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11. ネギを切り電車に乗る。〜50歳脳卒中で絶賛入院中〜

2022年7月6日49歳の時に脳卒中で倒れ、1週間後めでたく50歳に。
倒れた日の顛末はこちら↓

ネギを切る

退院が近くなると、退院後に困らないようより実践的な訓練が増えていく。
基本的には患者の希望によって行われるのだが、例えば作業療法だったら料理や化粧など、理学療法だったら電車に乗る、スーパーで買い物をするなどを行う。

わたしの場合、右麻痺で右手がうまく使えないので、包丁を握って料理をすることができるか不安だということで、リハビリの時間に包丁を使って長ネギを切らせてもらった。

久しぶりに握る包丁。思ったよりも緊張感や違和感はない。
左手で長ネギを押さえ、右手に持った包丁で切っていくと、懐かしい感覚に嬉しさが込み上げる。毎日主婦として料理をしていた時は、正直献立を考えるのも面倒だったり、仕事で疲れて帰ってから料理をするのが億劫だったりもした。でも入院して全く包丁の握れなかった7ヶ月を過ごし、やっぱり誰かのために料理をすることを欲している自分に気づいた。

早く帰って、子どもたちの好きな料理を作ってあげたい。倒れる前に比べたら、何倍も時間がかるだろうし、要領も悪くなっているだろう。右手が麻痺している分、色々工夫も必要だろう。自分だけのためだったら諦めているかもしれないが、やはり子どもの存在はわたしに勇気とやる気をくれる。

駅の階段上り下り

理学療法(脚のリハビリ)では、電車に乗る訓練もした。
最初は病院最寄りの地下鉄の駅まで行き、階段を降りたり登ったりする訓練。階段も右側通行か左側通行かで勝手が違う。駅の階段は基本的に手すりがあるが、手すりがない場合は杖で上り下りが必要になるので、手すりのあるなしも重要だ。

手すりがある左側通行の場合、左手で手すりを持ち、杖は右手(杖はつかず手に持つだけ)。右麻痺のわたしにとって一番安定して上り下りができるパターンだ。

手すりがある右側通行の場合、麻痺のある右手で手すりを持たなければならない。麻痺のある脚だけでなく手も気にしながらの上り下りになるので、緊張する。ペースも左側通行よりもだいぶ落ちる。

ちなみに階段は下りの方が苦手だ。これは倒れる前で今始まったことではない。昔階段から落ちた経験があり、以来トラウマで下りの階段には苦手意識がある。

一番緊張するのは、手すりのない階段を杖を使って降りるパターン。今でこそ日々のリハビリでだいぶマシになったが、最初の頃は腰が引けて逆に落ちそうになり療法士さんに苦笑された。

改札で事件が起きた。

電車に乗る訓練もした。病院の最寄駅からまずは地下鉄に乗る。
改札でPASMOをかざすのに、どっちの手で持ってかざすのがいいのか?まずはそこからだった。麻痺した右手ではPASMOを上手く持てないかもしれない。さらに自動改札にちゃんとかざすことができるのかも不安だ。
かと言って左手に持ってだと、届くのかわからない。とりあえず両方試してみることに。

まずは右手で持って…意を決してPASMOをかざした瞬間、ピンポーンという音と共に改札が閉まった。やっぱりダメだったか!!と思ったが、そうではなく「出場記録がありません」とのエラーメッセージが。

あーーーーー!そうかーーーーー!
7月6日地下鉄に乗ったわたしは、家の最寄駅のホームまで辿り着いたが、そこで力尽き倒れた。そのまま救急車で運ばれたため、入場記録はあるが出場記録はない。半年前のあの日のまま、時間の止まったPASMO。なんだか感慨深い。

駅員さんに事情を話して解除してもらい、改めて入場からやり直し。今度は左手にPASMOを持ちかざすことに。左手でも十分届き、無事改札を通ることができた。やはり左手の方が安定感と安心感がある。ただし杖は右手に持ち替えなければいけないので、まあ一長一短ではあるが…。

電車に乗る訓練

無事改札を抜けて、まずは地下鉄に乗る訓練。病院の場所は自宅最寄駅から一駅なので、駅も当然馴染みがある場所。しかし倒れる前とは全く勝手が違った。階段の上り下り同様、以前は当たり前にできたことが大きなハードルになる。

電車とホームとの隙間、段差は足の不自由なわたしにとって恐怖だし、早く動けないので時間内に乗れるのか心配だった。何より周りの人に迷惑がかかるんじゃないかとドキドキした。しかしその日は幸い日曜の午後だったのもあり、あまり混雑もしていなかったし地下鉄の乗り降りはなんとかスムーズにできた。

2駅だがガラガラだったので座ることに。優先席に座る。今までだったら決して座ることのない席。障害者になったんだなぁと…実感し複雑な気持ちになった。

今日はガラガラだけど、揺れている電車で人と人の間の席に座る場合などはまた違いますから。療法士さんに言われて、なるほどと思う。人にぶつからないように、転ばないで座る自信がない汗。うーん、慣れなんだろうけど、色々と経験するしかないんだな…。

世知辛い世の中を経験する。

2駅乗って地下鉄を降り、別の地下鉄に乗り換える。
ここまではなんとかスムーズにことが進み、次はJRに乗り換えてみましょうということに。

JRのホームは地上にある。地下鉄から階段を登り、地上ホームへ。さっきまでの静寂が嘘のように、JRはホームにもそこそこ人がいた。人がいなくて乗り降りもスムーズにいった地下鉄とは違い、乗る人も多い。

ドアが開き、降りる人がいないと思って乗り込むと、車内の奥の方から現れた女性が降りようとしている。
あーーーーすみません!!!
が、咄嗟にホームに戻ることができず、体で避けるのが精一杯だった。急な方向転換やバックができないんです…ぴえん。

気を取り直して、車内に進む。座席は埋まっており、イベント帰りなのかほとんどが若い女性だった。そしてほとんどがおしゃべりに夢中か、スマホをいじっていた。気づいているのかいないのか、杖を手に持って吊革に捕まっているわたしの方を見る人はいない。

わたしももし席を譲られても譲られること自体に慣れていないし、まあ一駅だからいいんだけどね。いいんだけど…しかし世知辛い世の中だよ。と療法士さんと目を合わせ、思わずため息をついた。

退院まであと4日

わたしがこのnoteを書くきっかけになったのは、Twitterに入院生活を投稿していたのを見ていたフォロワーさんの一言から。今まで知らなかったことばかりだから、文章化した方がいいと。(Twitterは現在鍵アカ)

そして、自分が知りたい患者のリアルが案外少なかったから。わたしぐらいの年代で脳卒中になる人が、そもそも全体に占める割合が少ないのだろうけど。詳細に発信している人、そして発信を続けている人が少なかった。
同じ病気でも症状も後遺症も人によって全然違うけど、それでもいつか誰かの何かのお役に立てれば。

これを仕上げているのが2月6日月曜日の夜なので、退院まであと4日となった。退院日の金曜日は朝ご飯を食べたら退院してしまうので、実質あと3日。

書きたいことはたくさんあるが、〜50歳脳卒中で絶賛入院中〜のタイトルで書くのはこれが最後かもね。もはやわたしの入院&リハビリ記録に需要があるのかわからないけど、退院後も続ける所存なのでよろしく!


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