見出し画像

不動産会社ができる居住支援 メイクホームが取り組む「福祉事業」とは

コンビニの倍以上あるといわれ、星の数ほどの競合がいる不動産会社。なかでも、物件の売買・賃貸を仲介する不動産仲介の分野は、借り手市場といわれて久しいながら空室率は約20%とされていて、不動産会社の手腕が問われています。

一方で、住宅弱者と呼ばれる人たちの住環境に関しては不遇が続き、民間住宅に入るに入れない現状も。住まいをめぐるこの悪循環、何か解決策はないのでしょうか。

生活保護利用者をはじめ、障害者や高齢者など住宅弱者の住まいの問題に取り組み、東京都指定の住宅確保要配慮者居住支援法人として事業を進めるメイクホーム株式会社。社長の石原幸一氏に、不動産会社の視点から見た社会的弱者をめぐる住まいの状況と今後の展望をお伺いしました。
前回インタビューはこちら



客層はほぼ生活保護利用者 ターゲットをあえて絞った事業展開

緊急連絡先協会、居住支援不動産投資など、メイクホームが手掛ける事業のそれぞれのパンフレット
多彩な事業を展開するメイクホーム株式会社。その根底には、「福祉事業」という考えがあるといいます

――来客の100%が居住支援の必要な方ということでした。どうしてそんなに高い比率なのでしょうか?

私どものウェブサイトは、あえて通常の不動産会社では成約が難しい居住支援が必要な人向けに制作しているからです。

お部屋探しをしたい一般の方が私どものホームページを見ると、中身を読み進めていくうちに居住支援が必要な人向けの話ばかりであることに気づいて、他社サイトへ移られると思います。

――住宅要配慮者に絞ったのは、どういった理由からですか?

ひとつは、一般の方のお部屋探しのほうが容易に取り組めるからです。

一般の方ばかりを対応していると、車いすを利用している方や生活保護利用者の方など、私たちが本来取り組みたい方への業務にハードルの高さを感じてしまい、そちらがおろそかになってしまいます。
そのため、難しいほうにシフトしてあえてハードルを上げています

飲食店やタクシーでUberが台頭しているように、不動産業界も今後はITを介してオーナーと借主が直接やりとりするようになると、私は考えています。健常者の方は実際に物件に行かずとも、VRを介してあたかも物件に行ったかのような臨場感でバーチャル内見できるようになり、入居が決まったあとで初めて現地へ行くようになるかもしれません。

そうしたサービスやパソコンが使えない高齢者や障害者の方を、私たちですくいとっていこうという考えです。実際、現在広まっているスーパーのセルフレジは、タッチ式なので全盲の方が使えないですし、高さの問題で車いすユーザーには使えないんですよ。

それともう一つは、生活保護利用者や年金生活者を引き受ける不動産会社が少ないからです。

一般の賃借人の場合、何かトラブルがあったら収入から差し押さえができるのですが、無所得の方は、財産や収入もないので回収することができません。また、敷金以上の修繕費がかかる場合の追加徴収もできません。
そのため、リスクを負ったり、保険制度を見直したりと、細々とした手配が必要になります。結果、世間一般の不動産会社は10社あるうち1社ほどしか、生活保護利用者の方を迎え入れていないようです。

私どもは、そうした方を受け入れて、部屋探しだけでなく、生活保護などの利用申請もお手伝いしています

いろいろなお客様のお手伝いをしていますが、過去にトラブルが多かったこともあり、薬物依存の方と重度の精神障害の方だけは現在お断りしています。

――不動産会社の範疇を超えた、まるで支援活動ですね。

私どもは、自分たちが行っていることは「福祉事業」だととらえています

タワーマンションの工事や管理をして高い利益を上げている一方で、福祉事業に利益を注いでいて、社員もそれを知っています。そうしたソーシャルビジネス、国に頼らない社会福祉の考えで会社運営を行っています。

さまざまな事業を展開していますが、福祉事業をやりたいがために行っているのです。


部屋を借りやすくオーナーに損をさせない「完全管理物件」という工夫

メイクホーム株式会社のホームページ内の物件検索のページ
メイクホームの物件検索の条件は、賃料の上限が5.5万円に設定されていたり、契約条件に「短期貸し物件」の選択肢があったりと、一般的な物件検索ではあまり見ない仕様

――来店するお客様の約85%が生活保護利用者とのこと。生活保護利用の方のお部屋探しの対応に留意している点などありますか?

