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知っていますか? 住まい探しが難しい人のための「住宅セーフティネット制度」


生活の基盤である衣食住の中で、今考える住まいの問題。
今回は、住居を借りたいけれどさまざまな問題を抱えているがゆえにそれが叶わず困窮する人と、空き家や空き室をもつ人をつなぐ「新たな住宅セーフティネット制度」について取り上げます。
深刻化している空き家問題と社会福祉の問題。まったく異なる2つの社会課題解決の光明とは――。


借りたいのに借りられない人がいる

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「独居老人ということで(入居を)断られた」
「物件の内覧を希望した際にひとり親家庭で生活保護利用者ということを不動産会社に伝えたら、その後返事がなかった」
「実際に住む人間が高齢だと、(入居を)断られる可能性が高かった」
「No rent to foreigners.(外国籍には貸し出してもらえなかった)」

これは、LIFULLが2019(令和元)年11月に「LIFULL HOME’S ACTION FOR ALL」を始めるにあたり、住まい探しに困難のある人を対象にした調査で寄せられた、当事者の声です。

調査では、さまざまなバックグラウンドを理由に住まいの選択肢が限られてしまうこと、また、「性別(セクシャリティ/ジェンダー)」、「年齢」、「国籍」、「経済状況」、「家族構成」を理由に不動産会社やオーナーから退去を求められた経験がある人がいるという事実が明らかになりました。

日本における住まい探しにおいて、平等に住まいを選ぶことができる権利があるとはいえない――そんな課題が見えてきます。

さらには、そうした住まいの確保が難しい世帯の受け皿である公営住宅にも今問題が。
多くの公営住宅では、老朽化して取り壊さざるを得ない管理住宅が増えているにもかかわらず、少子化や自治体の財政難、土地の不足などを理由に新しく棟を建てることが困難になり、公営住宅ストックは減少傾向にある、というのです。
しかも、続く高齢化、外国籍人口比率の上昇、コロナ禍での生活困窮者の増加…。

借りたいのに借りられない、は身近な社会問題といっても過言ではありません。


今、日本にある住宅の問題

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国内の住宅とそこに居住する世帯の居住状況等を把握するため、総務省より『住宅・土地統計調査』という調査書が5年ごとにまとめられています。

その最新版(2018(平成30)年発表)を見てみましょう。

図:総住宅数、総世帯数及び1世帯当たり住宅数の推移ー全国(1958年~2018年)

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出典:総務省 平成30年住宅・土地統計調査 調査の結果よりhttps://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2018/pdf/kihon_gaiyou.pdf

世帯数が増え、住宅数も増えています。

次に、全国の空き家数を追ったグラフです。

図:空き家数及び空き家率の推移ー全国(1958年~2018年)

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出典:総務省 平成30年住宅・土地統計調査 調査の結果よりhttps://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2018/pdf/kihon_gaiyou.pdf

これらの調査から分かるのは、総住宅数が上がっているにもかかわらず、その中における空き家の比率が上がっているということ。住まいとしての役割を終えたものの、更地にすると課税額が上がるがゆえに空き家は放置されがちで、今やその存在が社会問題にもなっています。

先に触れた「借りたいのに借りられない人が増えている」状況にもかかわらず、空き家も増えている。

この点に着目して発案され、現在運用されている制度があるのをご存じでしょうか。そう、それが今回のトピック、「新たな住宅セーフティネット制度」なのです。


「拒まない住宅」―新たな住宅セーフティネット制度のしくみ

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この「新たな住宅セーフティネット制度」。
2017(平成29)年10月からスタートした制度です。

この制度は、
1. 住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅の登録制度
2. 登録住宅の改修や入居者への経済的な支援
3. 住宅確保要配慮者に対する居住支援

という3つの柱で成り立っています。

図:新たな住宅セーフティネット制度の3つの柱

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出典:国土交通省パンフレットよりhttps://www.mlit.go.jp/common/001349874.pdf


平たく説明すると、何らかの要因で一般的な賃貸物件への成約が困難な人(要配慮者 ※詳しくは後述)は、 全国の居住支援協議会にセーフティネット住宅として登録された賃貸物件に、マッチングや入居支援を受けて自身の不利な条件を理由に入居を拒まれることなく賃貸借契約が結べます。一方で物件オーナーは、補助等を受けて所有の不動産をセーフティネット住宅の基準を満たした住宅に改修し資産価値を上げつつ、登録住宅として要配慮者を入居者として迎えて空き部屋を埋めることができる、という仕組みです。

公営住宅の入居難の中、増える空き家を補助によって安全で住みよい部屋へと改修すれば、民間賃貸住宅の質の向上を叶えつつ、そうしてできた部屋を社会的弱者が住まう場所にできる。
借りたいのに借りられない人の問題と空き家問題を解決する有効な策として、期待されているのです。


制度に該当する「住宅確保要配慮者」とは

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部屋を借りたいのに借りられない――そんな住宅の確保に特に配慮を要する人を、この制度では要配慮者(正式には、住宅確保要配慮者)と称し、セーフティネット住宅の住居者として迎え入れています。

具体的には、
・月収(政令月収)が15万8千円以下の世帯の低額所得者
・発災後3年以内の被災者、東日本大震災等の大規模災害の被災者
・高齢者
・障がい者
・18歳未満の子どもがいる子育て世帯
・外国籍
・中国残留邦人
・児童虐待を受けた者
・ハンセン病療養所入所者
・DV被害者
・拉致被害者
・犯罪被害者
・矯正施設退所者
・生活困窮者

