見出し画像

あの頃へ…10…トマト

覚えたての自転車で近所を散策。
まだ、カーブは苦手。
大好きな道がある。右手に小粒の赤い実をつけたサンゴ樹の垣根が長く続き、下には砂底が見える綺麗な小川。

少し先の角を曲がると、一面にトマト畑が見えてくる。
近所のおばちゃんが私の名を呼ぶ声がする。自転車をよろよろと停めて振り返ると、日に焼けたおばちゃんの笑顔。
「どこに行くの?」と話しかけながら、手招きしている。

駆け出してそばに行くと、熟した実を探しながら、トマトをひとつもいでくれた。
エプロンでごしごしとふきとると、「味見してみて」と差し出してくれた。深いしわが刻まれた指先には土がついている。畑仕事をしているごわごわの手が、私は大好きだった。

少し青臭さがある熟したトマト。ひと口頬張ると、滑らかで張りがある皮、したたる果汁と食感。子どもながらに「おいしいー、100点」と、親指を立てて「いいね」のリアクションをしていた。
この時に食べた美味しいトマトに、まだ一度も出会ったことがない。