生活保護利用者は、支給額の5万3,700円しか家賃に充てることができない点ですね(東京都の場合)。

また、病気やケガなどの入院治療中に、治療費がかさんで生活保護を利用する方もいます。その場合、病院のソーシャルワーカーも交えて相談し、当社で契約から引越しまでを担うようにしています。

――お部屋を借りづらい方一人一人のケースに沿って対応しているのですね。とはいえ、限界があると思いますが……。

メイクホームが手がける物件の特徴の一つに「完全管理物件」というものがあります。事情のある入居者さんのフォローは私どもが全面的に行い、オーナーさんには利回りだけを重視していただく物件です。

生活保護利用の方は一度入居すると長く居住なさるのと、入居希望者をすぐご紹介できることから、賃料を下げる必要がありません。

また、生活保護を利用する方は、衰えてしまって施設に入るかグループホームに住むことになったなど特別な理由がない限り、引越し費用を支払う自治体からの許可がないと自分から引越しができません。そのため、長く住まわれるのです。期間にして、だいたいそうでない人の3倍くらいです。
長く住まわれるということは修繕やクリーニングにかける費用や空室期間も減りますから、利回りがさらに上がるんですよ。

――利益率が高いとなると、オーナーのほうから「貸したい」というご相談も寄せられるのではないですか?

そうですね。空き家になった古い物件などでご相談いただくことが多いです。

そこで軌道にのって収益が出ると、今度は新しい物件を建てて、その物件を任されることもあります。


社長のボランティア精神から居住支援法人へ

早稲田店の打ち合わせスペース。パーテーションに「居住支援法人メイクホームグループ」の看板が掲げられている
メイクホームグループでは、不動産業だけでなく「緊急連絡先協会」や「エース引越サービス」など、居住支援法人として住まいの困りごとに寄り添う幅広い事業を展開しています

――2018年に指定された居住支援法人ですが、福祉事業として幅広く業務を行ってきていたとはいえ、居住支援法人になるのはさらに踏み込んだ取組みだと思います。その経緯を教えてください。

きっかけは、私どもの理事をお願いしている都議会議員の助言からでした。

――指定を受けてから、何か変化はありましたか?

業務にさほど変化はありませんね。当時は東京都で指定を受けていた企業が少なかったのですが、現在40社になりました。住宅確保要配慮者がいた場合、その40社が地域で受け入れて、どの企業が対応するかを調整しながら決める、といった感じです。

ただ、たいてい私どもで受け入れています。
受け入れたくても、企業としては取り組めば取り組むほど赤字になってしまうため、泣く泣く断らざるを得ない企業もあるのです。そうした引き受け手のない特に難しい状況の方の場合に、私どもにお声がかかることが多いように感じます。

そうした事業のほかに、他地域の居住支援協議会から呼ばれて研修を行ったり、パンフレットを作成して役所や包括支援センターに置いていただいたりしています。

――研修によって手応えを感じることはありますか?

研修を受けた担当者の方、特に対応が難しい精神疾患の方の対処に苦慮されている方からご相談を受けることが増えました。


誰にも頼れない人の後ろ盾「緊急連絡先協会」

緊急連絡先協会のパンフレットの中身。入会の流れに沿って電話相談、面会、記入方法、契約後の説明が書かれている。利用料金は入会金5,500円+2年分年会費1万3,200円
緊急連絡先協会のパンフレットは、一都三県の市・区役所に置いてあるそう

――メイクホームで行っている緊急連絡先のない人に向けた代行事業「緊急連絡先協会」も、不動産会社が行う事業としてはとても特異なものかと思います。

緊急連絡先協会は、主に保証会社契約時に必要な緊急連絡先を請け負う事業で、保証会社の普及のためでもあります。

発端は、緊急連絡先を記入できない人が高齢者に増えてきたことです。

70歳ともなると両親はいませんし、そのお歳でお一人ということは、お子さんがいらしても揉めている場合があります。では友人を緊急連絡先にと思っても、友人もまた同年代が多いですから、老い先は長くはないですよね。
そうすると緊急連絡先がないことを理由に保証会社の契約更新ができず、退去せざるを得ないことがありました。

それまで契約に際して緊急連絡先のないお客様がいた場合、私が個人的にボランティアで緊急連絡先を担っていました。その状況を見た保証会社の方から「大変でしょう、事業化したほうがよいのでは?」と言われたり、自治体のほうから何とかしてもらえないかと打診されたり、といったことが重なって作ったのが、緊急連絡先協会です。

――ということは、高齢者向けのサービスですか?

