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【乙庭植物図鑑】20230120 ビゲロウィア ヌッタリィ (Bigelowia nuttallii)

これまで、著書や歴代ブログやwebメディアなど、さまざまな媒体に植物の解説を書いてきましたが、結構情報が散逸している状態になってきたので、マイペースではありますが、note.に私の植物や植栽に関する知識をまとめていきたいと思います(ライフワークにできたらいいな😊)。

今日は、小型のグラスや乾燥地に適応した多肉植物を思わせるような、ありそうでなかなかない草姿や、夏に咲く地味だけどなにげに可愛らしく目立つ花や、ナチュラリスティックな植栽の冬景色でも絶好の見どころになるシードヘッドの姿まで、どこをとっても乙庭好みでたいへん気に入っている新感覚な宿根草、ビゲロウィア ヌッタリィ を紹介します。

撮影:2023年8月16日 5分咲きくらいの状態

ビゲロウィア ヌッタリィはアメリカ南部、ジョージア州・テキサス州などの一部地域に点在して自生が見られる小型のキク科の冬季落葉性の宿根草です。

春から開花期の夏までは草丈5〜10cm程度に糸状の細葉を地側に茂らせ、小型のグラスのようなマウンド状の草姿を呈します。

夏〜秋にかけて高さ25〜30cm程度花茎を伸ばして、オミナエシの花をより繊細にしたような鮮黄色の花を、小型の基部に対してとても大きなバランスで咲かせます。葉が短く地側に展開するので、開花時は遠目には葉がまったく目立たず、エアリーな黄色いクラウド状のボリュームを低い位置に形成し、宿根草植栽の中でも、他にあまり類を見ないデザイン性を発揮してくれます。

撮影:2023年8月23日 ほぼ満開の状態

花茎上部にたくさんつく小さな頭状花序は、上写真が開花している状態で、これ以上に花弁が開いたような様子にはなりません。

ひとつひとつの花序の咲き方としては、花が開かずツボミのような見た目で黄色みが鮮やかになっていくだけな感じで、なんだか地味なようにも思うのですが、他の植物ではこのような味合いのものというのは他にあまりありません。

つまり「この植物にしかない個性」・「なんだか不思議・珍しい雰囲気」こそが、本種の「新感覚でレアな」素晴らしい観賞価値だと乙庭では評価しています。

花茎が現れるまでの春〜初夏までは糸状の細葉を地際にロゼット状の茂らせフェスツカなど北アメリカ乾燥地原産の小型グラスを連想させるような草姿を呈します。

キク科の植物のイメージからとてもかけ離れた雰囲気があり、そのイメージギャップも面白いです。

夏〜初秋にかけて、30cm程度の花茎を伸ばしてたとえていうならオミナエシの花を繊細に・細くしたような鮮黄色の花を咲かせます。

夏咲きの宿根草は、ヘリアンサス(ヒマワリの仲間)やユーパトリウムなど、比較的がっしりと太く丈夫な花茎を立ち上げるものが多いので、本種 ビゲロウィア ヌッタリィ のような細く繊細なつくりの花は、小さくても個性が際立ってなにげに目立ちます。

原生地では栄養価の低い痩せた土壌に生息しており、湿地のような場所や、一方で
岩場など乾燥した場所にも見られます。

概して「痩せた土壌のやや厳しい環境」に適応して進化した特有の形状ともいえるのかもしれませんが、本種の外観は、日本の伝統園芸でも珍重されたマツバラン(Psilotum nudum)や南米原産の森林系着生サボテンのひとつ ハティオラ サリコルニオイデス(Hatiora salicornioides)といった、同様に貧栄養の厳しい環境に生きる全く別の植物にも類似した表情を感じ取ることができます。

参考写真 マツバラン(Psilotum nudum)


参考写真  ハティオラ サリコルニオイデス(Hatiora salicornioides)


本種 ビゲロウィア ヌッタリィは、たとえば原産地域を関連づけてエキナセアなどの北米乾燥地域原産の夏咲き宿根草と組み合わせてナチュラリスティックな植栽構成をしつつも、デザイン性としてマツバランやハティオラのような不思議な造形や
江戸伝統園芸や、熱帯着生植物へのイメージといった植栽ボキャブラリーの広がりも表現することができます。

撮影:2024年1月15日

また、本種は冬までドライになって残るシードヘッドの姿もオーナメンタルに楽しめ、いわゆる「ナチュラリスティック」な植栽の素材としてもたいへん面白いでしょう。

本記事を書いている2024年時点では、ビゲロウィア ヌッタリィを見どころに用いたナチュラリスティックプランティングの植栽実例を私は他所で見たことはないので、植栽素材としては世界的にも先駆的ではないかと思います。

また、「痩せて乾燥したアメリカ南部原産」という本種の出自から読み解いて、「アガベ + ユッカ + 金鯱 or 柱サボテン!以上。」と一辺倒で個性や変化に乏しいデザインに陥りやすい乾燥地系の植栽にビゲロウィア ヌッタリィ などの落葉性で季節の花を楽しめる乾燥地系宿根草を加えることで、オリジナリティと季節変化を加えるのも一興でしょう。

世界的に見るとたいへん珍しい植物ですが、乾燥にも強く、耐暑性・耐寒性もあり、性質丈夫で日本でも育てやすいです。

乾燥地的な見た目や花の美しさ・野生種らしい飾らないワイルドさがあり、
かつオーナメンタルな造形美もあり、植栽素材としてもたいへん面白く、
乙庭でもとてもお気に入りの植物です。

アガベやユッカなどとも原産地の気候環境が似ているので、ドライガーデンの野生みのある花もの素材として織り交ぜても雰囲気いいですし、あるいは乾燥ぎみの日向の宿根草植栽の前景グランドカバーにしても面白いでしょう。


■ ビゲロウィア ヌッタリィ
■ 学名 : Bigelowia nuttallii
■ キク科 耐寒性宿根草 (冬季落葉性)
■ 花期 : 夏〜初秋(シードヘッドを冬まで楽しめる)
■ 草丈 : 30cm程度
■ 耐寒性 : 強い
■ 耐暑性 : 強い
■ 原産地 : アメリカ南部


最後に私 太田敦雄の著作や掲載誌をいくつかご紹介します。
2024年1月16日発売(本記事執筆時点では発売前)のガーデニング雑誌「Garden&Garden vol.88 (Spring 2024)」。
巻頭特集「風景ガーデニング」にて、私 太田敦雄 / ACID NATURE 乙庭 を8ページにわたり掲載いただいています。私の設計案件の中でもこれまで一般誌で解説紹介していない2つの住宅を実例に写真豊富に、自分が思い描く植栽風景を形にしていく思考のコツなどについて解説しています。私のページ以外も人気ガーデナー、ガーデンデザイナーさんの多様な植栽事例をお楽しみいただけます。


私と、おぎはら植物園の荻原範雄さん、フローラ黒田園芸の黒田健太郎さん・和義さんご兄弟との共著作「グリーントータルプランツブック」。前半の1/3を私が執筆担当しており、実例も交えた植栽論と植物の解説をしています。


私の最初の著作本「刺激的・ガーデンプランツブック」は、出版社のご都合で現在絶版となっていますが、この本に書いた内容も含めて、今後の出版物に盛り込んで、なんらかの形で情報としてこれからも手に入るようにはしていきたいと思っています。


noteの「乙庭植物図鑑」では、これまでの著書では解説していない植物も積極的に取り上げていく予定です。
自分だけの特別なお庭造りの参考になれば幸いです😊✨




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