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ウッド・ワイド・ウェブ: 森のコミュニティに参加する

Ryuichi Nambu

WWW(ウッド・ワイド・ウェブ)というものをご存知だろうか。木々たちが土の下に隠された通信網をもっていて、実は互いにコミュニケーションをとっているという話だ。

ヒトが頭で考えてつくった社会のしくみだけでは、これからいろいろな不具合が出てくるだろうと感じて、ACTANT FORESTの活動をはじめたものの、自然と向きあうことや、森や植物を扱うということは、理系の専門領域であって、デザインや社会科学畑の僕からはすこし遠いところにあるな、という意識がいつも頭の片隅にあった。そこはかとなく感じるアウェイ感。

ところが、WWW(ウッド・ワイド・ウェブ)のことを知るにつけて、なにかとインターネットやオンラインコミュニティをメタファーにして森のことをイメージしていると、あちら側とこちら側が徐々につながっていく感覚を得ることができた。森との距離がぐっと近づいたような感じがする。他者との相互理解のためには、いつだって想像力による共感が大切だ。文化系デザイナーが物おじせず自然とのアクティビティに没入できる安心感を生み出してくれる。

ここでは、今後「デザイン」というアプローチで森と接していくための思考実験として、森が形成するネットワークの紹介からスタートして、ACTANT FORESTで取り組むプロトタイプの話へとつなげてみたい。

森のご近所さんコミュニティ

ペーター・ヴォールレーベンの「樹木たちの知られざる生活」によれば、森の木々たちは様々な方法で互いにコミュニケーションをとりあいながら、社会的な活動をおこなっているそうだ。

たとえばサバンナアカシアという種は、人間でいうフェロモンのように匂い(エチレン)を出して、天敵であるキリンの接近を周囲の木々に知らせる。仲間のアカシアたちに対して、キリンの嫌いな毒素を葉に集中させるよう急ぎ指示を出す。いわば緊急地震速報のようなものだ。

アカシアだけでなくその他ほとんどの木々が、土のなかの菌糸を媒介にして連絡をとりあったり、ときには根を直接つないで栄養分を贈りあっている。人間の社会に例えてもおかしくない、まるでご近所さん同士の助け合いのような活動が活発におこなわれている。そのことをWWW(ワールド・ワイド・ウェブ)ならぬ、WWW(ウッド・ワイド・ウェブ)と呼ぶ研究者もいる。

また、人工的に植林された均質な森の木々は互いのネットワーキングが難しく、周囲から孤立してしまうことが多いという。自然と繁茂した多様性のある雑木林コミュニティで育つ木々たちはお互い協力し合いながら丈夫に育ち、孤立した木よりも長生きをするそうだ。

まるで、都市で暮らす僕たちの生活よりもずっと豊かなコミュニティが形成されてるのではないかと思わせるほどに、木々たちは、さまざまな通信手段を連携させて、したたかに共生している。

WWW(ウッド・ワイド・ウェブ)を担う菌根

正確にいえば、木々たちのWWW(ウッド・ワイド・ウェブ)の中心を担っているのは、マイカライザル(菌根)ネットワークと呼ばれる通信網だ。菌根は、植物の根に入り込んだ菌類が特殊なかたちに変化した共生体とされる。菌でもあり根でもある。その間をつなぐメディアのような存在だ。森の地下には、マイカライザル(菌根)が縦横無尽に張り巡らされていて、木々たちはそのネットワークを介して情報や養分の交換をしている。

BBCが制作した映像がわかりやすい。この映像によれば、大きく成長した木は、自分の枝葉で日光を遮ってしまっている小さな木々たちに、ネットワークを介して栄養分を送っているという。まるで母親が子供たちに食事を施すように、新しい苗木に成長のチャンスを与えているのだ。

また、病気になってしまった老木は、朽ち果てる前に自身の養分をネットワークに放出して、他の木々に分け与えることがある。まるで生前贈与のようなことがおこなわれている。

ネットワークはメッセージも運んでいる。害虫被害にあった木は、アカシアの発する匂いと同じように、菌根を介してシグナルを送り、周囲の木々たちに注意を促す。周囲の木々たちは、害虫が森全体に広がる前になんらかの防護策をとることができる。

もちろん、ウッド・ワイド・ウェブはインターネットと同様にダークサイドもある。北米を中心に広がるオニグルミという木は、成長に有利な空間を確保するために、毒性のある物質を周囲の木々に送り込んで、競合相手の成長を妨害する。また、近くのネットワークをハックして栄養分を盗みとり自分の成長に活かす蘭もいるそうだ。

いずれにせよ、これまでの常識では、樹木は偶然与えられた環境のなかで単独で成長しているものと思われてきたが、そうではなく、相互のインタラクティブな交流による利他的な互助、あるいは贈与をおこなうことがわかってきている。

普段何気なく散歩している近所の森や林の土の下には隠された次元があり、マイカライザルネットワークというしくみを基礎にして、木々たちの活発なコミュニティ活動がおこなわれているのだ。

森のご近所さんコミュニティに参加するには?