当初そのつもりでいましたが、実際に事業を始めると、DV被害者の方、頼れる人がいない方、友人はいるけれど頼れない方など、幅広い年代の方からまんべんなく利用されています。

――書類で完結するのではなく、面談があるのも特徴的ですね。

面談では30分かけて、持病などご自身の状況をじっくりヒアリングしてから入会を判断し、入会が決まれば緊急連絡先協会のデータベースに登録します。

たとえば、突然倒れて救急搬送が必要な場合、本人の意思確認が必要になります。意識がない場合は緊急連絡先に連絡が行くのですが、入会された方には会員証を身に着けていただいて、万一のときには連絡を受けた協会のオペレーターが、登録した情報を基に対応します。
ただ、マイナンバーが普及すればそうした医療情報は提供されるようになると思うので、この部分の役割はそれまで、あと8年ほどの役目だと思って頑張っています。

設立当初は保証会社にどんなに営業しても事業内容が伝わらず、「そんなものダメだ」と全面的に断られていましたね。

面談に来る方のうち、実際入会に至るのは2割くらいです。利用者の負担も大きいので、面談時に友人知人に頼めることをご説明したり、疎遠になっていたご家族と私どもが連絡を取って「今回だけでも」と交渉したりすることもあります。

――緊急連絡先協会では会員のバックアップもなさっているとのことですが、入居時のサポートや独り身没後の処理代行のほか、どんなことを行っていらっしゃいますか?

いずれもオプションになりますが、葬儀を挙げてほしい場合は葬儀保険に入っていただいたり、病状が思わしくない場合には室内にセンサーを取り付けて、挙動がないと緊急出動する見守りをつけたりしています。内容にもよりますが、月2,000円~3,000円です。


メイクホームが見据える不動産業界のアップデートと今後の課題

「人と比べて感じる幸せは短いが人と共に創る幸せは長く続く」という言葉が額に入れられている
メイクホーム株式会社早稲田店の接客カウンター横に掲げられた社訓と行動指針

――メイクホームで今抱えている問題、今後取り組まないといけないと感じていることはありますか?

地方からの悲鳴がたくさん届いている点です。私どもがカバーしているのが東京・千葉・埼玉・神奈川なのですが、それ以外の方から「助けてもらえませんか」「こちらの地元で行っていただけませんか」と、ご相談が増えています。申し訳ないですがエリア外のためお断りしているのが現状です。

ですから、どう全国展開をしていくのかを考えていて、近いうちに大阪に進出することを計画しています。

また、フランチャイズ事業をスタートさせて、5年間で100ヶ所を目標に加盟店を集めています。直近ですと、2022年6月に東京都多摩地区で、オープンの予定です。

大手不動産会社に勤めていた4人が独立して開く店舗で、客単価も非常に高い実績がある優秀な人たちが立ち上げるのですが、ただバリバリと稼ぐだけでなく、自分たちのスキルを社会貢献に活かしたいという気持ちで傘下に入ってくれることになりました。
私たちのYouTubeチャンネルを見て、声をかけてくれたのがきっかけなんですよ。

――そうした新しく参入する方も出てきている一方、生活保護利用者をはじめとした社会的弱者に向けた取組みはまだ少ないと思います。不動産業界のアップデートを図るにはどうしたらいいと思いますか?

今後さらにアパートの空き室が増えて、賃貸業界はどんどん厳しくなっていきます。そこに目を向けないといけないように、自然と考え方は変わってくると思います。

私どもは、今は「障害者住宅」や「高齢者住宅」といった専用住宅のように、障害者向けの住宅の提供に取り組んでいます。視覚障害の方向けの住宅、聴覚障害の方向けの住宅など、コンセプトを決めてつくっていこうと思っています。

こうした動きに賛同してくれる企業がいるといいですね。


おわりに

メイクホームでは社員教育は特に行っておらず、社員の皆さんはすべて現場で対応のノウハウを磨いていっているそうです。社員には、「車いすの扱いがヘルパーさんよりうまい」といった顧客からの声もあったのだとか。

社員の方の多くが身内に障害者がいて、来店する方々の気持ちがわかるからだと言います。こまやかにニーズに応えよう、応えたいと尽力し、ソーシャルビジネスを成立させているのは、こうした当事者意識の高さがあるのかもしれません。


プロフィール

石原幸一(いしはら・こういち)
1965年生まれ、東京都足立区出身。高校在学中から数社掛け持ちして働き、高校卒業後20歳で医療機器システム開発の会社を起業。超音波診断装置・MRIなどの医療機器の設計開発やPCサポート、人材派遣業と事業を拡大し、26歳で約6社を経営する。大手建築会社との公共事業で障害者の住まいの問題に直面し、2010年1月株式会社メイクホームを設立。2018年には東京都の住宅確保要配慮者居住支援法人の指定を受け、企業視点での幅広い住宅弱者支援を行う。


✳︎LIFULLHOME'S
✳︎LIFULLマガジン
✳︎株式会社LIFULL

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?