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生活保護利用者、障害者、高齢者……不動産会社の取組みに見る住宅弱者の現状

「生活保護」と聞いて、みなさんはどんなイメージを抱くでしょうか。

生活保護は本来、資産や能力を活用しても生活を維持できない人が行使できる権利です。しかし、その利用に関しては賛否さまざまな意見が見られます。

これまで生活保護利用世帯の数は減少傾向にありましたが、厚生労働省の令和3年度の発表によると、被保護世帯は約163万世帯となり、対前年同月と比べて2,522世帯増加。長引くコロナ禍が要因と考えられています。
見通しが立たない状況が続く今、生活保護制度の役割はさらに高まっていくのかもしれません。

今回は、生活保護利用者をはじめ、障害者や高齢者など、住宅弱者の住まいの問題に取り組んできたメイクホーム株式会社の社長・石原幸一氏に、お話を伺いました。



困窮やハンデを抱える人たちが訪れる「メイクホーム株式会社」

インタビューは早稲田店にお邪魔して行いました。早大通りに面したオフィスビルの4階にあります

――メイクホームさんには、どういった状況のお客様がいらっしゃっていますか?

当社には一般の方はほぼお見えになりません。

100%居住支援が必要な方で、来客全体の85%が生活保護利用者の方。また、全体の50%が何らかの障害がある方です。健常者でも、自己破産やDV被害といった理由がある方がいらっしゃいます。

部屋探しは、車いすを利用している方と精神疾患の方が特に難しいといわれているのですが、そうしたお客様のご来店やご相談もよく承っています。

――2人に1人が障害者の方というのも比率としてはかなり多いですよね。障害者の方で一人暮らしの部屋を探す場合は、やはり独立心から検討される方が多いのでしょうか。

もちろんそういった方もいますが、家から出るよう促されて、という理由が一番多い印象です。

障害者の約半数の方は親御さんの庇護の下で同居なさっているのですが、経済的な余裕があるご家庭でも、親御さんが定年を過ぎた65歳ごろから「この子の将来、どうしよう」と考え始めるようです。
お子さんが20歳ぐらいであれば独立心が当人に芽生えるのですが、当社に来られるのは将来を案じた親から促された、35歳過ぎの方が多いですね。

施設にお住まいの方ですと、特に脳性まひの方が多数いらっしゃいます。ただ、施設内で一生を終えたくないとヘルパーさんとお二人でお見えになるんですが、親御さんが反対しているというお客様もよくいますね。

お子さんの一人暮らしを反対する親御さんから、「部屋を探しているフリをしてください。絶対に部屋を紹介しないで」と頼まれたこともありました。その場合、当人の意思を尊重して、親御さんの説得にあたります。

そのほか、身体に障害がある方の場合は、後天的に障害を負ったことで住み替えを検討してご来店なさる方も多いですね。

また先日は、公営住宅にお母さまと住まわれていた身体障害者の方からのお部屋探しのご相談を受けました。
それまで二人暮らし向けの比較的ゆとりのある部屋にお住まいだったのですが、お母さまが亡くなられて一人になり、そこを退居しなければいけなくなったそうです。そのため、障害があっても住みやすい単身向けのお部屋をお探しとのことでした。

お客様によってそれぞれ置かれている状況が異なるため、都度細かくお話を伺って、最適なお部屋探しやその進め方を模索しています

――お部屋探しが大変な方の事情を汲んで個別に対応するとなると、一般的なお部屋探しよりも契約に至るまでに時間がかかりそうですね。

そうですね。時間はかかりますが、私どもは必ず2週間以内に決めるようにしています。


生活保護利用者や障害者が部屋が借りにくい2つの理由

メイクホーム株式会社のホームページのスクリーンショット
「生活保護相談室」や「緊急連絡先代行物件」など、一般的な不動産会社のホームページではまず見かけない単語が表示されています

