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「画期的なトイレットペーパー」 ショートショート

アマゾンで注文していたモノがやっと届いた。画期的なトイレットペーパーが開発されたと聞いてすぐにポチッとしたのだ。ここ最近では珍しく待ち遠しい商品であった。なんせその画期的さは一切報じられないまま販売をスタートさせたのである。その奇抜な販売戦略が功を制するのかどうか一部のマニアからは注目された商品であった。

さっそく包み紙を破って中身を取り出した。時代と逆行して、けっこうな包装で何重にもしている。やっと出てきたのはロール状のひとつのトイレットペーパー。いっけん何の変哲もないように見える。片手で持って重みを確かめたり、匂いを嗅いだりしたが、よく分からない。昨日まで使っていたのとほとんど変わらなく感じる。しかし表面上では分からない画期的な機能が隠されているはずだ。なんせ1個48,500円のトイレットペーパーなのだから。私は大きな期待を持ってトイレのホルダーにセットした。その日は使用する機会はなく眠った。

次の日の朝。

朝食の後、いつものようにお腹がクルクルと鳴って、もよおしてきた。私は便器に腰をかけ用をたした。ふう、今日も快便だ。やはり玄米ごはんと納豆を取り入れたことが効果あったのかな。そんなことを思いながらカラカラとトイレットペーパーをひきだした。そのペーパーには文字が書いてあった。

『一番がっかりする最果ての地ってどこ?』

なにこれ。この質問…。これを考えろってこと?とにかく今は朝だし時間がない。私はそのペーパーを引きちぎってお尻を拭いて流した。

通勤途中にふとあの質問が出てきた。

『一番がっかりする最果ての地ってどこ?』

最果ての地。一番がっかりするところか…。私は電車に揺られながらぼんやりと考えていた。会社についてもふとした瞬間にあの質問が浮かぶ。会議に出てもふとした隙間であの質問。同僚と雑談中の不意な沈黙であの質問。こんなふうに1日中何度も考えた。帰宅中の電車内でも頭をひねったけど、これといってピンとくる答えは浮かばなかった。

次の日の朝。

ふう、今日はちょっとだけコロコロ。ペーパーを引き出すとまた文字が出てきた。

『輪ゴムを使った国家機密ってなに?』

今日もよくわからない質問だ。輪ゴム?国家機密…。また通勤電車や会社で考え続けた。何個か適当に答えを考えてみるも、なんかピンとこない。しかし難しい質問だな。

次の日の朝。今日は快便だった。ペーパーを引き出すとまた文字だ。

『サイコロの中に住んでいる妖精ってなに?』

相変わらず訳が分からない。サイコロに妖精が入ってるの?それがなんの妖精かってこと?また頭をひねったりネットで調べたり、図書館に行ったりしたがどうもピンとする答えが見つけられない。

次の日。今日は診察日だ。月に一回の心療内科。定期的に通院中なのだ。

「調子はどうだね」

医師は聞いてきた。

「すこぶる調子がいいです!」

私は実際よく眠れており、朝もスッキリ起きられるようになっていた。おまけに食事は美味しいし、仕事への意欲も出てきている。

「ほう、それはよかったですな。でもここ2年間ずっと調子が悪くて幻聴や幻覚なんかもあったのに、何か新しい取り組みでも始めたの?」

「いえ、取り組みと言うほどではありませんが。まぁ、なんというか、画期的なトイレットペーパーを買ってから…ですかね」

今回は体調がとても良いということで、クスリを減量して様子をみることになった。いやー、このトイレットペーパーすごい!これがきっと画期的効果なんだと思う。毎朝ペーパーに難題が書いてあり、一日かけてそのことに頭を使う。つまり今まで悩んでいたささいなことを考える余地がなくなっていったのだ。だから心身ともに改善に向かったのだろう。よく考えられた健康商品だ。

スマホにメールが届いた。アマゾンからだ。きっと使ってみてどうですか?みたいなメールだな。どれどれ、

「この度は『画期的なトイレットペーパー』をお買い上げ頂きましたが、まずはお詫び申し上げます。こちらの手違いで普通のトイレットペーパーをお送りしてしまいました。さぞがっかりされたことと存じます。早急に『黒いダイヤといわれているトリュフを織り込んだ画期的なトイレットペーパー』をお送りします。なお誤って届いている普通のトイレットペーパーは宜しければそのままお使いください。この度は大変申し訳ございませんでした」

おわり


*私のエッセイが販売されました。
ご興味ありましたらのぞいてみてください!





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