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『貴婦人として死す』『紙鑑定士の事件ファイル』

佐賀ミステリファンクラブ6月例会課題図書はカーター・ディクスン の『貴婦人として死す 』。
 
 
読了感想報告には歌田年 の『紙鑑定士の事件ファイル模型の家の殺人 』をピックアップ。
5月半ばから6月半ばはミステリはこの2冊。
あとは他ジャンルばかりでした。
 
 
ここから下はネタバレありの読書メモです。↓
 
 


『貴婦人として死す』
初のディクスン・カー となりました。
散々カーは読みにくいとか怖いとか周りの噂を聞いていて未読でしたが、この歳になってようやっと初カー。 
 
 
佐賀ミスのカーを愛してやまないお姉さまから初読を選んでいただき、巡り合わせが良かったです。
 
 
ざっくり感想ですが、まず二つの死角に唸ります。
一つは一度ついた足跡を再び違う目的の為に付け直すと言う発想。
一度残された証拠は、その時点からそのままであると言う読み手側の認識による死角が出来るわけです。
二つ目は、手記と言う形式を大部分取り入れた話運びによる、形式の性格上の死角。
日常的である程、記録には残りにくいと言う、文字記録にありがちな偏向を書き手が認識していない事で、読者にアンフェアな視点が提供されると言うやんわりアンフェア(笑)
それも包み込んで挑んで来い!と言うかのような本格推理の壁。
 
 
兎にも角にも、この2つが巧い。
一つ目については某道具の性格をかなりミスリードを狙って最後あたりまで隠していてアンフェアギリギリラインじゃないかと言う感じながらも、巧い。
記述形式については疑って然るべきなのだけれども、初読でこれに気づくのはなかなか難しかったです。
 
 

反対に、散りばめられた伏線の細かさに対するH.Mのコミカルさは落差で驚きます。
しかし、そのコミカルさから干満差への伏線を繋いでしまう伏線張り魔、チャンスは逃さない作り込みに唸ります。
困ったのは、カー初読なので、H.Mのイメージが初登場シーンの勢い良さから宗像教授のビジュアルで脳内再生してしまい、本当にこれで良いのか悩みます…(笑)
ラジオニュースなどの小道具やラストの締め括りも戦時下ならではでした。
 
 

タイトルの『貴婦人』には最初悩んだのです。
タイトルにあるからには作者はこれに強く思う所がある筈ですが、ふと考えればアレックは爵位あるのか?と疑問が。
爵位無く妻がレディ?
爵位関係なく、単にレディ?

 
考えてみればリタはロミジュリ好き。
さり気なく作中にて語られています。
ここからは勝手な私の妄想推理になりますが、
リタがロミオとジュリエットのファンであるならば、最初の心中に見せかけた駆け落ち計画はロミジュリのように愛によって命を捨てると言う形式美に自分を擬えようとしたのではないかと。
リタが。

 
 
実際は死なずに駆け落ちた先での生を考えていたのだけれども。
綺麗な姿で自分を死なせよう、しかし恋人との新天地での生は確保しようと言う所にリタの幼さやエゴを感じます。
結局、リタは好きなロミジュリにもなれず、新天地の生も得られず、自らのエゴで蔑ろにした元恋人に殺されるのです。
つまり、意図せずにロミジュリのように"愛のすれ違い"で死ぬと言う訳ですね。
そこだけは、ジュリエットと同じになれた訳です。
 
 

そう言う皮肉な意味での『貴婦人として死す 』と言うタイトルなのかと思いました。
a Ladyであって、the Ladyでないのは"ジュリエット"にはなり得なかったからでしょうか。
 
 

ちょっと伏線で気になったのは、流砂に車を処分する時、夜に青と緑の色を識別するのは難しかったのではないかと言う事。
ベルは明るい所で見ていたって記述あっただろうかと疑問が。
良くH.Mはパスポートとわかったなぁと思うた次第です。

次にカーを読むならヘンリー・メリヴェール卿が出るのを選ぼうかなと。
キャラ濃かった(笑)

 
 
 
『紙鑑定士の事件ファイル模型の家の殺人 』
紙鑑定士が主人公であるけれども、実質謎を解く手がかりは模型にあり。
と言うわけで、伝説のプロモデラーさんとのダブル主人公です。
紙とジオラマ・プラモデルの蘊蓄で満腹になれるのが私の一推しポイント。
書籍に紙が何種類か使われており、ぬめりや文字の映え具合など紙による違いがかなり面白く、紙好きにはたまらないつくりなのもお薦め。
 
 

ただ難を言うと、犯人からの手紙として入れてある紙が読者参加型小説として面白い点なのであるが、この紙を調べて手に入れた答えが必ずしも犯人を読者が割り出せる要素にならず、意外にあっさり紙鑑定士さんによって提示されて話は進む事。
 
 
せめて、読者が「あっ…」って思える伏線に繋がっていたらと思うと惜しい。
しかし、実際に紙を触って情報を読み取るのはそれはそれで話中に入れて嬉しいのだけれども。
 
 

最後はハードボイルド?にロマンス?に。
結構バタバタ終幕ですが、一つわかるのは、作者はアヴェンタドール出したかったんだろうなぁと言う事。
私もアヴェンタ好きだ(笑)

 
 
探偵役を探偵役としてその場限りに描くのではなく、探偵2人の人生の岐路も描く所は人間味あってよかったです。

作中の模型を造形の完成品としてだけではなく、作者の意図や苦しみ、叫びを代弁する雄弁なもの、メッセージを伝えるものとして描くのも良かった。
箱庭療法も、人の内面を映し出すもの。
 
 
 
最後のバタバタ感も青臭くて良いと考えたら持ち味ですね。

以上、佐賀ミス6月での私の発表でした。
本格推理小説、侮れん🤔


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