――ではそもそも、なぜ、生活保護利用者や障害者はお部屋を借りづらいのでしょうか。

それには、管理会社とオーナー、大きくこの2つの側面に理由があると、私は考えています。

1つ目の管理会社側の理由ですが、生活保護利用者の入居は利益が少ないことです。

管理会社の手数料は、だいたい7%ぐらいが相場といわれています。
生活保護には住宅扶助という家賃補助があって、たとえば私どもが事業を展開する東京都の補助額だと、単身世帯で5万3,700円までの賃料の部屋にしか住むことができません。
そのため、5万円の7%、つまり月3,500円ぐらいの管理手数料を得ていることになります。そしてそのうち、1,500~2,000円くらいしか純利益が出ないのです。

加えて、高齢者や障害者などは当人からのクレームや近隣トラブルなど、管理で呼び出されることが多く、その対応のたびに工賃がかかるので、管理手数料に見合わなくなってしまいます。

もう1つのオーナー側の理由ですが、オーナーが不利益を被るかもしれないことです。

一般的な賃貸物件では、家賃の滞納や賃借人負担の室内の修繕などで未払いが生じている場合、賃借人の給与や財産などを差し押さえて、オーナーに支払いがなされます。

ですが、生活保護利用者はほぼ無収入ですし、財産もありません。
家賃に関しては住宅扶助があるので未払いにはなりませんが、物件のどこかを直すとなったときに、結局オーナーが全額負担しなければならなくなります。

こうした2つの要因が一般的なイメージとして定着していて、結果的に、部屋が借りづらい状況が生まれていると思います。

私どもとしても、こうした現状を改善するために、お申し込みや入居時にお客様についてのご説明や、障害から連想する懸念を解決する方法のご提案などをして、お客様と管理会社やオーナーの間を取り持っています

たとえば、「目が見えない人がガスコンロを使って火事にでもなったら…」と心配をされているときは、IHコンロを置けば大丈夫ですよね、と卓上IHコンロを用意しました。「聴覚障害者の人は火事のサイレンやインターホンの音が分からないのでは?」と言われた際は、センサーで反応するパトランプを設置したこともあります。そうした具体的な対応策を提示することで、懸念点をクリアできることをお伝えしています。

お部屋を借りるお客様には、5000円の出張費だけ出していただいて、私どもで設置したりもしています。

近ごろは、IHコンロはだいぶ手頃なものが出回っていますし、パトランプも昔は専門店でしか購入できなかったのがネット通販で買えるようになって、設置もそんなに難しくないんですよ。便利な世の中になりました。


住宅弱者支援の活路は「郊外」の「中古賃貸物件」にあり

――そうした対処のハードルが下がるといった変化が生まれてきていますが、今後、住宅弱者をめぐる状況はどう変わると思いますか?

そうですね。既にその傾向がありますが、今後は老朽化したアパートがさらに増えていくと思います。先にも触れたように、東京都の生活保護利用者は賃料5万3,700円までの物件にしか住めません。都内で5万3,700円となると、選択肢はかなり狭まります。安価に貸し出せる古い物件を活用していく必要があると考えます。

また、東京都でも郊外では空室が目立ってきました。一般の方の入居だけでは埋まりきらない空室を埋める効果が期待できるので、障害者の方も入居しやすくなるはずだと思っています。

現在、政府は、施設で過ごしている障害者も地域の中で住むように政策を進めています。そのため、さらにニーズは増えていく気がしています。

ただ、生活保護の方でも、障害者や持病のある方は病院に通わなければならないので、すべての人が郊外を選ぶのは少し難しいかもしれません。
とはいえ、都市部でもこの先人口が減っていくと言われていますから、それに伴って増加する空室に、障害者の方が入居できる可能性があると思います。

もう一つ懸念しているのが、無年金の人が増えていることです。

企業にお勤めの方は厚生年金がありますが、非正規雇用が増えて厚生年金どころか低収入で年金未払いの人もどんどん増えています。国民年金の未払いは今、約4割ともいわれているそうです。

このままいくと、社会保障制度自体が破綻し、最終的に生活保護に頼らざるを得ない人だらけになってしまうのではと危惧しています。
いくら安いアパートや郊外の空室といっても限界がありますから、生活保護利用者の住宅環境が厳しくなることも考えられますね。


「自分もなるかもしれない」――当事者意識をもって

――厳しい将来像ですが、生活保護利用者や障害者が抱える生きづらさや問題に対して私たちができることには、何があると思いますか?

