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ひとり親が再出発できる場所を―シングルマザー向けシェアハウスという選択~後編~


女性のひとり親に向けたシェアハウス「ペアレンティングホーム」をはじめ、ひとり親向けシェアハウスのポータルサイト「マザーポート」、NPO法人「全国ひとり親居住支援機構」を運営する、一級建築士事務所秋山立花代表の秋山怜史さんへのインタビュー。前編では、シングルマザー向けシェアハウスの実情や、ひとり親となって住まいの問題に直面した際の相談窓口、事業の立ち上げについてお伺いしました。後編は、前編で触れたセーフティーネット住宅制度についてへと、お話が続きます。

▼前編のお話はこちら。
https://note.com/actionforall/n/n7608a21efd9f


「専用シェアハウス×セーフティーネット住宅」

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――葛西リサ先生が開かれた全国の事業者さんとの情報交換会の中で、セーフティーネット住宅についてや行政とのつながりの必要性について話が出たとのこと。このnoteでもセーフティーネット住宅について掲載したところでした。ひとり親向けのシェアハウスとセーフティーネット住宅について聞かせてください。

全国ひとり親居住支援機構を立ち上げた2019年当時、ひとり親向けシェアハウスはセーフティーネット住宅の対象となっていませんでした。
母子向けのシェアハウスを立ち上げるには、家賃設定は高くできないですし、空室率も高いので、やはりイニシャルコストをなるべく抑えたい。それには、なるべく状態のいい物件を探して、最小限のリノベーションをするというのがベストな方法なのです。

――当時は、ということですが、今はどうなっているのでしょう?

2021年4月から、ひとり親向けシェアハウスもセーフティーネット住宅の対象になりました。
自治体の改修補助や家賃低廉化の補助を受けるには専用住宅にする必要があり、住宅要配慮者しか入居できなくなります。私たちのように、積極的にそういった特定の人に貸したいという人たちにとっては、セーフティーネット住宅は使い勝手が良くなる可能性があります。家賃低廉化の補助によって、困っている人たちも借りやすくなりますしね。
ですので、セーフティーネット住宅の制度は、私たちのように積極的に制度を活用したい事業者に向けてアナウンスをしていったほうがよいと思います。また、住まいだけではなく、どうしたら居住支援のプレイヤーが増えるかということに視点を移さないと、制度は伸びないと思います。

――国交省のサイトを見ている限りだと、空き家を持て余す大家さんに向けたイメージでしたが、印象が変わりました。

セーフティーネット住宅制度自体はとてもいい制度だと思います。ただ、法の理念を体現するのに本当に必要なのは、居住支援のプレイヤーを増やすことです。それには理念のある居住支援法人(住宅確保要配慮者居住支援法人のこと。物件を仲介する宅地建物取引業免許が必要。セーフティーネット住宅制度では支援金の分配をする役割も担う)が増えていかなくてはいけないのですが、そこもなかなか増えないのですよね。
また、地方行政が「予算をつけます」と言わないと、家賃低廉化の補助が出ないんですよ。セーフティーネット住宅ではそこが大事なのに、日本に1700くらいある自治体の中で実際にそれができているのはまだ30程度と本当に少ないのです。
法律も綺麗で、法の理念も綺麗なんですけど、それを動かす人たちがその法の理念を体現できていない印象です。そのために私たちは啓蒙活動をしていかないと、と思っています。

――秋山さんの手がけていらっしゃる物件で、実際にセーフティーネット住宅に登録してるものはありますか?

横浜の物件ですね。かなり厳しい状況の人でも入れるようにしているので、家賃補助を受ければ、今は家賃が25,000円ぐらいになっています。
また、横浜市の取組みの一環で、コロナの影響で収入が減った方になると、ほぼ無料で入居できます。これから登録する物件も増えていく予定です。


行政への期待と、シェアハウスのこれから

秋山さん文中

――今後の展望をお聞きする前に、事業を始めてからと今、何か変わったと感じることはありますか?