さて、ACTANT FORESTのコンセプトは「Design with Nature」だ。自然のアクターと共創することを本懐にしている。なんとかしてこの興味深いご近所さんコミュニティに、ヒトというアクターとして参加させていただき、「Design with Forest」を実現してみたい。

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どのようにすればコミュニティへの参加許諾がおりるだろうか。森に市役所があるわけもなく、住民票に名前を記入して提出することはできない。コミュニティの参加権を勝ちとるための前近代的な儀礼があるわけでもない。当然のことながら、ヒトという生物は菌根を介した情報交換をするためのメディアリテラシーを持ち合わせてはいない。森の社会とヒトの社会は、あいだに横たわる深いボーダーによって断絶している。

異なる文化に参加するためには、その文化の言語を習得することが一番の近道だ。上記で紹介したマイカライザルネットワークでは、木々たちは電子シグナルを送り合うことで互いのコミュニケーションをとっている。電子であればヒトも日常で利用している。もしかすると、電子を共通言語とすれば、僕たちも森のご近所コミュニティに参加できるのではないだろうか。

先行事例を調べると、フィレンツェ大学農学部で教鞭をとるステファノ・マンクーゾのプランツコンピューターという研究があるようだ。木々たちの電子のやり取りを活用して森をコンピューター化するプロジェクトだ。ひとつの木にデジタル情報をinputすると、森の反対側の木から別の情報がoutputされる。いわば、気候変動等の複雑な自然現象を察知するための巨大な森コンピューターだ。ヒトとウッド・ワイド・ウェブを媒介する先端的なグリーンテックのように思える。

しかし、その実用化には少なくともあと30年以上はかかるといわれている。ACTANT FORESTは、大学での基礎研究ではなく実践的な活動であり、だれでも自作で再現できるような体験とラーニングのデザインを目指している。数十年をまたずとも経験できる、とりあえずやってみる、というレベルでの手段はないものか。

そう思って、いろいろ調べていると、どうやら有機物を分解する際に電子を発生させる微生物がいるらしい。「シュワネラ」という微生物だ。嫌気性だが、水分をたくさん含む樹木や植物の根の周りには多く生息しているようだ。この微生物によってつくられた電子は、簡単につくれるしくみで電気として取り出すことができるらしい。

もしかすると、その電気は、プランツコンピューター同様、ヒトと森の両者があつかえる共通言語として活用できるのではないだろうか。その電気を介して森のご近所さんコミュニティの一端に参加することができるのではないか。そういう仮説にたどり着いた。

Design with Microbes:微生物たちと電気をつくる

というわけで、このラボで模索するアクティビティの第一弾は「Design with Microbes:微生物たちと電気をつくる」となった。森と共創するために、まずは微生物と共創してみよう。微生物は、腸内フローラや菌発酵など、近年街場でムーブメントになっているほどに身近な存在だ。生活のあらゆる場面で共生してきた。コラボレーション第一弾の相手には最適だといえる。

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はじめに断っておくが、微生物から電気を得ることができるといっても、その発電量は微々たるものだ。現在の技術では、生活のすべての電力をまかなえることはできない。せいぜい小さなLEDを点灯させることができるぐらいだ。未来のグリーンエネルギーとして化石燃料の代替手段になるかどうかは研究者に任せることにして、ACTANT FORESTでは、デザインという視点からアプローチする。

つまり、このテーマを面白い体験に変換することができるか、その体験から我々の身体知や認識を変容させるような学びの機会をうみだすことができるか、自然と共生するためのオルタナティブな想像力を見いだせるか、という点にフォーカスする。幸いACTANT FORESTには小川が流れている。おそらく小川周辺の泥の中でシュワネラは活発に活動しているだろう。共創のチャンスはたくさんありそうだ。

メンバー内でブレストした限り、活用可能性はたくさんある。たとえば、この微生物を利用して植物をセンサーにすることができれば、電源や電池のいらないオフグリッドセンサーができあがる。自然のセンサーを森のあらゆるところに仕込むことで、森全体をメディアインスタレーションに変化させることができるかもしれない。あるいは、川の上流にセンサーを仕込んでおけば、近年多発する土砂災害を真っ先に知らせてくれるオーガニックな災害速報になるかもしれない。アイデアは無限に湧いてくる。

とはいえ、道程は長い。電気を受け取るしくみ、貯めるしくみ、微生物たちが活発に活動できる土壌の検証、受け取ったで電気を活用するセンサーづくり。ひとつひとつ自分たちの手で検証していく必要がある。その試行錯誤のプロセスは「Design with Microbes:微生物たちと電気をつくる」シリーズとして、このnoteで逐次レポートしていく予定だ。

微生物発電のその先に

はたして森のご近所さんコミュニティへの参加許諾はおりるだろうか。森にとってはまったくもって招かざる客かもしれない。とはいえ、微生物発電を利用した新しいコミュニケーション回路がデザインできれば、お隣さんにお醤油を借りにいくような感覚で、スマホの充電をさせてもらったり、夜歩きやすい道をLEDを灯して知らせてもらったりするぐらいはできるだろう。

その先には、木々にお醤油を貸してあげるような未来もないだろうか。僕らの活動が森のネットワークにフィードバックされるような、あちら側とこちら側の境界が曖昧になっていくネットワークだ。うまくすれば、ヒトが森の互助活動にとって不可欠なアクターになるようなオルタナティブなエコシステムがデザインできるかもしれない。そのような想像力を携えて、まずは小川周辺の泥を採取しに行こう。

参考文献

「樹木たちの知られざる生活──森林管理官が聴いた森の声」. ペーター・ヴォールレーベン. 2017

「植物は〈未来〉を知っている 9つの能力から芽生えるテクノロジー革命」. ステファノ・マンクーゾ. 2018

Wood wide web: Trees' social networks are mapped(参照 2020-08-03)

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