コロナ禍とミソジニー・女性の買い物

 コロナ問題で政府の対応が、病院対策や生活保障の前にオリンピックの日時を決めることから始まり、とにかくちっとも私たちの生活に沿っていない政策ばかりが打ち出されてイライラしている人は多いでしょう。

 この問題の根っこにあるのは、日本がかなりミソジニーの強い国であることに尽きると思います。それは学校一斉休校の要請が出された時に、この記事を書いて強く思いました。

 日本は世界経済フォーラムが毎年発表するジェンダーギャップ指数で去年、なんと121位という不名誉な順位をいただきました。先進国とはとても思えない地位。女性差別が激しいことで知られるインドよりも低い!

 長い歴史の中で培われた差別が温存されているのは、大きくは高度経済成長の成功をいつまでも引きずって社会構造を変えなかったからです。そのあたりは説明すると長くなるので、もしよかったら『母と娘はなぜ対立するのか』を読んでいただけるとうれしいです。母と娘の問題の背景にあるミソジニーの国についても書いています。

大阪市長の問題発言

 初回は、先日の大阪市長による「女性の買い物は長いが、男性は早い、うちの場合は」という発言についてです。例えばこんな記事で紹介されています。

 とにかく外出して人と接触することを避けるように、政治家やキャスターなどが呼び掛けています。でも、生活必需品の買い物は別でした。その結果、スーパーが混んでいて危険だという声が急に大きくなっています。そのきっかけはおそらく小池都知事の発言です。

 大阪市長はそうした首長たちの危機感を反映して、たぶん、自分としては効率的な買い物を提案したつもりだったのでしょう。しかし、その発言がブーイングを浴びたのは、生活の実情をまったく理解していないことが露呈したからです。この人は自分が主体的に家事をしたことがない。もちろん、奥さんに頼まれてお使いをする程度には関わっているから、かえって何も知らないより始末が悪い。

 日常の買い物の難しさについては、他の家事と合わせて先の本や、『料理は女の義務ですか』でも書いていますが、本題なのでここでは改めて書いてみます。

 女性が買い物であれこれ悩んだり時間がかかってしまうのは、頼まれたお使いで買うものリストが明確にないからです。それは言ってみれば家庭におけるバイヤーの役割です。あるいは庶務係。買うべきものを決めるには、さまざまな条件を総合的に考えあわせ、家族や自分の健康を守るために、政府や企業にとってのメリットとしては、エネルギーを与えて改めて仕事や学業に邁進できるようにするための準備に必要な仕事です。

 その、さまざまな条件を整理してみましょう。大きくは二つ目的があります。

①今晩つくりたい料理に必要な食材を買う。

②足りなくなった食材、調味料やニンニク、タマネギといった常備しておきたい食材を補充する。

①は献立づくりに関わってきます。それは単に食べたいものをつくればいいわけではありません。その条件は、私が今、ざっと思いつくだけでも六つもあります。

 条件の一つめは、昨日は何を食べたか、子どもは給食で何を食べたかなどの前後関係を考えること。

 二つめは、一つめに関連して、献立の栄養バランスを考えること。昨日は肉を食べたから今日は魚を食べよう。今日は旬の菜花が出ていたから、野菜の種類を一個ふやして菜花を炒めてみようか。などと前後の日やその日の献立全体から、なるべくさまざまな栄養素をとれるように考えます。味つけが単調にならないように、主菜と副菜のバランスがいいようになど、買いものをしながら献立を組み立てる人もいます。

 三つめは、家族の体調を考慮すること。今だったら、ストレスが溜まりがちだから家族の好きな料理をつくってみる。あるいは、家にこもりがちで太りそうだからカロリー控えめの料理にするなど。

 四つめは、二つめと被りますが、家族の好みを考えること。リクエストを聞く場合もあります。食べなさそうなものを避ける、あるいは子どもの好き嫌いをなくすためにあえて食べさせる工夫を考えるなど。

 五つめは、その日の天候を考えること。今日は暑くなった、今日は急に作なった、湿度が高くて体がだるい、といった天候によって元気になれる食べものは変わります。

 六つめは、忘れてはいけない予算を考えること。台風のせいで野菜が高騰したことがあります。そのせいで、キャベツをあきらめて小松菜にするといった調整が必要になります。今だったら高級食材が安くスーパーに入ってきているかもしれず、そうしたらいつもよりちょっと贅沢な料理を無理をしないでつくれてしまうかもしれません。

 こういう買いものを、台所の担い手は毎回しているのです。足りないから、という理由で選ばれたニンジン一個を買いに行く夫族とは違うのです。迷いなく買える場合もありますが、いろいろな条件を組み合わせながら悩むことも、店内を往復してしまうこともあるのです。そうした高度な思考の組み立てのうえに日々の買いものが成り立っていることを、家事を軽視している人には思いもよらないのではないでしょうか。

 この買いもの問題について、テレビで、「あらかじめ買うものを決めておいて」といった発言を小耳にはさみました。それができる人もいるでしょう。宅配サービスを利用する人は、1週間の献立を決めて買いものをするのかもしれません。でも、たとえば私は、店頭に並んでいるものを観てから献立を決める、あるいは変更することもあるのです。noteでは書いてきましたが、店頭のラインナップや価格次第で献立の変更が必要になることは、しょっちゅうあります。

 そうした実態も、自分がふだん料理しない人にはわからないのでしょう。したことがなくても、買いもので感じたことを報告する奥さんの言葉を、適当に受け流していれば、その生活の大変さはわからないのです。私はしょっちゅう「〇〇が高い!」「〇〇が出ていたから買っちゃったよ」といった話を夫にしているので、夫はめったに食材を買いに行きませんが、大阪市長の話をしたら、何が問題かをすぐに理解してくれました。

 理解していなくても、奥さんが家族のために行っている家事は、決して軽くてどうでもいいことではなくて、些末なことではなくて、重要なことだと、感謝の気持ちを持っていれば、上から目線で「女性の買いものは時間がかかる」と言うことはなかったのではないでしょうか。

 家事はその人と家族の命を支える大切なことなのです。




 


 

 

 


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