなされる広告です。

借金問題における“顕在客”の方々には、既に切羽詰まった状況に置かれている現実があり、ご自身のニーズを既に把握されています。そういった方々はインターネットで「債務整理」や「借金相談 弁護士」といったキーワードで検索し、法律事務所へと相談されます。したがって、“顕在客”においては、リスティング広告やSEO対策がなされ上位表示されているサイトを経由して弁護士にたどり着くパターンが主流となります。借金問題を抱える8割はこの顕在客にあたります。

一方、ご自身が債務整理の対象であるかは明確でないものの、借金に悩んでいる状態の方々もいます。この方々が借金問題における“潜在客”となります。果たして今の状況が弁護士に相談すべきかどうかわからない、しかし借金には苦しんでいる。こういった“潜在客”にとっては、いくつかの質問に答えるだけで診断がなされる「減額診断」広告は親和性が高く、簡単に自分自身の置かれた状況を把握することができるといったベネフィットもあります。

また、法律事務所側から見ても、減額診断により顕在客以外の問い合わせを増やすことができるといったメリットがあります。このような背景があり、「減額診断」広告はここ数年、加速度的に広く普及してきました。

画一的な答えが出ることについて

ただ、その中で主に2つの問題が指摘されてきました。ひとつは「減額診断と謳っておきながら、実際は診断していないのではないか?」といった指摘です。そして、もうひとつは「誇大広告ではないか?」といったものになります。

まず前者について。「減額診断」広告では、「借金はありますか?」「何社から借りていますか?」「借金は総額でどのくらいですか?」「利息は何%ですか?」といった簡単な質問に答えていくわけですが、どういった回答を選択したとしても最終的な診断結果は常に「減額可能性あり」と表示されることが多いです。そのため「診断を謳っておきながらも実際は診断などしていない」「単にお客さんを集めるためのツールではないか」といった指摘が、弁護士の方々や弁護士会からなされてきました。

この、いわば診断を謳いつつ画一的な答えを出すことに対しては、様々な考え方がありました。まず第一に、診断結果として「あなたは債務整理した方がいい」「あなたは自己破産した方がいい」「あなたは個人再生した方がいい」といった個別の回答を広告会社が制作することは、非弁護士が法律事件に関して鑑定を行うことを禁じる弁護士法72条違反となる、といった視点です。したがって、鑑定(法律相談)にならないように、画一的な結論を表示していたといった考え方がありました。

ただ、見方を変えれば確かに制作自体は広告会社が行っているものの、あくまでも広告主は法律事務所であり、弁護士が監修すべきだといった意見も当然ありました。たとえばフローチャートを作成し、質問と回答の組み合わせによって異なった診断が表示されるように、弁護士は広告会社に制作を委託する際に責任を持つべきだ、といった考え方です。

誇大広告の観点

後者の「誇大広告ではないか?」といった指摘について。これは「常に減額できる可能性があると表示することは、過大な期待を抱かせる誇大広告に捉えられかねない」、という指摘です。これについては、「減額可能性あり」といった画一的な答えであっても、債務整理の性質上、相談にさえ来てくだされば減額できる可能性が高いことは事実であり、誇大広告には当たらないと言うことができます。

債務整理における東京三弁護士会統一基準では、利息の減免など借金減額を行う事が原則であり、これに従うことが弁護士の一般的な義務であるとされております。この観点からも、借金問題を抱える方に対して「減額可能性あり」といった回答を示すこと自体に間違いはありません。

また、冒頭に記したように借金問題といっても顕在客と潜在客がいます。つまり、現時点で借金の返済に困難を感じている人もいれば、借金はあるものの今はまだ困っていない人もいるわけです。ただ、後者の場合であっても、遅かれ早かれ債務不履行となる可能性もあり、債権者にとっても自己破産されてしまうと一円も回収できず不良債権となってしまうわけです。

しかし、債務整理の手続きを踏むことで元本返済がなされたり、将来利息の回収ができることもあります。このように債務整理は、債務者のみならず債権者側にもメリットがあり、減額診断広告はそのための法律事務所への相談の敷居を大きく下げることができるといった効用もあるのです。

ただ、誇大広告ではないとはいえ、一般消費者の方の中にひとりでも誤解される方がいるとすれば、よろしくないわけです。また、やはり「診断」と謳っている以上は、何かしらの判断を個別に提示できるよう修正した方がよいといった観点で、今では「減額診断」広告は画一的なものではなく、個別の診断がなされるケースが大勢を占めています。

ただ、これまで述べてきた議論の変遷を踏まえずに、未だに画一的な答えを出している広告会社と広告主である弁護士事務所が存在することも事実です。当会としては、今後も広く一般消費者に良質かつ適正な情報を提供するために、様々な取り組みを行っていきたいと考えております。

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