見出し画像

“無駄な時間”の大切さ -コスパ、タイパでは測れないこと-

以前に、アカデミーヒルズのポッドキャストでお話をいただいた谷川嘉浩さん(哲学者)の著書『スマホ時代の哲学 -失われた孤独をめぐる冒険-』に、興味深いことが書かれていました。

私たちは、一定のリズムで繰り返されるインスタントで、わかりやすい感覚やコミュニケーションで自分を取り巻きたがっており、現代の消費環境はそのニーズを支援してくれているわけです。
(中略)
明確で一定のリズムを刻むような刺激からほど遠いものが置き去りにされてしまう事実です。言い換えると、満足を得るにはいろいろと学ぶ必要があるもの、精神的・時間的にコストがかかるものが見向きもされなくなり、前提知識がなくても誰でも乗っかれて「いいね」「すげー!」「かっけー!」と言えるような、直観的に共感されるものが話題にされ、社会の前景を占めていくということです。

『スマホ時代の哲学  失われた孤独を求めて』(p.44-45)

コスパやタイパという言葉に代表されるように、効率性ばかりを重視するあまり、分かりやすい情報を追い求め、そして自分の興味あることしか気に留めない傾向があると思います。

ところで話は変わりますが、
先日アカデミーヒルズではライブラリーメンバーを対象にした新しいイベントをスタートしました。
Library Coffee Talkです。「今注目されている話題をテーマにして、みんなでコーヒーを片手にわいわいと語り合いましょう」というイベントです。
イベントの前半に話題提供していただくスピーカーもメンバーに務めていただきます。

第一回のテーマは「生成AI」でした。スピーカーには義足エンジニアの遠藤謙さんと、宇宙ビジネスベンチャーに勤務する鬼頭佐保子さんに務めていただきました。
AIの専門家ではないお二人が、どのように生成AIを使っているのか、そして生成AIが我々のライフスタイルに与える影響など、日々感じていることをお話しいただきました。そして5~6名のグループに分かれて、メンバー同士が語り合いました。
参加したメンバーの中には、AIのプログラマーやAI関連の起業家がいらっしゃり、ある意味、スピーカーよりも詳しい人も含まれていましたが、専門家もそうではないメンバーも自分自身の視点で、語り合うことができたと思います。

イベント終了後に、あるメンバーから「自分の仕事や興味に直結しないから大切なんだと思いました。今日初めて聞いた言葉や理解できていないことも、頭の片隅に置いておくことで、いつかそれらが何かと繋がって広がるような気がします!」と、感想を述べてくれました。

この感想は、谷川嘉浩さんの著書の引用部分の「満足を得るにはいろいろと学ぶ必要があるもの、精神的・時間的にコストがかかるもの」の大切さを言い当てていると思います。

そして、前出の引用した文章の後に、谷川嘉浩さんは以下のようなことも著されていました。

ビジネス書における教養ブームに言及しながら、哲学者の東浩紀さんが(中略)言っています。
「今、教養を身につけろ、学びが大切だと言っているひとたちのなかには、単にイントロ当てクイズを薦めているひとがいると思います。大事なのは音楽を聴く生活のはずなのに、イントロを聞いたらすぐ曲がわかるような知識の鍛え方をしていて、それが教養だと思っている。(中略)」
昨今の教養ブームにおいて、教養はその場で処理できる程度の刺激や娯楽として位置づけられてしまっているということです。

『スマホ時代の哲学  失われた孤独を求めて』(p.47-48)

この東浩紀さんの例え話は、とても分かりやすいと思います。音楽を聴く生活に至るには、コスパやタイパの視点では無駄なことがたくさん必要だということです。
言い換えると、「いかに無駄なことをするか」が大切なのかもしれないなと思いました。

ところで、上記の東浩紀さんの言葉は、以下からの引用だそうです。


また、谷川嘉浩さんのポッドキャストも是非お聞きください。

アカデミーヒルズ 熊田ふみ子

#アカデミーヒルズ #教養 #谷川嘉浩 #東浩紀 #無駄 #コスパ #タイパ #哲学

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?