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生き物が作る家 ~誰かに教わったわけでもないのに、上手に作り上げる。 生き物たちの家にはたくさんの工夫が詰まっていました。

サイエンスライター&イラストレーターの北村雄一さんが、生き物の家についてイラスト付きで紹介します。
(エース2021年秋号特集「すまいのかたち」より)

材料は枝、泥、わら、紙

 人は家を作り、動物も家を作ります。人と動物の家。どちらも基本は同じ。人の初期の家は、雨風をしのぐためのもので、木の枝などを組み合わせたものでした。木の枝で作るというと、例えばビーバーの巣がそれです。人は身を守るために家の周囲に囲いを作りますが、ビーバーも寝床を木で覆い、さらにはダムを作って、水をためて敵の侵入を防ぐのです。

 鳥の巣も木の枝を集めて作られます。あるいはツバメの巣のように、泥にわらを混ぜて作られる巣もあります。日本人も泥にわらを混ぜて土壁を作りました。人もツバメも、土だけではもろいので、わらを混ぜることで土壁を砕けにくくするのです。

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人家の軒先に作られたツバメの巣の断面。直径は13㎝、深さは2.5㎝ほど。泥にわらや植物を混ぜて作る。

 あるいは紙で家を作る場合もあります。日本人はガラスの代わりに、紙の障子で明かりを取り入れました。明かり取りが目的ではありませんが、アシナガバチも紙で家を作ります。紙は植物の繊維を砕いて水に溶き、薄く伸ばして乾かしたもの。アシナガバチも木材をかじって繊維を集め、唾液と混ぜてどろどろにして、薄く伸ばして巣を作るのです。

 スズメバチはもっと大きな紙の巣を作ります。とはいえ、冬眠から目覚めたたった1匹の女王蜂から巣作りが始まるので、最初の巣は小さい。しかしハチの数が増えると建て直しをします。手狭になった家から離れ、ここはという場所に数百匹のハチがやってきて、一気に新居を作る。軒先に突然、「スズメバチの巣が出来た!」 と皆が慌てるのはこれが原因です。
 スズメバチの巣は子どもを育てる部屋の周りを紙の壁で囲った丸い形をしています。しま模様になっているのは色々な木材を集めた結果といわれています。使った素材が違うので、色が変わってしまうのです。

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春先に女王スズメバチが作った巣の断面。子どもの部屋の周りを何層もあ
る紙の包みで覆う。

メスを魅了するための建築

 建築自慢をする鳥もいます。東南アジアに住んでいるチャイロニワシドリは人間の子どもなら入れそうな小屋を作ります。最初に見つけた人は、「小人が作ったのだろうか?」と思ったそうです。実はこれ、巣ではなくて求愛の道具です。立派な建物を作ったオスほどモテる。そこでオスたちは小屋を競って作り、さらには色とりどりのキノコや果物や花で小屋を飾るのです。

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ニューギニア島の高い山に住むチャイロニワシドリが作る建築物。

 チャイロニワシドリの小屋は生存には役立ちません。まったくの無駄です。しかしこの無駄を達成できることこそ優秀さの証でありました。無駄を維持できるというのは体力がある証拠。今、私たちは無駄を省いて合理化しよう合理化しようと連呼しています。しかし合理化すればするほど貧乏になっている。それはそうでしょう。無駄こそが付加価値であり、付加価値こ
そが富なのですから。

 実際、ただ合理的な家で良いのなら、全部同じ家で良かった。飾りも美しさもそこにはなかったでありましょう。合理だけに満足せずに進んだからこそ、人もチャイロニワシドリも見事な建築を作ったのです。ここには、豊かで美しい家を作るヒントがあるのです。


文&絵:北村雄一さん(きたむら・ゆういち)
サイエンスライター&イラストレーター。日本大学農獣医学部(現生物資源科学部)卒業。進化、深海、古生物など幅広く手掛ける。『ダーウィン『種の起源』を読む』で科学ジャーナリスト大賞2009を受賞。『深海生物ファイル』『発見!? 宇宙生物』『絵でわかる古生物学』『ダイオウイカvs.マッコウクジラ』など、著書多数。

出典:北村雄一『生きものお宅拝見!』(保育社)


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