そうですね、仲間が増えてきて発言できる機会も増えてきています。その声をもっと強くしていきたいです。母子ハウスを運営したい人は仲間が増えることにウェルカムですから。みんな尊い人たちばかりなんです(笑)。そういう人を増やしていきたいですね。
その中で、事業者さんたちが不当なストレスを抱えないようにするのがNPOの役割だと思っているので、しっかりとモデルをつくって、事業として展開していくこと。それと、民間がこれだけやっているんだから、行政に対してはもっと後押ししてほしいと伝えたいですね。

――行政からの市民への後押しですね。

あらゆる制度にいえることなんですけれど、助けが必要なグレーゾーンの人にシームレスに支援が行き届いていません。生活保護も住居確保給付金も、一定以上の貯金があると支給されないのです。
たとえば、子どもの進学のために何としても守りたい預貯金なのに「なんだ、100万円もあるならそれを使ってください」というふうに、審査で断れられてしまう。本来ならば、預貯金が0円になる前に、立ち上がれる余力のある状況のときにきちんと支援をして歩けるような状態にもっていったほうがいいです。でも、今の日本の制度はすべからくノックダウンされて、立ち上がれない状態になってからでないと、支援がなされないんですよね。「とにかく1回死にかけてください」と言われているようなものですよ。これだとお金ばかりが出ていきかねません。

――そこで住まいという身の置き所があるのとないのとでは、だいぶ差がありますよね。

ええ。ただ、住まいがあっても今度はそれを維持できるかどうかという不安にさらされます。だからこそ、セーフティーネット住宅の家賃の低廉化や、諸外国のように収入額による家賃補助をやっていかないと、と強く思います。

私たち運営側の課題もあります。現状、住まいの運営者が入居者に伴走していますが、それだけではなくさまざまな専門家と一緒になってやっていかなければいけないと思っています。そこで今、横浜の物件をモデルにしようと、母子の悩み相談や就労支援を行っている男女共同参画推進センター、子育てに関する窓口のこども青少年局や福祉課など、横浜市の行政4部署と提携したいと考えています。「こういった困った状況の方がいます」と相談があったとき、その情報が各部署に伝わって、「うちではこういった支援ができます」と手が挙がるような状況にしていきたいな、と。

――横浜がモデルケースになりそうですね。他には今後どういった構想がおありでしょうか。

横浜市では母子家庭で事業が始まりましたけど、あらゆる世代で住まいの課題が残っているのですよね。
高齢者に向けた制度はいろいろありますが、20代前半の若い世代―社会的養護(保護者がいない、もしくは保護者の適切な養育を受けられない子どもたち)出身の子たちとかは、厳しい状況なんです。自立援助ホームはありますが、二十歳を過ぎると退所しなくてはなりません。そもそも施設が合わない子もいます。しかも彼らが部屋を借りづらいことに対する制度がないのです。そうした社会的養護の子たちの居場所をつくってあげることは、セーフティーネット住宅でもできることですしね。
最近の議論で、たくさんの属性の人が集まったほうがよりコミュニティが安定するのでは、という話をしているんですね。住まいという観点でいうと、母子家庭だけでなくて、そうした子どもたちにも目を向けていきたいです。

母子家庭のこともそうなんですが、僕がやりたいのは子どもたちの安全と健康を守ること。母子家庭を守るというのは、イコール子どもたちの生活を守ることでもあります。
どうやったらそういった子どもたちやひとり親家庭が住むことができて、適切な支援につなげられるかに取組んでいきたいと思っています。


おわりに

秋山さんは、実はひとり親にまつわる実体験があるわけではなかったそうです。にもかかわらずこの事業に携わるようになったきっかけの1つに、「この問題を知った縁」と語っていらっしゃいました。また、問題解決には第三者の介入が必要、とも。
縁という言葉には、“ある結果を生じる間接的な原因”という意味があります。それまで知らなかった誰かの困難を知ったことが、その困難に何らかの結果を生むはず。また知った人が増えれば増えるほど、結果もまた大きく変わるのではないでしょうか。知る機会、知る感度を日々磨いていること。自分以外の何かを知ることは、社会変革の第一歩なのかもしれません。



プロフィール

秋山さん (2)

秋山 怜史(あきやま・さとし)
1981年生まれ、茨城県出身。幼少期から政治や社会問題を身近に考える環境で育つ。東京都立大学卒業後、建築事務所での勤務を経て、2008年一級建築士事務所秋山立花を設立。仕事を通じ、さまざまな暮らしや社会問題と多く関わる中で、2012年に国内初のシングルマザー向けシェアハウス「ペアレンティングホーム」を、2019年特定非営利活動法人全国ひとり親居住支援機構を発足。建築士の業務の傍ら、シェアハウスとNPOの運営、ソーシャルイノベーションに関する活動にくわえ、東洋大学で教鞭をとるなど、多岐にわたる活動に携わる。2児の父。

▼シングルマザー向けシェアハウスのポータルサイト
マザーポート

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