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ACTANT FOREST:ニュースレター12月:TINY FOREST

Ryuichi Nambu

自然とデザインをつないで考えるためのヒントをお届けするニュースレター。12月のテーマは、ヨーロッパでムーブメントが起きている「Tiny forest」です。

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Tiny forest
まちに小さな森をデザインする方法

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かつて、僕の生まれ育った多摩ニュータウンには、いたるところに小さな森があった。子どもたちは探検したり秘密基地をつくったり、格好の遊び場として活用していた。ある時から、そこでブルドーザーやショベルカーが忙しく動きまわるようになり、関東ローム層がむき出しの造成地になったかと思うと、またたく間に住宅地やゴルフ場に変わっていった。高度成長期の都市郊外開発のまっただ中では日常茶飯事の光景だ。だから、僕の記憶の中にある森や自然というのは、つねに削り取られ、フラットになっていくものとしてある。

とくに残念がっていたわけでも憤慨していたわけでもない。造成地は造成地で巨大な砂場のようで楽しかったし、分譲住宅が増えると、まとまった数の新しい友人が増えたので、どちらかといえば変化を歓迎していた。ただ、今思えば、自分の住むまちから森が減り、住宅や道路、公園やショッピングモールといったなんらかの「役割」を持ったスペースばかりになるにつれて、ニュータウン特有の息ぐるしさを感じることが多くなった気がする。隠れる場所がないゆえの閉塞感といったらよいだろうか。もしかすると近所にあった小さな森は、都市部でいうところの路地裏のように、ふと息抜きをするために必要な場所だったのかもしれない。ひとりで心を落ち着けたり、友人と新しい遊びを企てたりすることのできる自由で曖昧でニュートラルな余白として。

今回のニュースレターでリサーチしたのは、最近ヨーロッパやインドを中心に盛り上がっている「Tiny forest」というムーブメントだ。小さな森を自分たち自身で、自分たちの近所に育てていこうとするコミュニティ活動といってもいい。noteでは、3つの視点で記事をまとめた。まずは「Tiny forest」の理念や概要をつかんでいただくために、いくつかの海外事例を紹介した。驚いたことに「宮脇方式」という、それこそ高度成長期に日本で広まった森林育成の手法が、「Miyawaki Method」という外国語として、今になって「Tiny forest」界隈で流行っているらしい。その「Miyawaki Method」なるものがどういったものかも概説した。ついで、オランダのダークマターラボの協力を得て、デザイン視点から都市植樹の現状を分析したレポートを翻訳した。「みんなで森をつくろう」という理想だけでなく、社会的、経済的なインパクトを把握できる。

3つの記事をまとめながら見えてきたことは、小さな森をつくり出すための方法がそれなりに洗練されたかたちで確立されつつあり、とりわけ都市における緑地の価値が僕たちが思っている以上にあるということだ。それは別の言いかたをすると、アマゾンの森林破壊といったグローバルな環境課題へのエンパシー(共感)のもっと手前に、自分にとって「身近な森」についてさえ知らないことがたくさんあったということでもある(そして、まだまだたくさんある)。

かつて日本には独自の「Tiny forest」、いわゆる里山や鎮守の森が遍在していた。それをみんなで大事にする文化があった。その理由も背景もさして考慮されないままに、「役に立つ」場所として開発されていった森たち。そんな開発の末に、今度は人口が減っていくにつれてスポンジの穴のように空き家や利用価値の無くなったスペースが増えていくといわれている。今回リサーチをしたかぎりでいえば、点々と穿たれていくだろう都市の隙間に、再び小さな森たちを呼びもどすことは十分に可能だ。

社会的な閉塞感や寛容性の低下はもちろん、文字通りマスクで息ぐるしい日々を送っている中で、多摩ニュータウンにある実家の近所が再び小さな森へと戻っていく風景を想像するのは、なんとも心地良い。それは僕が遊んでいたかつての森とは違う形になるかもしれない。けれども動きまわるブルドーザーをただ傍観するだけではなく、自分たち自身でデザインできることが、かつてよりも多くある。

安心して深呼吸のできる小さな森を自分たちのそばに育てること。それは、普段所属している役割から離れて自分自身をニュートラルにするための余白として、あるいは、まちのコミュニティをつなぐための曖昧な余白や、都市の創造性を高めるための自由な余白としても機能するだろう。ACTANT FORESTでは、「Tiny forest」を日本の社会制度下でも導入できるよう引き続きリサーチを進めていきたい。


FROM FOREST
今月の森のアクティビティ

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植樹:Tiny forestに向けた第一歩

デザイン業務の合間に、東京から森に通う日々が続いています。なかなかルーティーンに組み込むことが難しく、ライフスタイルの再野生化にはほど遠いといった感じです。

息子がはまっているマインクラフト(というゲーム)で、新しい世界に入った時には、ゾンビに襲われないよう小さな拠点をつくることが先決だと学びました。森でも同様、滞在しやすくするための拠点をつくることがルーティーン化のために一番必要なことでしょう。まずは急ピッチでオフグリッドデザインスタジオの設計を進めています。きっちり設計してかっこいい建築物を完成させるという従来の発想ではなく、森の生態系と同様、都度環境変化に応じてプロトタイピングし、バージョンアップしていくような手法を試行錯誤しています。

もうひとつ進めているのは、森そのものを気持ち良い場所にすることです。手の入っていなかった森を風通しの良い環境へと変えていくには、森の成長に長期的に向き合う必要があります。少しでも早くスタートして手を入れていきたい。とはいえ、ACTANT FORESTのメンバーの多くは森林育成に関しては素人同然。『土中環境』という素晴らしい本の著者である高田宏臣さんのワークショップに出席して、弟子入りのようなかたちで森を改善する技法を学んでいます。

その学びを生かして、ACTANT FORESTでも少しずつ植樹をはじめました。荒れた土壌では木は深く根を張ることができず、生物多様性のある森まで成長する前に笹や竹に駆逐され、結果ヤブが増えていってしまいます。炭にはとても細かい穴が無数にあり、その多孔質な構造が微生物や菌糸のすみかとなり、木々にとって必要な養分やネットワークを生み出す役割を担ってくれるそうです。ワラやくん炭、小枝、竹炭といった、木々の成長を助けるマテリアルをミルフィーユ状に重ねて苗床をつくります。

過保護ともいっていいくらいに丁寧につくったベビーベッドのようなもの。木々が生えにくい空き地や造成地、荒廃した山林に「Tiny forest」を根付かせるために必要な第一歩でもあります。現代の技術で再現すると非常にコストの掛かりそうな多孔質マテリアル(ワラや竹)が森や近所の農家から手に入ることもわかりました。身近にある素材で循環させること。そもそも数百年前からあった江戸時代テックです。このミルフィーユ状の苗床をデザインの視点から現代版にアップデートしてオープンソース化できないだろうか。そんなことを最近考えています。


以上、Newsletter DECEMBER 2020: Tiny forest より抜粋。
次回のニュースレターもご期待ください。

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