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地球転生前の記憶(前編)

安井さんは、つい先日、40年以上勤務した石油化学メーカーを定年退職したばかりだった。海外での単身勤務も経験し、重責を勤め上げ、ようやく解放された気分を楽しんでいるようだった。
加えて、息子さんの結婚式が来週に控えているということで、子育てからも解放され、人生の第一幕を順風満帆に終えようとしていた。かといって、態度は常に低姿勢で話し方も謙虚そのものだった。
数年もすると自分もこうなるのか・・と思うと、憧れと親近感がわいた。

安井さんが人生の第2幕としてセラピスト(心理療法士)を選んだ理由は分からない。かつて技術屋としての一領域を極めた人が、セラピストになるのは、今の日本では異色かもしれないが、私は不自然には思わなかった。
でも何か、深い理由はあったと思う。聞いて見たい気はあったが、そこまで踏み込むのはまだ早いと思い、その場はやりすごした。

安井さんは、セラピストとしてはまだ不慣れだったが、40年以上会社勤めしていた経験は、地に足が着いている感があり、催眠誘導、問いかけ、確認、間の取り方など、実直且つ確実さが感じられた。
また、辛苦を経験したであろうこの人なら、何でも話せるかと感じた。  だが、その感覚が今回の催眠に影響することになろうとは・・。

安井さんに導かれ、私は深い催眠に入った。そして前世の世界に入ろうとした時、いつもと違う何かを感じた。今思うと、そこは、“次元が違う”場所だった。出てきたイメージは、地球で見られるものとはほど遠く、さながら スターウォーズの一場面のようなものだった。
私は宇宙船の管制室にいて、眼前に迫る巨大な恒星を凝視していた。驚異的な光景だった。

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私はその状態を素直に伝えられず、つたない言葉で断片的に話したので、安井さんは、しばらくの間、何が起こっているのかわからなかったと思う。それでも安井さんは誘導を続けてくれた。

私は、太陽系ではない別の恒星系の惑星の住人、つまりは「宇宙人」だったのだ。宇宙人といっても、見た目は地球人の白人によく似ていて、体は引き締まっていて大柄、端正な顔立ちをしている。周りを見ると、誰もがそうだった。理性的で喜怒哀楽がない。喜怒哀楽がないのは、感情をあらわにする必要がないからのようだ。誰もが相手を気遣い、傷つけ合うことはない。 争いもない。そんな世界に住んでいる。

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それは、高次元の存在であり、私が普段「ハイヤーセルフ」と呼んでいる 存在なのかもしれない。
私は、もしや今回、自分のハイヤーセルフを体験しようとしているのか、 と思うと動揺した。同時に、心のどこかで、覚悟していた気もしていた。  ついにベールを取り、奥へ進む時がきたか・・と。

しかし問題は、この状況を他人に話すには、私の表現力が決定手的に不足していたことだった。だが、安井さんは根気よく続けてくれた。

やがて、恒星の名前は「アルファ」、惑星の名前は「イリウス」、そして私の名前は「ミネバ」という男性であることがわかった。惑星イリウスでの生活場面が出てきた。イリウスは高度に発達した文明を持っており、無数の宇宙船や宇宙ステーションが惑星を周回していた。住居は大施設の中にあり、家族単位で快適に生活していた。全てが人工的に創造、制御され、無駄なものは何一つないかのように見えた。

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家族の会話はとても穏やかな雰囲気だったが、話しの内容は壮大だった。 あの惑星が消滅したとか、あの惑星は危険だとか・・。          そして話は、この過去世で最も重要な問題に及んだ。

恒星アルファのフレア(表面爆発)活動が盛んになり、アルファの放つ  高エネルギー粒子により、磁気嵐や通信障害が生じ、近い将来、イリウスはその高度な文明を維持できなくなる、という問題だった。
それをくい止めるため、イリウスの科学者は何年も前からあるプロジェクトを綿密に準備していた。

恒星アルファのフレア活動を制御することが、イリウスの命運をかけた課題だったのだ。

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(つづく)

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