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日記のようななにか 2023/9/1~9/10

「日記のようななにか」というシリーズを始めてみた。基本的にはその日の出来事や考えたことを書く「日記」に似ているが、積極的にうそや妄想を盛り込んでいくことで別の世界と繋げている。本当のことしかかかない日もある。だから「ようななにか」なのである。

2023年9月1日

今日はどこにも行かなかった。一日中外に出かけることを考えながらインターネットを見て過ごした。この窓の景色は飽きないし、最後のひと葉も落ちることはない。永遠に見ていられそうだ。

9月1日は友人の誕生日が二つあり、友人の命日が一つある。歴史的な大きな出来事と記憶にリンクしてしまったため歴史が語られるたびに生まれた人としんだ人のことを思い出してしまう。あれからもう、ちょうど、同じだけの時間が経ったのか。年齢があのときの君の二倍になったよ。最後にくれた封書は同窓会の案内で、君の字で「会えるのを楽しみにしています」と書いてあった。

2023年9月2日

明日のイベントのために準備をする。大きなキャリーバッグはスペースがたくさんあるのが長所だが、詰め込みすぎると動かなくなるので適度に空間を開けておかなければならない。売れたらいいなという気持ちを丸めて30個隙間につめる。準備で汗だくになり、荷物に汗が垂れないように気を付ける必要もある。

夜遅く、これから続くイベントのために髪の毛を切りに行く。だいぶ見た目は整えられただろう。

帰り道、見上げると電柱に大きな二つの目を持った生き物がいた。私のことを見下ろしていることに気づき立ち止まった。「ああ、朝になったら消える生き物だ。写真に撮っておきたい気もするが、何か別のものとして写るだけだろう」

私はカバンからカメラを取り出さず、家へ帰った。

2023年9月3日

今日はコミティア。
ここで毎回会うのが楽しみなひと、普段ネットでやり取りしているひと、たまたま通りがかったひとなどとたくさん交流した。すべてが楽しかった。曇りなく「いい日だったなあ」と思える日も珍しい。

閉会後、会場の片づけを手伝った。机を10本は畳みたいと思って手伝い始めたところ、まず最初の長机をひっくり返して脚をたたむと天板の裏側に異世界への入り口が現れた。誘われるように中に入ってみれば、そこは見えるものがみな餅菓子でできた楽園だった。たらふく食べて帰ってきても時間は畳んだ時間ぐらいしか過ぎていないらしい。

次の長机の裏側にも入口があり、中には大きなハトがたくさんいてモフモフさせてくれた。次も次も私の大好きな世界が広がっていて、調子に乗って机をたたんでいたらいつのまにか12本も畳んでいることにきがつき、私は異世界遊びをやめてサークルアンケートを提出して帰った。

帰りの電車の車窓から見える空はどことなく現実感がなく、ちゃんと自分が自分の世界に帰ってこれているか少し不安になってしまった。

2023年9月4日

金……金……と一日お金のことを考えた。一番近そうな金策をほっぽり出して遠いところから始めてしまうのが私の悪い癖で、古いポスターの整理などをしていた。それはそれで発見もあったので良いが「なんか違うな」と少し後悔した。

夕飯は好物の餃子を作った。肉と玉ねぎと漢字を詰めた。「餃子に漢字を詰めるとその漢字を忘れてしまう」という噂を試してみたかったからだ。
ひとつひとつ頭に漢字を思い浮かべ、くちにも出しながら漢字を餃子に埋め込んで20個焼いた。シンプルなあじ付けで、自ぶんで作っただけあって大へんわたしごのみのぎょう子になっていたのでまん足した。

埋めこんだ漢じを忘れてしまったかどうかためしてみたかったのだが、どうしても何を選んだか思い出せないのだ。
普だん使う漢じでなければよいのだが。これまたすこしこう悔した。

2023年9月5日

作ってる動画のオープニング部分をつくった。一緒にやってる人に見せたら「めっちゃいい」と言われたのでよかった。あとはエンディングを作ろう。ちょっと曲をリッチにアレンジしちゃうぞ……でもその前に散歩に行こうか……? などと考えていたがどうも気がのらない。

そうこうしているうちにおなかが痛くなってきた。この予感があって外出する気にならなかったんだろうな。

こういう時はカプセルに入るに限る。しばしば腹痛があるので、組合から貸し出されている腹痛解除カプセルに入って横になることにしている。目を閉じて横たわれば時間の経過が痛みを軽減してくれる。

そもそもねじのかみ合わせが悪くなっているのだから、超音波で少しずつずらしていく必要がある。
生超音波は無害だが聴いてても気持ちの良いものではないので、つまみを調整して好きなジャンルの音楽に変える。

