見出し画像

【乙庭植物図鑑】2023112 ルス ティフィナ ‘タイガーアイズ’

【テクスチャーの面白い冬枝素材】

今日は、滅多に入荷しない珍しい樹木がひさびさに入荷し、その面白い冬枝に改めて良い刺激をもらいました。

ルス ティフィナ ‘タイガーアイズ’ (Rhus typhina 'Tigar Eyes') という、北アメリカ北東部原産のウルシ科の樹木 ルス ティフィナ の黄金葉品種です。

ルス ティフィナは、英名 staghorn sumac(staghornは「鹿角状の」、sumacは「ウルシ」)とも呼ばれ、落葉期の葉が落ちた枝の様子がビロード状の短毛に覆われたずんぐり太めの質感で、それをトナカイのツノに例えて、英語圏ではそのように呼ばれているようです。

日本ではとても珍しい樹種ですが、耐寒性も耐暑性もあり、日本の気候環境でも育てやすい、そして多様な観賞価値のあるたいへん乙庭好みの樹種です。

以前、隣の高崎市に店舗を構えていたときは、基本種のルス ティフィナを店頭見本植栽で育てていました。

ルス ティフィナの開花風景。 黄金オニユリ(Lilium lancifolium var. flaviflorum)の花と

基本種のティフィナでさえも当時の日本では本当に入手困難なレア種でした。今回入荷した黄金葉品種 ‘タイガーアイズ’ は、さらに上を行く、2010年代の日本国内だったらほぼ手に入らないほど珍しく、そしてカラーリーフプランツ好きには垂涎の的の品種でした。

そんなルス ‘タイガーアイズ’ でさえも手に入るようになったわけですから、今日の日本の園芸環境は材料入手の観点でいえばほぼ「手に入らないものはない」に近い状況といえるでしょう。

これからの日本の園芸は、素材の珍しさではもう差が付けにくい時代(お金のかけようによってはまだ差が付けられるが財力の消耗戦)で、あらゆる植物の中から「何を選び、どう組み合わせるか」によって差別化が図られる時代なのかなと思います。

ルス ティフィナは、怪鳥の翼のように大きく展開するダイナミックな羽状複葉や夏に咲くダークレッドのモール状質感の花序、そして秋のオレンジ〜コーラルレッド色の紅葉など、季節変化がとても美しく、季節ごとに多様な見どころを提供してくれる樹木です。

実は、昨今話題に上ることが多いキーワード「ナチュラリスティックプランティング」の分野でも、ルスは通な園芸家がここぞという見どころで使う素材でもあります。
ピート・アウドルフ氏が宿根草植栽の背景にルス ティフィナを好んで使用することを知る人は日本ではまだ意外と少ないかもしれませんね。

また ルス ティフィナは、海外でも主に「紅葉が美しい樹木」として園芸書などに紹介されることが多いですが、このトナカイのツノ的なビロード毛の生えた冬枝も他にはなかなかない質感で、とても面白いと思います。そしてこの枝のテクスチャーの観賞価値について言及している図書はほぼないです。

この短毛が逆光に輝く様も美しいですし、サンゴミズキの仲間などメジャーな冬モノの色枝品種とも全く違う観賞価値を提供してくれます。
こういった素材をなにげなく植えてあるお庭って「なんだか底知れない見識の深さを感じるなー」と、植物に詳しい人ほど気づいてくれるので、珍しさというよりは「この植物の個性や見どころをどれだけよく知り、組み合わせの中で活かせるか」というところで勝負できれば、他者と差別化が図れる素晴らしい素材と思います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?