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都市にも森が必要だ:ヨーロッパ各都市で進む都市緑化計画

Takeshi Okahashi

ACTANT FORESTで記事にしたタイニーフォレストは、都市の中に人工的に多様性の高い小さな森をつくろうという活動だ。オランダでは、2015年に国内初のタイニーフォレストが出来てから、自然教育団体IVNが中心になってその試みを全国に広げる活動に取り組んでいる。そのIVNによると、オランダ国内のタイニーフォレストの数は、2021年の6月の時点で144ヶ所、2021年内には200箇所になる予定だそうだ。順調にその輪が広がっている。この運動は、オランダやインドにとどまらず、フランスやベルギー、パキスタン、英国、アイルランドなどにも広がっている。

大御所メディアである、ナショナルジオグラフィックのウェブ記事でも取り上げられた。タイニーフォレストをはじめとする「都市の森」に、ますます注目が集まっている現れだ。

こうした動きはタイニーフォレストだけの小さな動きではない。より大きなうねりとして明白なのが、都市の緑化の推進だ。ヨーロッパ各都市で、盛んに都市の緑化が喧伝され、大胆な施策が進められている。コロナ禍によって、人々の環境への関心、街への関心が高まっていることも背景にあるだろう。今回は、パリ、ロンドン、バルセロナ各都市の最近の動きを紹介したい。

2024年のオリンピックを前に、都市の森を増やすパリ

今や、大都市の首長にとって、都市に森を増やすことは、重要政策となっている。

パリのアンヌ・イダルゴ市長は、2014年に初当選した当時からグリーン政策の推進に熱心だ。2020年の再選後もその勢いは止まらない。市内に自転車道が整備され、2024年からはディーゼル車、2030年からはガソリン車が市内中心部に入れなくなる。コロナ禍の間にも、50kmの自転車道(その名も「コロナピスト」)が作られ(一時的なものの予定だったが、その後永久化された)、自動車排除の動きも加速し、市内の7%はすでにカーフリー(自動車禁止区域)となっているという。

都市に森(樹木)を増やす動きも活発だ。イダルゴ市長は、2026年までに市内に17万本の木を植え、2030年までには、公園や屋上緑化、植栽により市内の50%がカバーされることを目標としているという。(2020年時点で、公共の緑のスペースだけで9.5%がカバーされていると言うから、50%までの道のりは長い。パリの屋上緑化については、前に書いた記事も参照。)

2019年には、リヨン駅やオペラ座の近くなど市内数カ所に都市の森(アーバンフォレスト)ができることが発表されている。

また、先ごろも、パリのオリンピックが行われる2024年までに、モンパルナス駅の近くに1ヘクタールの森ができる計画が発表された。

ここでは、宮脇メソッドで言われるところの「潜在植生」をどうしていくのかが議論になっている。潜在植生とは、その土地に元々あるような植生のことだ。だから、宮脇メソッドを参考にしてパリで森をつくる場合は、パリに元々あるような潜在植生を中心に森をつくっていくのが基本的な方針となる。しかし、現在の潜在植生を中心に森をつくってしまうと、昨今の温暖化の影響で、将来的に持続可能な森が成立しなくなってしまうことが懸念されている。21世紀の後半も持ちこたえ、2100年まで続く都市の森を作ろうと関係者が動いているそうだ。

再野性化を後押しするロンドン

ロンドン市のサディク・カーン市長は、このほど60万ポンドの予算(現在のレートで約9000万円)を、公園の再野性化(リワイルディング)や屋上緑化などの補助基金にする計画を発表した。その名も「London Rewilding Fund(ロンドン再野性化基金)」。すでに1600ヶ所の公園や保全地域が市の重要地域としてリストされており、今回の予算で、まずは20-30ヶ所(45ヶ所と書いている記事もある)の環境保全プロジェクトをサポートしていくという。

ガーディアン紙では、サディク・カーン市長の以下のような発言が引用されている。

英国は世界で最も自然が破壊された国の一つです。ロンドンでは、自然環境における生物多様性の減少を食い止めるだけでなく、成長と変化のための道を切り開くために、大胆な行動を起こす必要があるのです。

そのため、私は新しい再野生化基金を発表しました。この基金は、都市の貴重な野生生物保護地の復元、生物多様性の改善、そしてすべてのロンドン市民が目の前に広がる豊かな自然の網の目を確実に手に入れるための支援を行います。また、私たちのグリーンニューディールの一環として、ロンドンの自然環境の未来を確保するための仕事に必要なスキルを身につけるために、ロンドンの若者を支援していきます。

必要な人材育成まで言及されているところに、本気度があらわれている。採択されたプロジェクトには、London Wild Life Trustが専門知識やマネジメントについてサポートしていくという。

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ロンドン市は、このほかにも街の緑を増やすプログラムを進めているが、今回の基金の詳細を見てみると、重要な自然地区の自然や生物多様性を高めていくことはもちろんのこと、そういった地区のマネジメントやスキルアップ、コミュニティづくりが意識されていることが見てとれる。ちょうどプロポーザルが募集中のようなので、今後の活動が楽しみだ。

