Sarah
私からあげたお下がりのワンピースは、サラのボディラインには思った以上に窮屈だったようで、背中のチャックが上がらないと嘆いてた
ワンピースの首元にあしらわれたフリルが百合みたいに綺麗な首筋に映えてチャックをあげるのを手助けするだけのはずが思わず百合を崩したくなる気持ちを押し殺すのもひと苦労
やはり上がりきらないチャックに痺れを切らして、壊しても悪いからもうやめると床にワンピースが落下した
また新しいのをプレゼントするからと、頬を撫でるとそういう問題じゃないと私に背を向けて着替えようとしてゆくサラ
なんだか可愛くて、楽しくなって、
次の視界にはベッドに押し倒して見下ろしたら可愛い瞳で私を見る彼女が居て
その瞳が私をどれだけ困らせてるかなんて知らないんだろうけどね
驚くような余裕のような、逃げるような笑みで私に何かを言おうとする唇を、そっと指でなぞることすら私には精一杯だなんて気付かれたくなくて
耳を噛むくらいしか出来なくてね
サラったら声にならない声を出しながら怯えてた
だけどその声が誘ってるような、あまり本意じゃないような、私を拒絶しないつもりなようにも聞こえてきてしまって、もうダメだった
耳だけじゃ満足出来なくなってたわ
彼女のことしか考えたくなかったの
わがままよね、ほんと
抱き締めるとか手を繋ぐとか、そういうステップじゃ足りないなんて、電話で話している頃には歯痒さを感じて
体温とか笑う顔とか、からかうと困る顔とか、見つめると染まる眼差しとか、体温を欲するなんてわがままね
私がすることに喜んだり受け入れたり、はにかむ貴女に私がどれだけ血迷ってしまうか
貴女は知ってるのかもしれないわね
百合みたいな首元から牡丹のような胸元にまで小さな薔薇の痕が咲いて、涙目のよう、怯えるような、虚ろな唇の奥をめがけて剥がれかけたネイルを携えた私の指が上顎をなぞるような
そう、そんな…
いまちょっと寝てたでしょ?
すーすー言ってたもん
受話器の向こうでまだ見ぬ貴女が笑っていた
何事にも淡白な貴女
たまにする電話も他愛も無い会話過ぎて、夜を深く知る私には心地良過ぎて
ごめんなさい、たしかに寝ていたわ
そう笑って返すと、サラはいつものあの笑い声を響かせてくる、そんな声に私は余裕そうに、なによって悪態つくの
ねえ?サラ
私の毎日は満たされ無くて時間がとまったかのようで
夢でしか見たことも感じたこともない瞳や、笑顔や、眼差しや、体温や、表情や、真実たちが
私をどれだけ困らせてるかなんて知らないだろうけど、
知らないままで私を困らせていて
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