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AI時代の士業について

島田 雄左
株式会社スタイル・エッジ 代表取締役社長
士業適正広告推進協議会 理事

士業の仕事が生成AIに奪われることはない

2022年11月に公開されたChatGPTは世間の耳目を集めました。
以後、ChatGPTをはじめとする生成AIについて、広く一般にも認知されてきました。

これは士業の世界でも同様で、「中小企業診断士事務所 ハッシュタグ(https://hashtag-jp.com/)」の調べによると、士業の世界においても生成AIに対する認知度は94.6%にも及んでいます。

ただ、翻って士業が実際に業務において生成AIを使用したことがある割合は、わずか8.2%にとどまっています。

何事においても黎明期には共通した現象かと思いますが、これは2000年に弁護士の業務広告が解禁されたことを皮切りに、インターネット広告に対する規制緩和がなされた頃に酷似しています。

当時を振り返るに「インターネットってよく分からないから、まだ使わない方がいいんじゃないか」といった議論がありました。

まさに、いま起きている生成AIの活用についても「よくわからないけど怖い存在」「自分たちの仕事が奪われるかもしれない」といったスタンスが大多数を占めているのだと感じます。

ただ、私自身は士業の仕事が生成AIに奪われることはないと考えています。そうではなく、生成AIはあくまでも士業の仕事を補完するものだと思います。言うなればアシスタントが増えるようなことであって、業務を手伝ってくれる手段の1つが増える、といった捉え方が正しいのではないか、と感じています。

生成AIの業務における活用例

では、具体的に生成AIをどう活用するか。
いくつか例をあげてみたいと思います。

たとえばバックオフィス系であれば、文章作成、校正、要約、翻訳、議事録作成、データ整形、稟議書検索、企画の壁打ち、社内問い合わせの自動化等、たくさんあります。

法務系では、契約書レビュー、特許評価をはじめ既にいろいろなサービスが出てきています。人材採用業務においても、履歴書の分析を行い、会社とのマッチングや適性の評価も可能です。ITでいえば、開発コードの自動生成はAIの得意とするところです。

経営管理部門であれば決算書の読み込みや分析、さらに「どこを削ったらいいのか」といったアイデア出しもAIは行うことができます。営業においても、お客様からの問い合わせを、ある程度ルールを決めたうえで自動化できるようになっていきます。

このようにほぼ全ての領域で、生成AIを使うことができます。ただ、ここであげた具体例を見ればわかるように、生成AIは業務効率を上げるものであって、士業の仕事に置き換わるものではありません。

士業の醍醐味

なぜ生成AIに士業の仕事が奪われないか。それは、やはり士業の仕事の核心は「責任を負うこと」にあるからです。AIに様々な提案を出してもらい、訴状も書いてもらったとしても、最終的に自分の責任で印鑑を押すわけです。

自分の名前で、自分の責任で、印鑑を押し、書類を提出する。この部分はAIには担えない。まさに士業の醍醐味なわけです。したがって、どれだけ優秀なAIが今後出てきたとしても、士業の仕事は絶対になくならない。

だからこそ、AIと共存していくうえで大事なのは、生成AIが出してきたものが果たして正しいのかどうかについて、自分自身で正確な判断を下せることだと思います。

個の時代 ―誰がそれを言っているのか―

これからますます生成AIが急速に進化を遂げ、広がっていくと思いますが、AI時代において重きを置かれていくであろうポイントは、私は「個」だと感じています。

AIが進化すればするほど「問い」に対する「答え」や、「課題」に対する「解決策」は数多く氾濫しつつも、それらはどこか似通ったものに収斂されていく気がします。

だからこそ「何を言っているか」よりも「誰が言っているか」が重要になってくると私は考えます。要するにお客様から「〇〇先生が言うのであれば、是非お願いします」と言ってもらえるかどうかにかかってくるわけです。

そのためにも日頃から個人としてどのような情報を発信していくかといった、いわばパーソナルなブランディングが大事になってきます。もともと「個」の色合いが強い士業の世界ですが、AI時代における士業は国家資格だけに依拠しない、本当の意味での「個」が問われる存在になっていくのだと思います。

これは士業広告にも同様のことが言えます。士業事務所が行う広告についてもより一層、「誰が言っているのか」「どの事務所が言っているのか」といったことが求められる時代になってきます。

そして、もとより私ども士推協においても「士推協が言うのであれば大丈夫」とご判断いただけるよう、AI時代に即したかたちで士業や広告会社が守るべき一定の基準を確立することを目指すと同時に、消費者側のリテラシーをあげるための活動も積極的に行っていきたいと思います。

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