バルセロナで増設される「スーパーブロック」

バルセロナも都市の緑化に熱心だ。2017年には、2037年までの20年間のマスタープラン「TREES FOR LIFE」(PDF, 英語)が発表され、市の緑化率を5%アップさせ30%にすることや、温暖化に対応した多様性のある樹木を植えていくこと、市民や学校に向けた啓蒙活動に取り組んでいくことなど、68のアクションが目標として掲げられた。

このレポートでは、都市の樹木についての知識から取り組んでいく活動の特徴や効果がまとめられ、大まかな予算やスケジュールなどを含めた長期的なロードマップも明記されている。バルセロナ市が、都市の植栽に関してどのような取り組みをしてきたのか、樹木の管理においてどんなことが課題になっているのかについての記事を興味深く読みながら、知識が得られるように編集されているところが素晴らしい。

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バルセロナでも、コロナ禍の影響で、都市の森づくりが加速している。バルセロナといえば、中心市街地において自動車の規制を行い、より多くの人が安心して街を闊歩できるようにした「スーパーブロック(Superilla Barcelona)」の実証実験で有名だ。日本語でも英語でも(スペイン語ではもっとあるはずだ)様々なメディアで取り上げられた。

この実証実験の成功を受けて、バルセロナ市は、さらに大きな地区、より混雑した中心街でスーパーブロックを導入することを決めた(2020年の11月に発表)。かなり大胆な決断だと感じるが、その決断の背景にコロナがあったことは間違いないと思われる。以下の記事では「パンデミックが、バルセロナの都市緑化計画を加速させる」といった意味のタイトルがつけられて、新たな計画が伝えられている。

新たな計画では、21のストリート(6.6ヘクタール)が新たに緑化され、2000平方の面積の新たな広場が生まれ、人々が歩き、遊び、集える場所(3.9ヘクタール)ができる予定だ。

2022年から着手され、10年で3600万ユーロ(現在のレートで約47億円)が投入される予定だそう。計画の詳細を伝えるレポートを見ても、バルセロナ市のYouTubeの動画を見ても、まさにバルセロナの街のど真ん中で計画が実行されることがわかる。21世紀にあるべき都市づくりの夢が詰まっている。いや、これは現実だ。ほんとにスーパー(Superilla)な計画だ。

地域コミュニティと共に森を育てていく

パリ、ロンドン、バルセロナが、それぞれ都市戦略として、森を増やしていこうとしていることを見てきた。もちろん、激しい都市間競争の中で、環境意識、グリーン政策を主張していかなくてはいけないという事情があるはずだ。しかし、より大事なのは、その都市、その街で、樹木がしっかりと根付き、長期にわたって市民に愛され、メンテナンスされていくことだ。グリーン政策を推し進める首長が選挙に負けて交代したら森づくりもおしまい、ということになったら身動きのとれない樹木にとっても災難だ。

そうなると、それぞれの地域、それぞれの市民が、どうやって都市の緑と付き合っていくのかということが課題となってくる。課題という重々しい言い方は似合わないかもしれない。どう楽しみながら木々と付き合い、その数々の恩恵を与えてもらうのか、というくらいで考えるのが良さそうだ。

その意味でも、オランダで広がるタイニーフォレスト運動から学べることは多い。この運動を主導する自然教育財団IVNは、しっかりとコミュニティを巻き込むことを前提に、プロジェクトをデザインしている。特に、地元の子どもたちと一緒に取り組むことを重視しているところに大きな特徴がある。

自然教育財団IVNの報告によると、2015年から2021年の間に、1万人以上の子どもたちと700人以上の先生、そして600人以上の地元住民たちが、タイニーフォレストづくりやその維持に関わってきたそうだ。子どもたちが中心になって取り組むことで、子どもたちが学び、変化する。その学びの変化カーブは、大人たちの何倍もの柔軟性と成長度を持っているはずなので、それが大人たちや地域に波及する。まさに世代を超えて持続していくシナリオが織り込まれたプロジェクトとなっている。

タイニーフォレストについて学び、始める

IVNのウェブサイトには、関心を持った人が学べるリソースも揃っている。ビデオ講義で都市にタイニーフォレストが必要な理由から、実際のタイニーフォレストづくりについて学べるコースもあれば、ガイドブックをダウンロードして、プランづくりの参考にすることもできる。どちらも英語で作成されたリソースだ。自分たちの知識をオランダ国内(語)にとどめず、より広く英語がわかる人たちに向けた情報発信をしようとするところはオランダの組織の偉いところだ。

こうした資料を活用することで、誰にでもタイニーフォレストづくりに取り組むことができる。自分の街のグリーン政策の進展を待つ必要もない。ACTANT FORESTの森づくり実践でも参考にしていこう。

もし、この記事を読んでいる皆さんの中で、自宅に自由のきく庭があったり、ちょっとした土地を持て余しているような方がいらっしゃるならば、その空間のタイニーフォレスト化をオプションの一つとして検討してみるのはいかがだろうか。大都市に住んでいなくとも、パリやロンドンやバルセロナのような都市に住んでいなくとも、都市の緑化は、誰でも着手し始めることができるし、そのための情報は揃っている。

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タイニーフォレストについて詳しく知りたい方はこちら。

ミヤワキメソッドについてはこちら。

都市緑化(アーバンフォレスト)の課題についてDark Matter Labsがまとめた論考の翻訳はこちら。



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