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子どもに伝えたいシスターフッド。「ソーリ!」は小学生から大人まで楽しめる児童文学

メディアで報じられる「会議」の映像を見るたびに思うこと、それは「おじさんばっかり」。政府のコロナ対策でも、大手企業の労組関連でも、基本的には男性ばかり。さすがジェンダーギャップ121位と言いたいところですが、これは教育、健康、経済、政治を合わせたもの。政治分野では144位です。

政治分野の評価項目は、国会議員の男女比、女性閣僚の比率そして過去50年の女性首相の在任期間の3項目。それぞれの実際の数は、衆議院では議員465人女性は46人(2020年6月17日現在)、閣僚19人中女性は2人(第四次安倍第二次改造内閣)、女性首相はもちろん0人です。

政治の分野に限らず、企業も同じような状況です。2003年から男女共同参画政策が立てられて、2020年までに国会議員、公務員、企業などの経営・管理職に該当する「指導的地位」の30%程度を女性にすることを目指してましたが、全然達成できず先送りになったことが少し前に報道されました。
目標になっていた「30%」だって全然高い数字では無いんですけど、、。

このような状況を打開するヒントになりそうな作品を見つけましたので紹介します。それが「ソーリ!」(著・濱野京子、くもん出版)

ジェンダーバイアス、こどもの権利等、色んな要素がつめこまれているのに、ちゃんとストーリ物として楽しめます。
各要素ごとにこの作品のみどころを紹介します。

注:ここからネタバレあり!

1  ジェンダーバイアス

主人公は小学5年生の照葉(てるは)。小さいころに七夕の短冊に「総理大臣になりたい」と書いたところ、とある男子に「女のくせに総理大臣なんて、ぜってぇ、おかしい」とジェンダーバイアス丸出しの言葉を言われてしまいます。周りの子もそれを見て笑うし、なんと「そんなふうにいうものじゃない」とたしなめた先生もちょっと笑っていたとのこと。
これにショックを受けた照葉は将来の夢を語ることを止めるのですが、なんと「ソーリ」というあだ名だけは残ってしまうのでした。
照葉はちょっとしたきっかけで学級委員になるのですが(ここの学級会でのやり取りは面白いです)、学級委員として迷っているときにたまたま地元の区議会選に立候補している女性と知り合います。
この方も夫や息子から「家のことをほったらかして、何が地域のためだ」と立候補したことを責められてます。
ここだけ読むと女性の生きづらさを描いたくらい作品のように受け取られそうですが、そんなことは無く、女の子がエンカレッジされる作品なので安心してください。

2 シスターフッド

「女の子の学級委員」というと昔から真面目でただ単に口うるさい(けどクラスの遊び人風の男子の前ではちょっと素直になる)みたいな、もはや男性の妄想のような描写のされ方が多いですが照葉は違います。たしかに正義感は強いですが、他人の意見に戸惑ったり、弱気になることも多いです。そんな時に支えてくれるのが親友の麻緒。麻緒は優等生タイプで、みんなから一目置かれてます。前に学級委員もやっており、照葉の良い相談相手に。
麻緒自身も家庭内の悩みを抱えており、そこに照葉が寄り添うシーンもあります。
ちなみに学級委員はクラスに女子1人、男子1人の体制です。この場合、この男女ペアで苦難を乗り切る話はよくあるとは思いますが、照葉のペアである東太は活躍はするものの麻緒には全然及ばず。照葉と麻緒の関係性は、「二人は一心同体!」、というようなものではなく独立した関係性なのも気持ち良い感じです。

3 民主主義

ある日の学級会で、美化委員(掃除についての委員)を攻撃するために、クラスの掃除は毎日美化委員が関わるというとんでもない提案が出されます。「掃除が楽になるじゃん」ということでこれに賛同する子が次々と出てくるうえ、なんと多数決で可否を決める流れに。ここをクラスメイトの麻緒達のの手助けもあり学級委員である照葉が切り抜けるのですが、ここで「多数決で決める危険性と少数派の意見」についての議論が出てきます。また一般的な選挙での投票と学級会での投票の違いも、政治の仕組みとして触れるシーンも。公教育の場では未だに多数決を民主主義的プロセスとして採用することもあるようですが、この欠点をバシッと突いてます。

4 人種差別

照葉が児童館で遭遇した外国籍の子どもへのいじめ、言語の壁で生じた勘違いによるコミュニティ内での排斥など、日本が抱える人種差別についての話が出てきます。ここは前述した区議会議員選挙に立候補している女性が取り組んでいる分野でもあり、話の後半の重要な位置を占めています。ちなみに照葉の愛読書はネルソン・マンデラの伝記。机の上にいつも置いてるし、照葉の夢の中に出て助言までしてくれます(この夢にまで出たところは、照葉のネルソン氏の好き具合の強さにちょっと笑ってしまった)。

「ソーリ!」を性別、年齢問わず読んで欲しい

学校で男子→女子の順であった名簿が性別に関係の無い順番になったように、ジェンダーギャップを感じさせない環境で過ごす子どもは増えてきているように感じています。しかし、社会に出た途端、突然ジェンダーギャップを突き付けられることが問題視されています。男女間の賃金格差、労働環境、家庭を持った時の女性の負担の大きさなど例を挙げればキリがありません。ここで我が国のリアル総理のように、女性に対してだけ「レッツ総活躍!女性は輝く!」と呼びかけるのは無意味、というか女性に負担をかけるだけ。男性も意識を変えなければなりません。パートナーに「共働き頑張ろうね。僕は家事育児を手伝うよ(ここに主体性は無い)」と言うようじゃ、ギャップはますます深まります。そもそも性別に関係なく解決すべき問題です。
そして何より大切なのは社会を変えること。「おじさんばっかり」が政治や経済を掌握している体制を変えないとジェンダーギャップの解決は不可能じゃないでしょうか。
そんなわけで「ソーリ!」は女子、男子、性別に関係なくおススメの本で、大人も是非読んで頂きたいです!(そのうちオンラインで読書会を開いてみたい)

この作品は娘が図書館で借り、妻が読み「面白い!」と家の中で話題にしていました。私(アクロストン夫)も読もうと思っていたら貸し出し期限となり読まず仕舞いに。最近、子供向けにジェンダーをテーマにした良い本は無いかと探しており、ふと「ソーリ!」のことを思い出して購入してみました。
読みだしたら、ストーリーは面白いし、扱っているテーマも抜群!
夏休みのおともに是非!

#性教育 #ジェンダー #ジェンダーギャップ #アクロストン

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妻・夫。二人とも医師。子どもに必要な性の知識を楽しく・ポップで・まじめなコンテンツにしてお届けします。 https://acrosstone.jimdofree.com https://www.facebook.com/acrosstone インスタグラム:@acrosstone