といった事柄に該当する人たちがその対象。これは、住宅セーフティネット法で定められています。

しかし、所変われば困窮状況も複雑になっている昨今。そこを柔軟にカバーすべく、各地方公共団体によって供給促進計画が定められた自治体では、新婚世帯LGBTQU・I・Jターン者などが対象となっている場合もあります。

残念ながら、一般的な賃貸物件では、賃料滞納の不安や近隣トラブルの懸念から、上記の事案を理由に入居申し込み時に断られるケースが少なくありません。

セーフティネット住宅は、「高齢者については入居を拒まない」「低額所得者と被災者については入居を拒まない」といった、大家側によって賃借人の属性が設定された物件が登録されています。
そのマッチングによって、該当する人の入居を拒まない住宅ができるのです。


借りたい人がすること・できること

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前述の住宅確保要配慮者に該当していて、部屋探しに困難を感じているなら、足がかりになる方法は3つ。

・セーフティネット住宅情報提供システムでの検索
一般社団法人すまいづくりまちづくりセンター連合会が運営するウェブサイト「セーフティネット住宅情報提供システム」は、セーフティネット住宅を検索できるサービスです。こまかな条件から、現在空いている全国のセーフティネット住宅の最新情報を閲覧することができます。

・全国にある居住支援協議会への相談
居住支援協議会とは、セーフティネット住宅の総合窓口といった団体。2021(令和3)年4月28日時点で全国に108の協議会があります。

国土交通省発行の居住支援協議会の連絡先リスト https://www.mlit.go.jp/common/001403145.pdf

セーフティネット住宅の「今」と「現場」を知っている団体です。

・全国にある居住支援法人への相談
居住支援法人とは、要配慮者の民間賃貸住宅等への入居を円滑化する活動を行う団体。2021(令和3)年4月28日時点で、398法人が登録、活動しています。

国土交通省発行の居住支援法人の連絡先リスト https://www.mlit.go.jp/common/001403147.pdf

また、公益財団法人 日本賃貸住宅管理協会のウェブサイトには居住支援法人につないでくれる相談フォームがあります。
要配慮者への斡旋に特化したスペシャリストの手を借りて、問題解決への一歩を踏み出せるはずです。


貸したい人がすること・できること

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所有物件の空室状況が続くオーナーや空き家を持て余す人にとっても、新たな住宅セーフティネット制度を活用することは大きなメリットになり得ます。建物を有効利用できるだけでなく、空室リスクを下げられるからです。
貸主が主体となってできることは、3つ。

・大家さんに向けた情報の収集
貸主あってこその制度でもあるため、国土交通省では、貸主に向けた懇切丁寧な制度の説明資料を用意しています。
国土交通省のウェブサイトには、ハンドブックやお役立ち情報が集約されています。
大家さんが抱える不安や疑問に寄り添った、見識と認識が深まる内容です。

・全国にある居住支援協議会への相談、登録
セーフティネット住宅の総合窓口である居住支援協議会は、貸したい人の受付窓口でもあります。物件のある自治体の居住支援協議会にぜひ問合せを。
所有する物件が登録可能か、入居対象者の選択、登録するにあたり受けられる補助や助成についても相談できます。

・各種補助や助成、融資の活用
セーフティネット住宅に所有する物件を登録する人に向けた支援が各種あります。
たとえば、国土交通省の助成「住宅確保要配慮者専用賃貸住宅改修事業」や、住宅金融支援機構のローン「賃貸住宅リフォーム融資(住宅セーフティネット)」、そのほか各自治体や支援団体による賃料の低廉化の補助、などです。
担い手となる住宅のオーナーの不安を払拭するため、かなり保証が手厚い印象を受けます。
ZOOMを使ったオンライン相談会なども定期開催されているので、気軽に参加してみてもいいかもしれません。


不動産会社や支援団体が賃貸借に向けてできることは

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ここまで、賃貸借当事者に向けた窓口を紹介しましたが、では不動産の窓口である不動産仲介会社や困窮者を救う窓口となる支援団体ができることはなんでしょう?

まずは、見識を広めること。
国土交通省住宅局安心居住推進課が直接配信するメールマガジン「居住支援メールマガジン(所属と氏名を記載してhqt-housing-support@mlit.go.jpにメールを送信して登録)」や、各所で行われるセミナーに参加する方法があります。現場の生の声は、何よりも響く情報になるでしょう。

もっと本格的に踏み込んだ活動を行うに至れば、全国にある居住支援協議会に登録を。一般社団法人全国居住支援法人協議会では、企業や団体の参加を募っています。
また、共生社会実現に向けた住宅セーフティネット機能強化・推進事業では、支援事業者が受け取れる活動に対する補助金交付制度があり、毎年4月中旬~5月初旬に公募しています。

特に企業にとって、企業の社会貢献活動(SDGsへの取組みなど)は世界的に注目を集めている分野。
収益を求めるだけなく、社会問題の解決に取組むことで、だれもが住みよい社会の創生――すなわち市場の活性につながるのではないでしょうか。


おわりに

生活の基礎といわれる、衣食住。中でも「住まい」は、命をつなぎ活動する拠点であり、生活の根幹を担う場所です。

「新しい住宅セーフティネット制度」は、そんな住まいを、支援という手を加えることで、うまく循環させていく取組みです。
施行されて5年とまだ成熟の過渡期にある制度のため、登録物件数が少ないなどの課題はありますが、コロナ禍に対応した助成を既に始めていたりと、問題解決へのスピード感があり、今後に期待のもてる事業。

人の生命が脅かされることのない社会をつくるためのセーフティネットがあること、そしてそれを支える立場に自分がなれることが、一人でも多くの人に伝わればと思います。

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