副作用は眠くなってしまうことだ。まだ動画のための作業をやりたいのに、腰も痛くて座っていられないからカプセルで治癒するしかない……

そして30分以上眠ってしまった。

2023年9月6日

旅行の荷物を作っていた。
着替え、身だしなみ、化粧品などキャリーケースに詰めたらもうパンパンになってしまった。これでは「コンテンツ」をほとんど詰めることができないじゃないか。

コンテンツは重要だ。旅はコンテンツを眺めるためにするようなものだ。私は球状の記憶媒体をひもでつないで作った腕輪を3つ持っていこうとしている。これがなけなしの「コンテンツ」たちだ。ヒトタマあたり映画が10本収録されているし、書籍が収録された球はヒトタマに3000冊分入っている。ほぼ私の蔵書の10分の1だ。

飛行機の窓も列車の窓も全部スクリーンにしてそこへコンテンツを映し出すつもりだ。積んでいた本もようやく読める予感がする。

それにしても今回の旅行は初めて行く場所だ。どんな場所なのか今からワクワクしているのである。

2023年9月7日

今日から旅が始まった。北海道は初めてだ。実は一人で旅するだけではなく明日からはなんと40人が集まるのだが……旅の詳細はおいおい綴っていくとしよう。

私は飛行機といえば0歳の頃からずっと沖縄に行くために乗ってきた。今日は初めて北に向かって飛行機に乗り、日本列島でこれまでの最北記録だった石巻を超えて北海道まで来てしまった。

海の上を飛ぶことには慣れていても、ずっと陸地が見える状態で飛行機に乗るのは初めてで不思議な気持ちだった。
街を見下ろしていると「ああ、今ここで落ちたら大変なことだ」という考えが頭をよぎった。翼をあのふわふわが覆っているうちは大丈夫とわかっているのに。

海岸線に風力発電の風車が見える。青森じゃないか?もう本州の端っこまで来たんだ。
あっという間だったな。もう少し飛行機に乗っていたい気持ちでサービスのドリンクを飲み干した。

空港に着く少し手前で窓から見える翼の一部が開いて、そこからふわふわと役目を終えたものたちが出てきた。君たちのおかげで無事に辿りつけるよ。帰りの便でもよろしくね。

飛行機から見た陸地

2023年9月8日

合宿に参加。約40人と一緒にバーベキューをやる。

概念も焼く。BBQといえば概念焼きだ。マシュマロも相当概念に近いのだが今回はマシュマロは買ってあったのに焼かなかったのでより概念に近いものになった気がする。

焼けるまでは食べられないところも不確定要素が強い。焼き終わるまでは食べられないもの、焼き終えたら食べられるもの、焼きすぎてもまた食べられないものになり、それは燃料になるわけでもなく、一体何になったと言えるのだろうか?
ちゃんと食べられる状態という限られた条件の範囲に収まるのだろうか?

食べられないほど焼かれて炭化した食材は一体何に成り果てたというのだろうか。

ハイボール2缶とほろ酔いを飲んだ私はそんなことをつらつら考えてしまうのである。全くまとまらない。

2023年9月9日

麻雀をしている。
正しくは麻雀を打っているのではなく、隣で打っているのを見ているところだ。
麻雀というゲームを知らない人に向けて紹介すると、絵柄の描いてある牌をハイパイという生き物が運んでいく速さを競うゲームだ。

なるべく揃えて置いておくことで、生き物は牌を運びやすくなるし、その分早く運べるようになるので勝ちやすくなる。運び終えた生き物たちの達成感を感じるのを重要視している。
今日も生き物の生き生きした姿を見ることができてとても充実したゲームになったと思う。

2023年9月10日

一人で旅をしている。
4泊5日のまとまった日程の旅だ。一人旅は寂しいんじゃないかと思われそうだがそんなことはない。

それに、実際のところ一人旅ではないとも言える。私はこの手に持った黒い板の中に友人を300人ほど連れて歩いている。
何を見ても食べても、横にいる友人に話しかけるようにその板に打ち込めば、画面の向こう側の友人に届いてリアクションをもらえる。いいものを見た時も美味しいものを食べた時もシェアして、一緒に過ごしてもらっているのだ。

2日目から4日目までは、板の中にいる友人たちの中から40人ほどが出てきて一緒に過ごした。各々「本体」と言える板を片時も放すことなく持ち歩いて、でもリアルにもやり取りした。4日目は最後に一本締めの合図があって、全員元の板の中へ戻って行った。板の中ではみんな「楽しかったね」「ちょっと寂しいね」と口々に言うのだ。

一人に戻った私はまた300人を連れて歩く。見たものをシェアし、みんなの話も聞いて話題に乗ったりする。

楽しかったよ、明日帰るよ。一緒に旅してくれてありがとう。また行こうね。


ゆうやけ


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