夏鳥たちのとまり木
今年はホワイトクリスマスかなぁ、なんて浮かれていましたが、花袋の地元はそれほど雪は降りませんでした。寒いのは苦手ですが、寒いところは嫌いじゃないのです。そんな花袋は雪に夢でも見ているのでしょうか。それとも雪国にいるあの人たちにどうしようもない憧憬を抱いているのでしょうか。作品の舞台を雪国にしがちなのも、冬の時期からスタートさせがちなのも、きっと何かしらの思いがあるのでしょうね。「寂しい」という気持ちを寒さのせいにできるから、花袋は冬が好きなのかもしれません
今回は奥田亜希子さんの『夏鳥たちのとまり木』を読みました
『透明人間は204号室の夢を見る』『青春ジョーカー』など奥田さんの作品はいくつか読んだことはありましたが、今回の『夏鳥たちのとまり木』は特に心に残りました。なんだろう、未成年者略取という重いテーマなんですけど、「救い」があったからでしょうか
似たようなお話に、凪良ゆうさんの『流浪の月』があります。本屋大賞に選ばれて映画化もされたので知っている方も多いでしょうが、一言で言ってしまえば『流浪の月』も未成年者略取があった男女が大人になって邂逅するといったお話です
花袋はあの作品に救いは見いだせませんでした。更紗と文はふたりで支え合って生きていくことを選択したものの、結局周りからの理解を得られることはできなかったからです。いうならばメリーバッドエンドでしょうか。本人たちは幸せだったとしても、やはりどこかやり切れない、そんな複雑な読後感でした
さて、『夏鳥たちのとまり木』には溝渕先生という主人公の同僚が登場します。がさつで横暴な中年男性教師なのですが、生徒たちからの信頼は厚い。主人公の葉奈子は彼を苦手に思っていましたが、この溝渕先生こそが「救い」だったのです
溝渕先生は何かと葉奈子を気にかけてくれますが、過去の秘密を打ち明けた葉奈子に溝渕先生が掛けた言葉に、当事者でもない花袋も思わず目の奥が熱くなりました
更紗や文にも溝渕先生がいたら……ウッ(涙)
いつまで他作品の話をするんだと思われそうですが、今回ばかりはたらればが尽きません。とにかく(終わらせに入ってる)この作品はとても良かったし、『流浪の月』と比較して改めて考えさせられました。葉奈子も溝渕先生も、更紗も文も。みんなが幸せになれる世の中になりますように
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