まだ白いメモを1行汚してく すべてはいつもここから始まる
異動になってから、ようやく1ヶ月が経った。
同僚の名前も、業務で使用するシステムも、関わるサービス・商品名も変わった。全部一から覚え直しで、最近ようやく何となく分かってきた気がしている。
この半年くらい、コロナ禍の影響でぱったりとなくなっていた残業がにわかに毎日数時間は復活した。
家に帰ってから、何かを考えたり省みて書いたりするような余裕は一切合切消え失せた。
何がミスに繋がるのかも、そもそもどういうことが起きたらミスなのかも分からなくて、一挙手一投足に神経を張り詰めていた。
気付かないうちにミスをしている、あるいはミスの種を撒いているんじゃないかと毎日不安で潰れそうだった。
毎日寝る直前〜家を出るまでは吐き気との戦いで、これが来月も続いたら仕事を続けられないかもしれないと思ったし、本当に転勤になっていたら年内で辞めていたかもしれないと改めて噛み締めた。
仕事以外のことをなにもできなくなっている私を見かねた交際相手が、在宅勤務の日に何度かうちに来てくれた。ヘルパーのごとく家事を手伝ってくれたし、精神安定剤代わりに気の向くまま抱きつかせてもらっていた。
それだけ聞くと「互いが辛いときに支え合うベストパートナー」みたいな感じだけど、あれは半同棲なんて甘酸っぱいものではなく、介護とか生活指導だった。幻滅されていても(されるほど夢を見られているかはさておき)、文句を言うつもりは一切ない。
今月に入って、少し吐き気は落ち着いた。
でもそれは別に、仕事に慣れたとか覚えてきたとかではなく、緊張することに疲れたからだ。人間は寝ないと生きていけないように、常に緊張状態で生きていくことはできない。しちゃいけないと思う。
あとはたぶん、諦めがついた。
所詮私は私だから、完璧に何かをこなすなんてできない。
先月まわりに言われていた「まだ来たばかりなんだから分からなくて当たり前だよ、必要以上に責任感じることないよ」を受け入れられたわけじゃないけど、私ごときが気負ったって大したことができるわけでもない。
新しい月が始まって、新しいスタッフが入ったこともあって、とりあえず一番気にかけられるポジションを脱したのも大きいと思う。
いつだって私は、できる限りモブになりたい。
名声とか昇進とかどうでもいい。目立たず気にかけられず、するべき仕事はちゃんとこなせればいい。求められた役割に応え切れていればそれでいい。
ここでもそのくらいのことはできそうだと、ひとまずひと月を乗り越えて少し息ができるようになった。根を伸ばせるようになった、ような気がする。他のスタッフに溶け込める程度には、ひと通りのことは覚えてきているとは思う。
ここでずっと働きたいかは、まだわからない。
来てよかったと心から思っているかと聞かれたらそこまでの情熱はない。
でも、戻りたいとはもう思わない。そもそもここに来てからの1ヶ月、戻るなんて考えもしなかった。
それに、例えば今結婚だの妊娠だの転勤に着いて来てくれだのといった話が出ても、私は頷かない。
なにかは期待されてここに来た以上、少しは「来てよかった」と思ってもらえる存在にはなりたい。
ここで出世したいとかそういうわけじゃないけど、せめて去るときに少しは惜しんでもらえるくらいの存在には成長してから去りたい。
仮に1年働いたら、ひと通りこの仕事を理解したと言えるかは分からない。何年経ったら惜しんでもらえる戦力になれるのかも分からない。
それでもまだ、今すぐ戦線離脱はしたくない。その程度の責任感くらいなら持ち合わせているつもりだ。
異動と同時に新しくした仕事メモ用のノートは、1冊目がもうすぐ終わる。
このペースだと月1で消費していきそうだから、3冊をまとめて買った。これを使い切るまでは少なくともここにいたい。
恥ずかしくてもうとても見返せないけれど、こうして新卒のときも転職したてのときも仕事を覚えてきた。
少なくとも、メモの分だけは、何か新しく吸収したことがある。そしてまだ、これから埋めることだらけだ。
何かを感じていただけたなら嬉しいです。おいしいコーヒーをいただきながら、また張り切って記事を書くなどしたいです。