当事者意識を持つ、ということでしょう。

今は五体満足な健康体であっても、年齢を重ねるにつれ、白内障になったり、体が不自由になったり…と、さまざまなリスクが高まります。そうなれば、働くことはもとより、治療が必要になったり、孤立や困窮に悩まされたりするなど、また新たな難しさも出てきます。

精神障害者、生活保護利用者も増えていきますから、「今後自分も生活保護利用者になるかもしれない」「心身に障害をきたすかも」という当事者意識とともに視野を広く持ってほしいと思います。

またそうした問題に向けて、一人ひとりの気づきも大切ですが、企業からも声を上げてもらえたらと思います。


石原さんが掲げる4つの将来像

早稲田店カウンターで業務に当たる石原社長と社員の方
インタビュー中も社内ではお問合せの電話が頻繁にかかり、対応に追われる様子も。多忙の渦中にありながら、石原社長が見据える先とは?

――最後に、石原さんがこれから取り組んでみたい事業の展望を、教えてください。

いろいろありますが、1つはコンパクトシティです。
政府でも進めている構想に、不動産企業として、都市構造の在り方に携わっていきたいと思っています。

2つ目が、障害者とのふれあいの機会をつくることです。偏見や固定観念は、相手への認識不足から生まれます。一般の方が障害者とのふれあいを通じて、障害者への理解を深め、当事者意識を持つ場になればと考えています。そうした種まきの機会をつくっていきたいですね。

3つ目が、地方にも私たちのような福祉専門の不動産会社を増やしていくことです。
今後、IT技術の進歩によって、オーナーと借主が直接やりとりするような手段が生まれて、不動産業界、特に一般の方向けの賃貸物件の仲介は淘汰されていくと思います。そうした一般の人とは異なる、配慮が必要な人たちに向けた福祉に意識のある不動産会社を、地方にも増やしていきたいです。

そして、高齢者や障害者を見守るシステムを取り入れた物件を増やしたいですね。
少子高齢化や人材不足が問題となっている今、孤独死などの悲惨な状況を「見守りシステム」を導入することで回避できるのではと考えています。
見守りシステムの導入が、オーナーと賃借人だけでなく、不動産会社、管理会社、保証会社などの安心にもつながるのではと期待しています。


おわりに

趣味は「ボランティア」と「新規事業立ち上げ」だと語る、石原さん。物件仲介以外にも、車いす専門の引越しや緊急連絡先協会など、さまざまな福祉事業を展開していらっしゃいます。ですがその実、持ち出しも多いそう。しかしカラリと語るその口調の裏には、事業を続けていくための相当な熱意が感じられました。

熱い石原さんのお話は次回へと続きます。

障害者や生活保護利用者などの賃貸住宅を借りることが難しい人に特化した事業を始めた理由をはじめ、不動産企業としての在り方についてお話を伺います。


プロフィール

石原幸一(いしはら・こういち)
1965年生まれ、東京都足立区出身。高校在学中から数社掛け持ちして働き、高校卒業後20歳で医療機器システム開発の会社を起業。医療機器の設計開発やPCサポート、人材派遣業と事業を拡大し、26歳で約6社を経営する。2001年大手建築会社との都市開発事業で障害者を雇用していたが、事業終了に伴い障害者の暮らしの問題に直面し、2010年1月メイクホーム株式会社を設立。2018年には東京都の住宅確保要配慮者居住支援法人の指定を受け、企業視点での幅広い住宅弱者支援を行う。


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