春、想いを届ける

毎年４月１日を迎えると、入社した日のことを思い出す。確かその日はすっきりとしない曇天で、益々不安になっていた記憶がある。

この時期、電車や街で不安そうな新入社員らしき方々を見かけると、「大丈夫！！！！！！がんばれ！！」といつも心の中でエールを送っている。

直接伝えられなくても、想いはきっと届くのだと信じているからだ。

就職活動中のことも同時に思い出す。

リクルートスーツを身に纏い、駅のホームで電車を待っていたら、小さい頃からずっと憧れだった企業から不採用の連絡があった。

気が付いたら、ホームの隅のベンチで涙が溢れていた。あまりのショックにハンカチやティッシュの存在すら忘れ、ひとり途方に暮れていると、３０歳くらいの女性がティッシュを差し出してくださった。

「良かったら使ってください。きっと大丈夫ですよ。」

すぐに顔を上げたけど、既に女性は喧騒のなかだった。その信じられないような温かい優しさに触れ、なおさら涙が止まらなくなっていた。

あの日のことは、昨日のことのように鮮明に覚えている。きっとこの先もずっと春になると思い出すのだろう。

こうして思い出すだけで、
嬉しくて有り難くて、温かい嬉し涙が出てくるのだ。
何年経っても、かけがえのない宝物だ。

女性には、直接ありがとうとお伝えできなかったけれど、毎年春になるとありがとうと感謝の想いを伝えている。

その優しい女性にきっと届くと信じて。